脳を育てる順番を守ると子育てがラクになる。小児科医・発達脳科学者の成田奈緒子氏が解説

脳を育てる順番を守ると子育てがラクになる。小児科医・発達脳科学者の成田奈緒子氏が解説

2024.02.07

KIDSNA STYLE編集部が選ぶ、子育てや教育に関する話題の最新書籍。今回は、『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP新書)を一部抜粋・再構成してご紹介します。「子育て科学アクシス」代表で、小児科医、発達脳科学者である著者・成田奈緒子氏が「子育ては、脳が育つ順番に沿えばうまくいく」をテーマにした一冊です。

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「子育て=脳育て」?脳には3つの種類があり、正しい順番で脳を育てること

この本でお伝えする子育ては、「脳が育つ順番」に子供を育てることです。脳には、「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」の3つの種類があります。


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からだの脳

「からだの脳」は姿勢の維持・睡眠・食欲・呼吸・情動・性欲などを司る、自律神経をコントロールします。具体的な脳の部位でいうと大脳辺縁系、間脳、脳幹を指します。前述の通り、この3つの部位は生きるうえで必要不可欠な身体機能を担っており、0~5歳頃に育ちます。

からだの脳が成長することで「重力に逆らって立つ」「椅子の上にきちんと座る」といった、人間が必要とするもっとも基本的な身体コントロールも出来るようになるのです。

おりこうさんの脳

「おりこうさんの脳」は、脳の大脳新皮質を言い表し、知能、言語、知覚、情感、微細運動(手先の細やかな動き)などを司る脳です。脳の部位では、大脳新皮質から構成され、6~14歳頃に育ちます。

おりこうさんの脳が育つことで、お勉強、スポーツ、手先が器用、言葉が達者、という成長が見られるようになります。

こころの脳

「こころの脳」は、論理的思考や問題解決能力、想像力、判断力など「人間らしい能力」を司っています。「おりこうさんの脳」の一部である前頭葉と、「からだの脳」をつなぐ神経回路から構成され、10~18歳頃に育ちます。

こころの脳が育つことで、感情や衝動を抑え、じっくり考えることができるようになります。また、自分の気持ちにブレーキをかけられるようになることで、思いやりやコミュニケーション能力なども育ちます。


「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」を順に育てることが、子育ての秘訣となります。

幼少期の教育では、よく「おりこうさんの脳」が司る知能や言語に注目しがちですが、「からだの脳」が育っていなければ、「おりこうさんの脳」もうまく育たないことが、近年の研究で判明しております。

「こころの脳」も「おりこうさんの脳」に知識や情報などがある程度蓄積されなければ、うまく育たないということですね。

 


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私はよく「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」を、建物にたとえてお話ししています。脳が育つ順番に沿わない子育ては「二階を先につくる家づくり」なみに無理のあるやり方だということを、最初に覚えておいてください。


脳を育てるとは神経細胞をつなげること

では、「脳を育てる」とは、具体的にはどうすればいいのでしょうか。それをご説明する前に、まず脳の発達の仕組みについてご説明します。

生まれたての赤ちゃんの未発達な脳と、大人の発達した脳の違いは「神経細胞のつながり」にあります。

脳の発達とは、この神経細胞同士がつながっていくことを言い表します。

人間の脳(大脳皮質)の中には、150~200億ともいわれる、無数の神経細胞があり、実はその数自体は、赤ちゃんも大人も同じなのです。つまり、神経細胞は生まれる前から、脳のなかにすべて備わっているということですね。しかし、神経細胞どうしの「つながり」には、赤ちゃんと大人では雲泥の差があります。

そのため「脳が発達した状態」というのは、脳の中にある200億の神経細胞がすべてつながり合った状態と言えますが、実は、成人に達した人の脳でも、大体半分しかつながっていません。つまり、大人でも神経細胞がさらに変化する可能性が残されています。この「変化可能な性質」のことを、可塑性(かそせい)と言います。

