生涯役立つ集中力が身につく「メタ認知」って何?【脳科学者に聞く】

生涯役立つ集中力が身につく「メタ認知」って何?【脳科学者に聞く】

予測不能な時代を生き抜くために必要になるであろう「〇〇力」。前編では脳科学者の篠原菊紀先生に、子どものタイプを見極め、ひとりひとり違う集中力スイッチを親が押してあげる必要性を聞いた。しかし、集中力の底上げはそもそも可能なのだろうか。今回はメタ認知を用いて集中力をトレーニングする方法を教えてもらった。

ーー前回のお話では、集中力のスイッチはひとりひとり違うし、誰もが集中できる環境なんてないこと。子どもの集中力スイッチを探して、親が押してあげる必要性を教えてもらいました。

子どもの集中力スイッチがどこにあるか、うすうすは気付いている親も少なくないかもしれません。我が家の一年生の長女の場合は、とにかく褒めたり、おだてることにヒントがありそう。

とはいえ、それを毎回親がやらないといけないの? いつまでやらないといけないの? そんな不安もあるんですよね……。そもそも、子どもの持つ集中力そのものを底上げするということは可能なんですか?

メタ認知で汎用的な集中力を育む

篠原先生:トレーニングによって集中力を上げることは可能です。ただ、それを「汎用的な集中力」として身につけてもらうには、メタ認知化する必要があります。

ーーメタ認知とはなんですか?

篠原先生:メタ認知とは、認知と認知をつなぐような認知です。自分が考えていることや感情などを、第三者視点から俯瞰して見ているように認識することもメタ認知の一つです。

たとえば、すごく怒っているときに、もうひとりの自分が冷静に「ああ私、すごい怒ってる」と第三者のように感じた経験があるかもしれません。それがメタ認知です。

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篠原先生:分かりやすい例でいうと、バレーボールでスパイクを上手に打てるようになるため、腕立て伏せをします。繰り返し行ううちに、腕立て伏せは何度もできるようになりますよね。ですが、腕立て伏せが上手になったからといって、スパイクを打つのも上手になるとは限りません。

なぜなら、腕立て伏せをするときとスパイクを打つときとで共通する筋肉の使い方を、認知できていないからです。腕立て伏せをして筋肉を鍛えるだけではなく、その筋肉の使い方や、使っているときの感覚を学習する必要があるのです。

集中力アップの脳トレドリルもそれと同じです。脳トレをしているときの頭の使い方や集中力が高まっている感覚を、他の勉強にも重ね合わせることがメタ認知です。それができないと、脳トレをしているときだけは集中できたとしても、他の勉強にも集中できるようにはなりません。

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ーー集中している時の自分の感覚を知ることで、汎用可能な集中力を身につけられるということですね。うーん、でもなんだか難しそうです……。

日々の生活で集中力を底上げするトレーニング

篠原先生:前回は子どものタイプを見極めるべきだという話をしましたが、集中力を育むトレーニングは、大体どのタイプでも共通して行えますし、身近なことでもできますよ。

たとえば、これは大人が行った実験ですが、被験者はキャベツの千切りを行いながら、ランプがついたら心を込める。ランプが消えたら心を込めるのをやめる。一見ふざけた実験のようですが、これを繰り返すことで脳の前頭葉という注意に関係する場所の活動が高まるようになります。

ーー面白い実験ですね(笑)。オン・オフの切り替えを自分でコントロールするんですね。

篠原先生:そうです。たとえば子どもが宿題をやっているときに、ときどき「よし! スイッチオン!」と「はい、スイッチオフ」などと繰り返し言ってみるのもいいかもしれません。未就学児の場合は「さあ、座ろう」「はい、片付けよう」でもいいし、日常の中でできることはたくさんありますよ。

ーーそれなら小さい子どもでも実践できますね!

