「子どもの集中力がない、大半は親の誤解です」脳科学者に聞く子どもの集中力

「子どもの集中力がない、大半は親の誤解です」脳科学者に聞く子どもの集中力

2022.10.26

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篠原菊紀

篠原菊紀

脳科学者

公立諏訪東京理科大学情報応用工学科教授。茅野市縄文ふるさと大使。応用健康科学、脳科学。 「脳活動計測器や視線計測器を使って、商品開発、介護予防、教育などに役立てる研究」「ゲーミング障害・ギャンブリング障害研究」などを行っている。 著書、監修:「高齢ドライバー脳活ドリル」(二見書房)、「もっと! イキイキ脳トレドリル」(NHK出版)、「クイズ! 脳ベルSHOW 50日間脳活ドリル」 (扶桑社ムック)、「「すぐにやる脳」に変わる37の習慣 」(KADOKAWA)、他。 テレビ、ラジオ:フジテレビ「今夜はナゾトレ」、BSフジ「脳ベルSHOW」、NHK「あさイチ」「おはよう日本」「クロースアップ現代」「NHKスペシャル」「子ども科学電話相談」「チコちゃんに叱られる」「天才!テレビくん」、SBC「ラジオJ」などで解説や監修。

予測不能な時代を生き抜くためには、これまでの常識とは異なる「〇〇力」が重要になってくるかもしれない。そんな「〇〇力」を子どもが身につけるためには、親はなにをしてあげられるだろうか。今回のテーマは「集中力」。集中力を鍛えることは、本当に可能なのだろうか、脳科学者の篠原菊紀先生に話を聞いた。

親は「集中力」を誤解している!?

子どもが宿題や習い事をしているときに「他のことに気を取られてばかりで、集中力がないなあ」「集中してやり始めるまでに時間かかりすぎじゃないかな」と、心配になってしまう。

今回はそんな悩みを持つKIDSNA STYLE編集部のママが、「子どもの集中力」をテーマに、脳科学者の篠原菊紀先生にインタビューをしました。

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ーー一年生の長女は全く集中力がありません。好きな動画は集中して見ているけれど、宿題となると始めるまでに30分ダラダラ。ようやく始めたと思っても5分やったらダラダラ。どうしたら集中して宿題に取り組めるのでしょうか?

篠原先生:動画は集中して見ていると言いましたよね? ということは、集中力はあるんじゃないですか?

ーーえ……! 動画はなにも言わなければ何時間でも見ています……。でも、それって集中力なんですか?

篠原先生:もちろんです。「宿題は集中できないけれど、動画は集中して見ている」といったように対象によっては集中できるのであれば、その子に集中力がないとは言えません。

ーーたしかに動画を見るのにも集中力は必要ですよね。苦手な宿題をなかなかやらないからって集中力がないと決めつけるのは乱暴だったのかもしれません……。私だって苦手なことはなかなか集中できないし。

篠原先生:そもそも集中力という言葉は学術的にはあまり使わず、「注意」という言葉を用います。

注意の中には、「選択的注意」「分散的注意」「注意の持続」の3つの要素があり、皆さんがイメージする集中力という言葉は、多くの場合が「選択的注意」すなわち何かにのめりこむようなことを指していると思います。

そして、それが続くような状態「注意の持続」も欲しいと考える親が多いでしょう。

2

篠原先生:この3つの要素のどれがどのくらい強いかを見ると、その子のタイプが大まかには分かります。

もちろん宿題、動画、絵を描いているときなど何をしているかによって違うはずですが、全体的に見るとお子さんはどの傾向が強いですか?

ーーうちの長女は分散的注意の傾向が強そうです。色んなことに気が取られてしまいがちなので……。

篠原先生:分散的注意が強い人は集中力がないと思われがちだけど、「他のことも気になる力がある」とも言い換えられます。

もし今が狩猟時代で、いつ危険な動物に襲われるか分からないような状況だったら注意は分散しないと危険ですから、お子さんの分散的注意は絶対に必要なはず。

ーー環境や時代によって、それぞれのタイプが活きる場面があるということですね……!

子どもによって違う「集中力スイッチ」を探すには

ーーこのようなタイプは生まれつき決まっているんですか? それとも育つ環境によって変えられるのでしょうか?

篠原先生行動遺伝学では性格や行動の約50%は遺伝要因で説明されるのが一般的で、集中力も概ねそうだと言えるでしょう。

そのような傾向を変えることも不可能ではないですが、労力が大きい。それよりは、生まれつきの傾向を利用して伸ばしていく方向で考えたほうがよいです。たとえばお子さんのように分散的注意が強いのであれば、一時間かけて同じ科目を勉強するよりも、10分ずつ何科目もやるほうが合っているかもしれない。

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ーーなるほど! 色々なやり方を様子を見ながら試してみたらいいんですね。

篠原先生:どのような傾向が強いのかタイプに分けることはできても、集中力スイッチの入り方はひとりひとり違いますから。よく子どもを観察して、合う方法を見つけていくしかないです。

ーーなるほど。でも、集中力スイッチを見つけるには、どうやって観察したらよいのでしょうか。

篠原先生:たとえば、宿題に取りかかってから終わるまでの様子を観察してみます。

4

篠原先生:宿題を始めるまでに30分かかったとしましょう。その場合、1時間かからなかったのはなぜだろうかと考えてみるんです。取り掛かるまでの間に、なにか宿題を始めるトリガーもしくは始めるのを妨げるトリガーがあるかもしれません。