人間の脳は、死ぬまで発達を続けることがわかっていますが、可塑性がもっとも高いのはやはり、生まれてから5年間の乳幼児期。そのため、子育てにおいてはこの時期が一番の「力の入れどき」です。

神経細胞どうしをつなげるのに必要なこと、それは「五感」への刺激です。そして五感への刺激のなかでもとりわけ大切なのが、視覚刺激です。朝、日の光をしっかり浴びること。夜は真っ暗にして、光刺激がない状態にすること。これで、朝起きて夜寝るという、昼行性の生物である人間の生活の「基盤」が整います。

「からだの脳」の育て方

からだの脳は、生命を維持するための脳です。「命を保つ」という、生物として不可欠な力をつけること。これが子育てにおける、最初にして最重要のミッションです。「からだの脳」の育て方は「生活リズムをつくる」こと。この一点に尽きます。

「早起きをする、規則正しく食べる、早く寝る」をひたすら繰り返す

「からだの脳」を育てるための具体的な方法は、夜8時になったら眠くなる状態をつくる。ただそれだけです。乳幼児期の子育てにそれ以外の努力はなにひとついりません。「たったそれだけ?」と、物足りなげな方は、考えてみてください。「それだけ」のことが、きちんとできているでしょうか。

そもそも子供は、大人よりも多くの睡眠を必要とします。生まれたばかりの子供は16時間以上、1~3歳ごろは12時間が昼寝を含めて必要です。5歳ごろになると昼寝がなくなるので、11時間の夜間連続睡眠が求められているのです。

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子どもを早く寝かせるには、「早く起こす」ことから始めるのが正しい方法です。そして、昼寝を1時間程度に抑え、夜の光刺激を少なくする、お風呂は1時間以上前に済ませる、これらの流れを例外なく毎日繰り返すことで、早寝早起きの生活リズムを作っていきましょう。

また、からだの脳をつくるためには食事のリズムを整えることも大切です。「うちの子は食べてくれない」という人もいますが、実はここでも「良く寝かせる」ことが有効。なぜなら睡眠中に働く「副交感神経」という自律神経の働きで、よく眠れさえすれば、よく食べるようになるからです。

早いうちからの習い事は必要ない

共働きのご夫婦は「子供に十分に手をかけられていない」という罪悪感から、休日にたくさんの「おけいこ事」をさせてしまうことがあります。しかし、これは「脳が育たない子育て」の典型例です。

からだの脳を育てるには五感を繰り返し刺激することが重要だと言いましたが、

  • 朝の光を浴びる
  • 夜は真っ暗にして早く寝る
  • 同じ時間に3度のごはんを食べる
  • 子供の顔を見て表情豊かに、明瞭な声で語り掛ける など

これらの刺激はすべて、日々の「生活」を通して行われます。平日は保育園に任せるしかないとしても、週末や休日はお父さん・お母さんがそれを行えるチャンスです。その貴重な時間をおけいこ事に費ついやしてしまうのは、子供を疲れさせるだけで、何のメリットもありません。お金も時間も、非常にもったいないです。

我が家の場合、お金を払うのは塾や教室ではなく、ベビーシッターさんでした。娘の幼少期は夫が単身赴任中で、私も仕事で多忙とあって、夜、なかなか早くは帰れない日はベビーシッターさんに面倒をみていただきました。

そのときももちろん、「夜8時就寝」は厳守。でもそれ以外に、娘に何かを学ばせたり、習わせたりしたことはありません。5歳までの子供は、ただ寝かせる、起こす。これだけでいいのです。わざわざ新しく用事を増やさずとも、むしろ増やさないほうが、からだの脳の成長が促うながされます。

最初の5年間に必要なのは、大人の我慢と根性

私はよく、乳幼児の親御さんたちに「とにかく、我慢して待とう」と言います。早くから「お勉強」の類を身に付けさせたいという思いをぐっと我慢して、最初の5年間はひたすら、早く寝て早く起きられる脳をつくることに専念しよう、という意味です。

