早期英才教育は「知能」を伸ばすわけではない AI時代を生き抜く子どもを育てる!脳教育メソッド【澤口俊之】
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神経科学者/人間性脳科学研究所所長
神経科学者/人間性脳科学研究所所長
人間性脳科学研究所所長 武蔵野学院大学&大学院教授 1959年、東京生まれ。 京都大学理学研究科博士課程修了(理学博士;Ph.D)、日本学術振興会特別研究員、米国エール(Yale)大学医学部研究員、京都大学霊長類研究所助手などを経て、1999年に北海道大学医学研究科教授に就任。2006年人間性脳科学研究所(Humanity Neuroscience Institute, HNI)所長。2011年9月武蔵野学院大学教授、2012年4月から同大大学院教授も兼任。専門は神経科学、認知神経脳科学、社会心理学、進化生態学で前頭前野(前頭葉の最前部)の機能ならびに構造を中心に研究。
子を持つ親ならわが子に「頭が良く社会的にも自立した成功者になってほしい…」とは誰しもが思うこと。特にAI(人工知能)が台頭する時代は、学力だけではない多様な能力を向上させることが必要とも言われています。そこで脳進化学の先駆者であり、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で脳の育成を目指す研究「脳育成学(Brain Nurturology)」を行う脳科学者の澤口俊之さんに『子どもの脳を育むメソッド』をお話いただきました。第1回目は、「早期英才教育に関する疑問」です。
古来、“天才”と呼ばれた音楽家の多くが幼児期から音楽教育を受けています。なかでも、モーツァルトは「その後の多くの天才的な音楽家とレベルが違う」と称され、その音楽性は今も多くの人を魅了し続けています。
しかし、脳科学の観点から見れば彼の偉業は「自発的な知能育成サイクルがうまく回転した」という一例に過ぎません。
つまり、モーツアルトは音楽が身近にある家庭環境で育ち、音楽教育を受けたから素晴らしい音楽を生み出せたのではなく、音楽が好きだった「好奇心」と「探求心」があったからこそ自発的に、且つ効率的に音楽的才能を開花させたと言えるのです。
逆を言えば、子どもに早期教育や英才教育を施しても脳の発達段階に不適切、何より好きで自発的にしない教育を実施することによって、脳の発達が阻害される可能性があるのです。
では、AI(人工知能)時代が到来するいま、私たちは子どもたちにどんな教育を行っていけばいいのでしょうか。
私たち人間には生きるために必要な「知能」が備わっています。
そして、知能を司る脳の司令塔が「前頭前野」で大脳の約25%を占めています。
進化的にはチンパンジーの脳が人間に最も近いとされますが、それでも人間の6分の1の大きさで、「前頭前野」も10%前後。つまり、人が人たる所以と言えるのが「前頭前野」の存在です。だからこそ子どものころから育み、発達させることがとても重要なのです。
知能を発達させることは人間が社会生活を行い、生きていくためにとても重要です。
知能を伸ばすチャンスは3回。0〜8歳の幼少期、思春期、25歳までの間。中でも4〜6歳が最も伸びるので、ここで何をするかが重要です。
最も知能が伸びるとされる幼少期には「好奇心」と「探求心」を育むのが最も重要です。そして、「好奇心」を育むために行うべきことは、早期英才教育ではありません。
教育には順番があり、興味がなければその教育には何の意味もなく、逆に子どものストレスになります。
それでは何をすれば良いか。
4歳〜6歳の時期に一番良いことは「遊ばせること」です。
自由に探索させて遊ばせることで「これはなんだ?」と興味を持ち、危険なことも自分で学びます。そうやって、自然環境と社会環境に適応することで脳が変容し知能が発達し、さらに前頭前野も育成します。
また、この時期子ども同士で遊べないことに対し、親は「協調性が育たない」と言うけれど、それもほっておくことが大事です。
大人がモデルを作って理想形にあてはまらないという発想が最も子どもをダメにします。
親なら誰でも、「愛情深く聡明で個性的な人間に育ってほしい」と願うもの。子どもの早期英才教育を始める前に、お子さんと一緒に思いっきり遊ぶ計画をたててみてください。
生物が生まれつき持つ能力である「本能」に対し、「知能」は動物が持つ知的能力であり、自我と個性を理解したうえで、自然環境や社会状況などを予測、考慮して生きるための「適応力」とも言えます。