たとえばお菓子を食べる、トイレに行く、親と雑談をする、など。そういった分析を重ねていくと、じゃあ15分で宿題を始められるようにするにはどうすればいいのか、を考えることができるでしょう。

同様に宿題を終えるまでにかかった時間と、その間どのようなトリガーがあって集中していたのか、また集中が切れたのかを、分析してみましょう。

誰もが集中できる環境なんて存在しないけれど、その子に合う環境が与えられたら子どもは伸びていくのです。

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子どもが元々持っている力を「解決思考」で引き出す

篠原先生:集中力の話からは少しずれますが、子どもが何かできないことがあると、親は「どうしてこの子はできないんだろう」と、「問題志向」になりがちです。しかし、「どうしてそうなのか」と原因を探ることは、ときに無駄なことも。

たとえばウイルスの影響で病気になったら、病気を治すためにウイルスを除去する治療をしますが、人間の問題は必ずしもそうではなくて。親子関係が悪くて子どもが非行に走ったとしても、親子関係を除去すれば子どもの非行が直るのかというと、必ずしもそうではないですよね。

だから、「どうしてうまくいかないのだろう」と「問題思考」で考えるのではなく、「うまくできたときは、どうしてできたんだろう」とその子の中からヒントを探していく「解決志向」で考えていくことのほうが大切です。

もし子どもが保育園で友だちを叩いちゃったとすると、「叩いたのはよくない。だけど、2回叩かなかったのはなんで?」と聞いてみるとよいでしょう。この聞き方をすると大体「友だちのことを叩いたらよくないから」「〇〇ちゃんがかわいそうだから」など、親が求めているような回答が返ってきます。

ーーその聞き方、いろいろな場面で使えそうですね!

篠原先生:親が「持っていてほしい」と思っている気持ちを子どもは既に持っているんです。「だったら1回も叩かないでよ」とは思うのですが(笑)。その気持ちをどうやったら言葉にして引き出せるか、そこが重要なんです。

集中力の話に戻りますが、スイッチが見つかるまでは手を変え品を変えやってみればいいし、おそらく正解に近いことは既に子ども自身が見つけているかもしれません。

ーーそれをいかに引き出すかということですね……。意識したことはなかったです。

※写真はイメージ(iStock.com/miodrag ignjatovic)
※写真はイメージ(iStock.com/miodrag ignjatovic)

ーー長女が集中しているときを思い返してみると、「好きなことをしているとき」「私が機嫌よく接しているとき」「よく褒めているとき」などがあるかなと思いました。こういうことの中にもヒントがあるということですね。

篠原先生:そうそう、まずはよく観察しないと。あと、褒めたりご褒美をあげたりすることはやはり必要ですよ。

親からすると「集中すれば10分で終わる宿題なんだから、10分くらい集中してやってよ」と思うかもしれません。でも「他にもやりたいことがあるのに、とりあえずダラダラと30分も取り組んでいるあなたは偉い」と褒めることから始めないと。一年生なんてそんなものですよ。このあたりは、次回また詳しく説明しますね。

今回のインタビューの気づき

宿題に集中できない長女は集中力がないと思い込んでいたのですが、「動画を集中して見ているのなら、集中力があるんじゃないの?」と先生に言われ、雷に打たれた気持ちでした。

宿題など親が望むことをやってほしいだけなのに、都合のいいように「集中力」という言葉を使っていた気がします。

長女の場合は、褒めたり、乗り気にさせるような声がけをするだけで宿題にも集中してくれることを、頭のどこかでは気付いて……。だけど、子どもが自分だけで集中してくれる便利な方法はないのかな、と安易に考えていました。

まだ子どもが小さいうちは、集中力のスイッチを押してあげるのも親の役目。言われてみると、「そりゃそうだ」と納得した気持ちです。

とはいえ、それを毎回親がやらないといけないの? いつまでやらないといけないの? という不安も……。

実際に、親と子はどのように関わると、集中力を育てることができるのか。そもそも、その子が持つ集中力を底上げするということは可能なのか。後編で解説していただきます。

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後編はこちら▼▼▼

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公立諏訪東京理科大学情報応用工学科教授。茅野市縄文ふるさと大使。応用健康科学、脳科学。 「脳活動計測器や視線計測器を使って、商品開発、介護予防、教育などに役立てる研究」「ゲーミング障害・ギャンブリング障害研究」などを行っている。 著書、監修:「高齢ドライバー脳活ドリル」(二見書房)、「もっと! イキイキ脳トレドリル」(NHK出版)、「クイズ! 脳ベルSHOW 50日間脳活ドリル」 (扶桑社ムック)、「「すぐにやる脳」に変わる37の習慣 」(KADOKAWA)、他。 テレビ、ラジオ:フジテレビ「今夜はナゾトレ」、BSフジ「脳ベルSHOW」、NHK「あさイチ」「おはよう日本」「クロースアップ現代」「NHKスペシャル」「子ども科学電話相談」「チコちゃんに叱られる」「天才!テレビくん」、SBC「ラジオJ」などで解説や監修。

2022.10.26

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