からだの脳という、「生きる力」の基盤を堅固に備えさせ、その後の目覚ましい変化を待ちましょう。我慢と根性の後には、「楽しい子育て」が待っています。

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「おりこうさんの脳」の育て方

「おりこうさんの脳」は「からだの脳」より少し遅れて1歳ごろから育ち始めますが、成長の中核期は6~14歳ごろ。従って、おりこうさんの脳育ては1歳から始めるにしても、本格化させるのは小学校に入ってから。乳幼児期は「からだの脳」が最優先、と心得ましょう。

子供の役割をつくり、自己肯定感を上げる

「おりこうさんの脳」を育てるとは、本人が「勝手に勉強しだす」ような脳をつくること。物事に興味関心を抱き、好奇心の赴くまま自発的に知識を求め、思考や探求を深めていこうとするベースをつくることです。

そのために親ができることは、子どもが自分をとりまく世界を見る・知る機会を多く与え、経験を積ませることです。家庭は、もっとも小さな単位の「社会」。そこでの生活は、他者との共同生活を学ぶことを意味します。子供が、家庭という社会の一員として自らを位置付けることが、広い世界を知るための、最初の一歩となります。

今どきの子供たちを見ていると、家庭生活がはなはだ不十分だと感じます。親が身の回りの世話をしすぎて、「お客様」どころか「王様」になっている子が大勢います。

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※イラスト:六川智博

そんな生活では、一人前になれません。家庭の中でなんらかの「役割」を担わせ、生活の主体になることで、物事への関心と自己肯定感を育てるのです。

「新聞を取ってくる」「ゴミ出し」など、内容はどんなことでも構いません。ただ、一度決めた役割は必ずやらせること。自分が役割を果たさなくては、家族が困る。疲れていても面倒でも、これだけは自分が責任を持ってやらなければ――と知ることで、子供は自己コントロール力を備え、役割を果たして感謝されることの喜びや、慣れるに従って段取りや作業が上手くなっていく達成感も味わいます。

子供に体験させるときは、親が好きなことを

家の外の世界に触れることも、おりこうさんの脳を成長させます。積極的に子供を外に連れ出し、さまざまな風景や、建物や、食べ物や、人に触れさせましょう。博物館や美術館に行って、科学や芸術に触れるのもおすすめです。ただし何をするにせよ、外してはいけない条件があります。それは「親自身が好きなこと・楽しいこと」をすることです。

自分がスポーツに興味がないのにスポーツ観戦に行ったり、英語が苦手だったのに子供に英会話を習わせたりしても、おそらく子供はそれを好きにはなりません。まず親が楽しみ、そこに子供を参加させ、一緒に楽しむのが正解。この「楽しさ」の経験が、子供の世界を豊かにします。

父親と母親、それぞれの大好きなことをひととおり経験させると、どれか一つはヒットするもの。それは子供自身の「好き」を増やし、積極性や探究心を育てます。そう考えると、多趣味な親のほうが、おりこうさんの脳を育てる機会が多くなります。親がいかに人生を楽しんでいるか――「子供のため」にとらわれず、いかに自分自身の生活を満喫しているかが鍵だと言えるでしょう。

エピソードと併せた知識は、記憶に刻まれる

おりこうさんの脳で知識をインプットした後、こころの脳でそれらを「統合」する、と述べましたが、この統合力は「ストーリーをつくること」と言い換えられます。

教科書や図鑑や辞書の情報はあくまで断片ですが、それらを使って「○○だから、○○という結果が生まれた」「○○だということは、○○にも同じことがあてはまりそうだ」など、独自のストーリーを、おりこうさんの脳でインプットした知識や情報を使って構成できるかどうか、ということです。

そのため、おりこうさんの脳が育つ時期に多くの経験を積むことは、ストーリーの材料を入れることなのです。だからこそ、さまざまな経験を「親と一緒に楽しむ」ことが重要です。