※写真はイメージ(iStock.com/Evgeniia Siiankovskaia)
※写真はイメージ(iStock.com/Evgeniia Siiankovskaia)

篠原先生:ただ大切なのは、それだけで終わるのではなくて、それがオン・オフなんだよとしっかりと伝えること。

宿題の場合も、集中してやっていたら「集中してすごかったね」と褒める。大人がそうやって教えることで、「これが集中するということか」と、感覚を掴むことこそが大切です。

ーーそれがメタ認知ということなんですね! たしかに、一年生の長女は自分が集中している状態を分かっていないと思います。その状態を最初は大人が教えてあげて、徐々に自分の力でスイッチのオン・オフができるようになるといいんですね。

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好きになることが集中力アップへの近道

ーーうちの長女が動画であれば集中して見ているように、一般的に好きなことには集中できるイメージがあります。ということは、好きになることが集中力アップへの近道かなと思うのですが。

※写真はイメージ(iStock.com/ozgurdonmaz)
※写真はイメージ(iStock.com/ozgurdonmaz)

篠原先生:それはその通りです。脳の奥の方には線条体といって、「これをしたら楽しい」「これをやったら褒められて嬉しい」というように、行動と快感を結びつけている器官があります。

この線条体は予測的な活動をすることが特徴。行動によって快が得られることを繰り返すと「これをしたら楽しそう」「これをやったら褒められそう」「この問題を解けたら快感が味わえそう」などと予測をして活性化を始めるのです。そうするとドーパミンの分泌が増え、前頭葉などに働き、集中力も高まることが分かっています。

つまり、好きということは、「これをやるといいことが起きる」と予測ができること。そして、その予測ができると集中しやすい脳の状態になると言えるのです。

ーー好きなことには集中できることが、脳科学的にも説明がつくんですね! では、宿題など好きじゃないことはどうしたらいいのでしょうか?

篠原先生:宿題はめんどくさいし、好きじゃなくても普通ですよね。その場合は、その行動によっていいことが起きればいい。でも普通に生活していたら、宿題をやってもいいことなんて起きない。だからこそ親の出番で、まずはとにかく褒めるとか、ご褒美を与えるなどしてドーパミンの分泌を促すことが近道です。

ーー「好きなことをするときと似た脳の状態」を作ってあげるようなイメージですね!

※写真はイメージ(iStock.com/Erdark)
※写真はイメージ(iStock.com/Erdark)

篠原先生:あとは線条体の構造からすると、一度行動さえ始めてしまえば活性化が続きやすいという特徴があります。だから、「ちょっとでもいいから始めてみよう」が大事なんですが、分かってはいても始めるまでがなかなか大変ですよね。

そういうときには「グッと立ち上がって、ドドッと歩いて、ドンと座って、ガバッとやる」など、オノマトペを混ぜて口に出してみると、線条体が活性化して効果的。これはやる気を高めるテクニックですが、集中力を高める基礎にもなりますよ。

ーーそれなら長女でもできそうです! 早速やってみたいと思います!

今回のインタビューの気づき

さっそく子どもが宿題を始めるまでに何をしているのか観察してみました。短い時間で「あ! あれやろう」「あ! おやつ食べよう」「あ! やっぱりこれやろう」と興味が次々に変わっていくので、思っていた通りに分散的注意が強いんだろうなと感じています。

ただその中でも、今本人がハマっているピアノは15分くらい集中して弾いていることが多いので、「ピアノすごい集中して練習してたね」「その集中力はすごいよ」と褒めるようにしています。

子どもは「自分が集中している状態」を認知していなかったようで、最初は不思議そうな顔をしていましたが、今はなんとなく理解しているようです。この「集中している感覚」を宿題などにも活かせるようになってもらいたいので、引き続き観察を続けて個性を見極めながら、いい声掛けを模索していきたいなと思っています。

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Profile

篠原菊紀

篠原菊紀

公立諏訪東京理科大学情報応用工学科教授。茅野市縄文ふるさと大使。応用健康科学、脳科学。 「脳活動計測器や視線計測器を使って、商品開発、介護予防、教育などに役立てる研究」「ゲーミング障害・ギャンブリング障害研究」などを行っている。 著書、監修:「高齢ドライバー脳活ドリル」(二見書房)、「もっと! イキイキ脳トレドリル」(NHK出版)、「クイズ! 脳ベルSHOW 50日間脳活ドリル」 (扶桑社ムック)、「「すぐにやる脳」に変わる37の習慣 」(KADOKAWA)、他。 テレビ、ラジオ:フジテレビ「今夜はナゾトレ」、BSフジ「脳ベルSHOW」、NHK「あさイチ」「おはよう日本」「クロースアップ現代」「NHKスペシャル」「子ども科学電話相談」「チコちゃんに叱られる」「天才!テレビくん」、SBC「ラジオJ」などで解説や監修。

2022.11.02

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