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幼児への性教育はどう教えるべき?古い性教育を変革する保育園の取り組みとは
性教育後進国といわれる日本でも、近年では幼児期に性教育が必要であるという認識が高まっています。みなさんはご家庭で子どもに性の話をちゃんとできているでしょうか。今回KIDSNA編集部では、中目黒どろんこ保育園が実施する「体と命の大切さを学ぶ性教育」を取材した。
幼児にどうやって「性」を伝えたらいいのか
「SNSをきっかけとした児童ポルノの被害児童は、年々増加しているといわれています。また、コンビニなどの身近な場所やオンライン上で子どもがアダルトコンテンツに感化されてしまう可能性も否定できません」と話すのは、中目黒どろんこ保育園園長の平山靖先生。
どろんこ会グループ(以下、どろんこ会)では「『寝た子を起こすな』の性教育」では子どもの体や命は守れない、幼児期のうちに親や身近な大人が正しい性の情報を伝えるべきという考えのもと、2004年から5歳児を対象に古い性教育の考え方を変革するような性教育を保育園で実施している。
今回、取材をしてみて感じたことは、幼児期は性教育の始めどきに最適だということ。筆者には小学生の息子がいますが、子どもが恥ずかしがるようになり性の話がしづらくなり、もっと幼児期のうちに家庭で話しておくべきだったと後悔をしている。
とはいえ、どのように子どもに性の話をしたらいいのか、悩んでしまう保護者の方も多いと思います。そこで、家庭での性教育のヒントになるようなどろんこ会の取り組みについて園長先生のインタビューとともにお届けします。
性教育のスタートは「自分を知ること」
オープンな雰囲気の教室に5歳児クラスの園児たちが集まってきました。
「今日は、みんなの体について大切な話をします」と、先生が子どもたちに語りかけます。「だから、笑ったりせずに、真面目に聞いてほしいの」
先生の真剣な表情に、子どもたちは「はーい」と素直に反応します。そして好奇心いっぱいの子どもたちの視線は、教室の正面に貼られているたくさんの写真に注がれています。
「パソコンの中にもたくさん写真が入ってるから、みんなで見ましょう。いろいろな人たちの写真が出てきます」
画面に映し出されたのは、赤ちゃんや青年、大人などさまざまな年齢、国籍の人びとです。肌の色や髪の色、体型もさまざま。健常者も障がい者も、もちろん男性も女性もいます。
子どもたちは「こんな人もいるんだね」「あ、わたしと同じ」など思い思いの感想を口にしています。
「まずは、いろいろな人がいるんだよ、ということを視覚的に子どもたちに伝えます」と、一緒に教室を見守っていた園長先生。
「自分を知る。そして、他人を知る。そこから性の話が始まります」
なぜ保育園で性教育をするのか
ーー2004年から保育園で性教育を行なっているそうですが、保護者からはどのような声があったのでしょうか。
始めのころは、どうして保育園で性教育を?という雰囲気も確かにありました。でも、入園のご案内やウェブサイト、保護者懇談会やお便りなどで「5歳児になるとこのような性教育の取り組みを行います」と保護者に少しずつ伝えていくことによって、受け入れられていきました。
最近では「母親としてそういう話題を伝えていかないといけない時期がくるから、自分も同席させてほしい」というご意見をいただくようになりました。
ーー「男の人や女の人の体の仕組みはどうなっているの?」「赤ちゃんはどうやって誕生するの?」など幼児期に自然に芽生える疑問について、家庭でうまく答えられなかった経験は、多くの親が持っていると思います。
その疑問を、恥ずかしいことだと伝えてしまったり、「そんなこと聞いちゃだめ」と対応するのはまちがっています。子どもには “知る権利”があります。
大人が性に関する正確な情報を伝え、「命が生まれてくることは素晴らしいこと」だと教えることができたら、子どもは「自分や誰かの体って、大切なものなんだ」と感じ、自分や周りの人の体も命も大切にしていこうという気持ちが芽生えるのではないでしょうか。
家庭での「性」の伝え方
日々たくさんの保護者と接していて、お母さん、お父さんもだんだん”親”になっていくのだと感じます。その中で、たくさんの親たちが、性教育はどの時期にどんな風に伝えるか、親として我が子に対してどうアプローチしたらよいのか悩んでいるようです。
ーー幼児期が性の話を始めるいいタイミングだということは理解できますが、具体的に家庭で話すには、どのような時がいいのでしょうか。
子どもの意欲が揺さぶられたときがいちばん入りやすいタイミングなので、まずはそれを逃さないようにしてください。「僕はどうやって生まれてきたの?」「どうして体つきがちがうの?」など素朴な疑問を聞かれたときがいい機会です。
もしくは、子どもが興味を抱いていると感じたら、大人からアプローチしてもいいですね。家庭以外のそういうコミュニティに参加するのもいい方法です。最初からあまり難しく考えず、お子さんと一緒に育っていくという気概でいいと思います。
ーー具体的には、どんな話から始めたらいいのでしょうか。
保育園では、先ほど見ていただいたように、まずは多様性の話をして、それから段階的に話を進めていきます。パズルや絵本などから自然に男女の体のちがいや、プライベートゾーン、命の誕生について学んでいけたらいいですよね。
私たちの世代がぼんやりとした性教育の中で育ってきたので、伝え方をアップデートしないといけないと思います。でも、家庭という小さい単位では密すぎて悩むところもあるかもしれません。なので、保護者の代わりに保育者から伝えていくことで、性教育を補完するという考えで行っています。
性教育は身を守るためのスキル
まずは、『プライベートゾーン』について知ることです。自分のプライベートゾーンを理解し、それを侵害されそうになったらいやだといっていい、ということです。これは身を守るスキルにつながります。
また、細かな内容は覚えてなくても、先生たちが熱心に語っていたな、親身になって答えてくれたなという記憶は残ります。もちろん親でも同じです。『大事にされた』『親身になってくれた』『きちんと伝えようとしてくれた大人がいた』ということが大切で、それは自尊心や自己肯定感につながります。
性教育を通して、自分や相手を守ることを教えているのです。
ーーもし、誰かにプライベートゾーンを見せてと言われたら「いやだ」と言わなければならないということなら、家庭でもしっかり伝えることができそうです。多様性を知ることで命の大切さや共生を意識することができるのも、幼児期の性教育の意義だと感じました。
まずは自分を知り、他人を理解することが大切です。大人も一緒に学ぶ姿勢で、ご家庭でもできることから始めてみてはいかがでしょうか。