旅行やスポーツ観戦などのイベントももちろんいいですが、さらに良いのは、毎日の生活で共同作業を取り入れること。一緒に洗濯物を畳んだり、卵焼きをつくったりといった日常を通して、子供の中に「生きた知識」が入ります。

おりこうさんの脳は「記憶する脳」です。そして記憶がもっとも刻まれやすいのは、「エピソード」を伴うときです。親との記憶ならばなおさらです。「あのときお母さんが笑った」「お父さんの手が大きいなと思った」などのエピソードつきの記憶は、そう簡単には消えません。

おりこうさんの脳時代は、こころの脳の準備期間

こころの脳が実際に成長を始めるのは10歳ごろからです。10歳までの子供は、「自ら考えて行動する」「思いやりを持つ」「感情コントロールをする」などのことはできません。ですから親御さんも、この段階から「自分の頭で考えて行動してほしい」「もっと思いやりを持ってほしい」などといった期待をしないこと。

その代わり、10歳以降にそうなれるよう準備をしましょう。おりこうさんの脳を育てている間に、「思いやりの持ち方」のインプットをするのです。やり方は簡単。親が、やってみせればいいのです。

たとえば電車に乗っているとき、高齢者の方や体の不自由な人が乗ってきたら、さっと立って席を譲る。これを始終行うことで、子供は「そうか、こういう場面ではこうするものなのか」という情報をインプットします。このような経験の蓄積が、その後の思いやりのベースとなります。

「こころの脳」の育て方

こころの脳のベースとなるのは、おりこうさんの脳に入っている知識や記憶。これらの十分な蓄積が、こころの脳の発達を促します。こころの脳は18歳ごろまで成長し続けますが、中核期は10~14歳。小学校高学年から、中学生にかけて急激に成長します。

ここで改めて、こころの脳の機能をおさらいしましょう。我々は、こころの脳の働きによって、感情をコントロールして、状況を適切に見極め、最適な行動を取ることができるようになります。

論理的思考力、想像力や思いやり、逆境にあっても心折れずに前を向ける「レジリエンス」の力も、「こころの脳」が育つことによって、身につく力です。

「大丈夫」のベースをつくる声掛けを

人は生きていれば必ず、困難な状況に何度となく遭遇します。そのときに「もうだめだ!」となるか、「いや大丈夫、なぜなら……」と思えるかで、人生は大きく変わります。さてこの「大丈夫」は、目に見えるものではありませんね。実体のない概念、いわゆる「抽象語」です。

子供の脳は、10歳ごろになるまで抽象概念を理解できないと言われています。しかし、理解はできなくとも、乳幼児期から親が「大丈夫」という声かけを始終行うことで、子供は不安や落胆が、安心や希望へと変わる経験ができます。

たとえば駅のホームで電車に乗り遅れたとき、「ああ、電車行っちゃったね。でもすぐ次の電車が来るから大丈夫!」と言えば、ガッカリがニッコリに変わりますね。親が、「大丈夫」をつくるお手本を、自ら見せているわけです。

安心は、最終的には自力でつくるものです。辛いときに人からアドバイスをもらうことも、慰なぐさめてもらうこともできますが、最後は自分が「大丈夫」と思わなくてはなりません。小さいころから親によって安心を与えられていると、それがスムーズにできるようになります。

動画で勉強すると語彙が育たない

ここ10年で、YoutubeやTikTokなどの動画プラットフォームは若い人たちの中で必要不可欠なものになりました。小中学生も、動画を勉強に活用している子が多いようです。しかしこれは「思考を働かせる役割を持つ前頭葉を育てる」という観点からいうと、ベストな方法とは言い難いと思います。

