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子どもの「非認知能力」を伸ばしたい親が知るべき3つのこと
「幼児期の非認知能力の育ちを支える」共同研究を行う東京大学Cedep(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター)と、凸版印刷株式会社。今回は、2021年2月に行われたオンラインシンポジウムから、親が子どもの非認知能力を伸ばすヒントになるトピックをご紹介します。
非認知ってなに?なんで大切なの?どう育てるの?
「非認知能力」という言葉をよく耳にする機会が増えた昨今。
特に、就学前の0~6歳の時期が大切といわれていることもあり、まさに、このようなお悩みを持つ保護者の方も多いのではないでしょうか。
今回、東京大学Cedepと凸版印刷株式会社のシンポジウムで「非認知能力」についてパネルディスカッションを行ったのは、東京大学大学院教育学研究科 教授、東京大学Cedep センター長の遠藤利彦さんと、国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター、幼児教育研究センター 主任研究官の篠原郁子さん。
その内容から、子どもの「非認知能力」を伸ばすヒントについてご紹介します。
「非認知能力とは何か」を知っている人は少ない?
学校のテストやIQなどで数値化される心の力を指す「認知能力」に対し、意欲や社会性、自己制御といった、学力以外の心の力のことを指す「非認知能力」。
昨今では、IT化やグローバル化が急速に進み、変化の激しい、予測不能な未来を生き抜くために必要なスキルとして話題に。2020年の学習指導要領の改訂でも、焦点が当てられています。
篠原郁子さんによると、「非認知能力」の言葉の定義は難しく、言葉自体は新しく感じる方も多いけれど、その内容自体は、数十年前から各国の教育目標に含まれ、経済学や心理学からも研究がなされてきました。
なかでも有名なのは、幼児教育や家庭教育での効果を調べたアメリカの「ペリー就学前計画」や、幼児の自己コントロール力が成人時の健康や経済的安定につながると予測したニュージーランドの「ダニーディン長期追跡研究」。
ここから、世界的に「非認知能力」が大きく注目されるようになったそうです。
遠藤利彦さんは、非認知能力の具体的な要素について、OECD(経済協力開発機構)の2015年のレポートでは「社会情動的スキル」と定義されたと説明します。
社会情動的スキルは、「長期的目標の達成」「他者との協働」「感情の管理」の3つに大きく分けられ、その土台を就学前の0~6歳に築くことの重要性をOECDは示しています。
この社会情動的スキルは、「自己と社会性の力」とも言い表すことができると遠藤さんはいいます。
具体的には、これらの3つが挙げられました。
●自己肯定感やグリットを持って、正当に自己評価し、自律し、自己向上を図り実現する「自己にかかわる心の性質」
●共感性や協調性、道徳性を持って集団に溶け込み、他者と適切な関係を構築し維持する「社会性にかかわる心の性質」
●これらの両側面に関わる「感情のセルフコントロール」
非認知能力を構成する要素は多岐にわたり、効果のあらわれ方はゆるやか。そのため、育む方法がなかなか見えにくく、効果検証は原理的に難しいと遠藤さん。
だからこそ、「非認知能力とは何かを教え込まれて獲得するものではなく、必ずしもあればあるほどいい、高ければ高いほどいいというものではない」といったお話がありました。
認知・非認知の両方のバランスが重要
篠原郁子さんによると、OECD(経済協力開発機構)の2015年のレポートで示されている教育全体の大きな目標は、認知と非認知の両方をバランスよく備えた、「全体としての子ども(ホールチャイルド)の育成」であるということです。
認知・非認知という表現は一見分かりやすく感じますが、では実際にその能力を伸ばすために何をすればよいのかは、具体的に想像しにくい保護者も多いのではないでしょうか。
東京大学Cedepが行った意識調査でも、0~6歳の子どもを持つ保護者は「何をしていいか分からない」「自然に育つものだと思っていた」という声が多くありました。
そこで大人が気を付けたいのは、認知能力と非認知能力を区別して、それぞれを伸ばせるだけ伸ばすということではなく、「認知能力と非認知能力の双方をバランスよく持った」子どもを育成するということです。
つまり、認知能力を伸ばすためにこれをやらせよう、非認知能力を伸ばすためにこれをやらせよう、と分けて考えてはいけないし、そもそもそれらはきれいに分けることはできないのだと篠原さん。
親自身が、子どもの認知・非認知の両方の力について総合的に見る必要があると話します。
たとえば、子どもが手紙を書くという行為ひとつとっても、「言葉を書く」という認知能力の背景に、手紙の相手を思う気持ちや相手との関係を思い浮かべることなど、非認知能力が使われています。
このように、人間の活動は単純に認知・非認知と分けられないものだからこそ、子どもの活動や遊びを「分解しない」ことが重要なのです。
決まった教育法はなく、 子ども一人ひとりによって違う
非認知能力だけをがむしゃらに伸ばすのではなく、対極にある「認知能力」と切り離さず、認知・非認知をバランスよく育むために、私たち保護者は具体的に何をすればよいのでしょうか。
遠藤利彦さんは、非認知能力の育み方にたったひとつの理想形はないと話します。
みんながある一定のレベルを目指すのではなく、子ども一人ひとり、それぞれの適応の違いを知る必要があるということです。
たとえば、気質的に恐怖心の強い子どもに対し、セルフコントロールが重要だからと我慢を強いるやり方では、必ずしも非認知能力の適応にはつながりません。子どもの個性によって、持ってしかるべき非認知能力の要素は違うのだといいます。
日常生活で大人ができることは、子どものひとりや集団での遊びや活動を見て、いかに大人がそのプロセスに寄り添い、いかにフィードバックをするかということ。
子どもの自発的な行動によって、子ども自らが一歩でも二歩でも前進した場合に、その努力のプロセスやそこから得られた成果に対して、周囲の大人が正当に評価することが大切なのです。
<協力>東京大学Cedep
<執筆>KIDSNA編集部