学んだ知識は、最終的には言語化して「外に出す」ことでこそ生かされるものです。この点、動画は文字情報に比べると分が悪いのです。

試しに、動画で学んだ内容を人に口頭で教えるのと、本で読んだ内容を教えるのと、どちらがたやすいか想像してみてください。当然、本という文字媒体で入れた情報のほうがスムーズでしょう。動画で見た視覚情報を正確に文字情報だけで伝えるのは至難の業です。

映像を言語に変換できる語彙――色彩、大きさや、形などを表現する言葉を持たないと、相手に伝わるアウトプットはできません。これらの語彙は、映像やSNSの短文を流し見しているだけでは培つちかわれません。ですので、本を読んだり、大人と会話を交わすことで、多くの言葉を知ることが必要です。

「正論」は前頭葉の成長を妨げる

子どもが間違えた発言をしたとき、たいていの親御さんは、否定をしてしまいます。それは主目的を「引き出す」ではなく、「正答を伝える」に置いているせいです。

親が、そこに注力する必要はありません。こころの脳が成長すれば、いずれ子供が自分で見つけ出せるようになるからです。親はそれを信じること、つまりは子供を信頼することが大事です。日ごろの行動に関しても同じです。子供に「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」と言うのは、子供が「いずれ自発的に勉強するようになる」と信じていないからです。

「勉強はしておいたほうがいいよ、あとあと役に立つよ」といった優しい言い方でも同じです。正論を言われると、子供は自分で考えなくなり、それは前頭葉を鍛える機会を奪うことです。

こころの脳がきちんと備わった子は、「漫画を読みたいな、ゲームしたいな、でも明日はテストだから今から勉強しないと」という風に、自制心や思考力を使って行動に移せるようになるのです。そのときをじっくり待つのも、親に必要な「自制心」かもしれませんね。

「家族のルール」を決めて、必ず守らせる

「正論を言うのがNGなら、家庭が無法地帯になるのでは?」と疑問を持たれたかもしれません。確かに、必ず伝えるべき正論もあります。その指標となるのが「我が家のルール」です。家族で独自のルールを決め、それには必ず従うべし、と定めることが有効です。

「我が家のルール」の軸には、大きく分けて二つの要素があります。一つは、社会通念として絶対に守るべき掟です。「人を殺さない」「盗まない」など。もう一つは、ほかの家はどうであれ「我が家では」絶対に守るべき、と定めた掟です。「夜は9時までに寝る」「親に頼み事をするときは敬語で言う」など。

この軸だけは絶対に守らせましょう。もし抵触すれば容赦なく叱り飛ばし、正させる覚悟が必要です。


脳育ては何歳からでも挽回できる!

ここまで読み進めてきた皆さんの中には「しまった、脳を育てる順番、間違えた」と思っている方もいるでしょう。ですが、どうぞご安心ください。序章でお話しした通り、脳には「可塑性」があります。脳は生まれてから死ぬまでずっと、変わり続けることができる臓器なのです。

脳の育て直しは、何歳からであっても、やはり「からだの脳→おりこうさんの脳→こころの脳」の順番に行います。まず早寝早起きの習慣をつけ、しっかり寝て食べるサイクルを体に覚えさせます。

次いで、これまでのコミュニケーションのありかたを変えます。会話が少ないなら増やし、親からの一方的な命令や小言が多ければ「双方向」を意識しましょう。中でも、言葉を「引き出す」関わりは大事です。頭ごなしに否定したり、間違いを修正したりせず、子供が自由に思ったことを語れるようにします。

反抗期は「先輩モード」で対応する

「正論を押し付けないこと」をこれまでもお話ししてきましたが、思春期においてはとくにその心がけが重要です。「そんな調子じゃ将来、社会でやっていけないぞ」などの警告は正しいかもしれませんが、反抗期の子供の耳には不快に響くだけです。

そんなときは「親」や「大人」の視点で語るのではなく、「少し年上の先輩」の気持ちになってみるのです。子供が中学1年なら中2か中3のころに、しばしタイムスリップしてみてください。

この年頃の子供にとって、大人は反抗の対象になりがちですが、少しだけ年長の人は尊敬や憧れの対象になります。もし自分が、そんな先輩のような若者なら、この子にどういう言葉をかけるだろうか……と想像してみましょう。

すると「ゲームばかりしてちゃダメだ」「本を読まないと語彙が増えないぞ」などとは決して言わない、とわかりますね。同じメッセージを伝えるにしても、「俺、けっこう行き詰まってたときにこの本を読んで、助けられたんだよね~」という風に、自分の経験に即した等身大のメッセージが出てくるはずです。

「褒める」より「認める」

幼い子供の心の中には、「見捨てられ不安」というものがあります。2歳ごろ、他の存在(たいていの場合は親)に対する「愛着」が形成されるとともに、「この人に見捨てられたらどうしよう」という気持ちが起きます。これは、ごく普通のことです。

通常は、成長するにつれて幼児期の見捨てられ不安はだんだん解消されていきます。しかしたまに、小、中、高校と年齢が進んでも、不安が消えない子供がいます。

その原因の多くを占めるのが、「褒めるだけ」のコミュニケーションです。「賢いね」「かわいいね」「上手だね」「偉いね」という親の褒め言葉に、子供は「そうでないと愛しませんよ」という「裏メッセージ」を読み取ってしまうのです。親がそう言っていなくとも、思ってさえいなくとも、そう受け取ることがあるのです。

では、どうすればいいのか。「褒める」よりも、「認める」メッセージを多く送ることが必要です。「褒める」は何らかの良い行為や長所に対してなされますが、「認める」は、その子の存在を「丸ごと」承認することです。

「あなたは○○だねえ」「そうか、そう考えていたんだ」「そんな風に思うのか~」など。そこに良い悪いの評価はありません。ただ「あなたがそういう子だと知ったよ」と伝えているのです。

「できなさ」を認める自己肯定感を育てよう

一方、あまりよろしくないこと――テストで悪い点をとってきたときなどにも「認める」ことはできます。テストの点が良かろうが悪かろうが、あなたという存在は大事。このメッセージは、自己肯定感のベースになるのではないかと私は思います。

一般的に、自己肯定感というと「自分の長所や美点を認める」ことだと思われがちですが、それは一面的な解釈です。「できない自分」も認める、それもまた自分であると認める。こうした「丸ごと」の自己肯定感が、日本人には足りないのではないかと感じます。

本物の自己肯定感とは、「私にはこんなダメなところがあるけれど、ま、いっか」と思えることです。そのためには親が「この子はここがダメだけど、ま、いっか」という気持ちで接することが大事です。

そしてさらに大事なのは、親自身が自分のダメなところを認めることです。恥じたり、「知られたら馬鹿にされる」と隠したりせず、「私はここがダメだけど、でも、それも私なんだ」と、丸ごと認めましょう。

叱るべき時は、厳しく叱っていい

今どきの子育て本は、褒めることと同じく「叱る」ことに関しても、少々偏った情報を伝えていることがあります。「叱ってはいけない、体罰などもってのほか、子供のトラウマになる」などと書かれた本を読んで、恐れをなしている親御さんも多いのではないでしょうか。

しかし、神経質になる必要はありません。場合によっては叱ってもいいし、命の危険があり厳しく教えなければいけないときなどは、手を挙げてもいいのです。その基準となるのが、前章でお話しした我が家のルールの「軸」です。

まず「命にかかわること」と、「我が家で絶対に守るべきこと」というルールを2~3項目定め、それを破ったときには厳しく𠮟る、ということを約束事にすれば、子供も叱られることに納得感を持ちます。

逆に言うと、それらの軸に抵触しないことに関しては、叱る必要はありません。「また部屋を散らかしてる!」「宿題しなさいって何度言ったらわかるの!」といった類の叱り方をする親御さんは非常に多いですが、これらは何一つ、できなかったからといって命にはかかわらないことです。これらの「悪しき正論」で子供を追い詰めないよう気を付けましょう。

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