【学びのカタチ】“やっていい”自由が世界へ羽ばたく子を育てる

【学びのカタチ】“やっていい”自由が世界へ羽ばたく子を育てる

2020年の教育改革を間近に迎え、新時代を生きるこれからの子どもたち。親である私たちが受けてきた教育があたりまえでなくなるこの時代、子どもに合った最適な教育とは何なのか?この連載では、従来の評価軸では計ることのできない独自の視点で子どもの能力を伸ばす、新しい「学びのカタチ」について紹介していく。今回は、サイエンスに特化したインターナショナルスクール「Manai Institute of Science and Technology」代表、野村竜一氏に話を聞いた。

<連載企画>学びのカタチ

アンバランスでいいから没頭体験を積む

2019年に「Manai Institute of Science and Technology」(以下、Manai)を開校した野村竜一氏。

前編では、世の中にアクセスするため、そして自己表現をするために、科学の実験や研究を通し、子どもたちが“没頭すること”がこのインターナショナルスクールのコンセプトであると話してくれた。

野村氏が没頭を通した学びを核とするのはなぜなのだろうか。自身のある体験がManaiの学びの主軸を作ったという。

机上以外で学んだ没頭体験

 
「みんなでいっしょに机を並べて授業を受ける受験対策のための学びは、そろそろ限界に来ているのではないかと感じています。自分が熱中したり好きでやっていることで学んだこと、没頭したこと以外は何も残らない。

そう考えるのは、私の高校時代の経験が元となっています。私の通っていた高校は科学実験が盛んな学校で、お題だけ与えて自分で時間を決めて実験レポートを作りなさい、というように生徒に主体性を持たせる授業が多くありました。

また、数学の時間で対数関数を習ったのですが、授業では全く頭に入らず理解ができなかった。しかし、全く別のクラスで化学の実験レポートを書く際に、収集した数値をグラフ化する必要がありました。一般的には数学の授業で扱われる対数関数を化学のレポート作成の中で試行錯誤の中、必要に迫られて使い、学び、初めて理解したという強烈な没頭体験でした。
 
Budimir Jevtic- stock.adobe.com
そういう私自身の経験があり、決められたタイミングで一方的に浴びせられることに対しての問題提起としての意味も含め、没頭体験を通した学びを提案しています」

――やってほしいことに手がつかずに夢中になっている子どもを前にすると、ついイライラしてしまうことがあるかもしれません。

「子どもが何かに没頭していたら、それがゲームや漫画であったとしても止めない。没頭する力のある子どもは没頭対象から多くを学び取ることができ、それを生かす力があります。

これからの時代は、バランスよく平均点を取ってもAIに負けてしまう。だからアンバランスでいいから、とことん没頭体験をさせてあげてください」
 
提供:Manai
子どもたちが没頭しながら学んでいくManaiには、入学試験がない。その代わりに3カ月のトライアル期間を設け、研究に対する熱意や、他者を巻き込むことができるか、逆境の中でも前に向かうことができるか、他者との違いを自分の強みにできるかなどを総合的に判断すると野村氏はいう。

「3ヵ月間のトライアル入学をするのは、僕の中で『たった1回の入学試験では、その子の適正が分かるはずがない』という思いがずっとあったからです。エッセイ(小論文)でも面接でも、お互いに“それ用”のものになってしまう場で分かることなんて限られているので、それならいっしょにプロジェクトをしてみましょうという期間を設けているんです。

同時に、『学びの費用の負担は誰がするべきか』という問いをずっと持っていた。だから、Manaiに入学した生徒は”Senpai制度”というシステムにより、学費や授業料を負担せずに学ぶことができます。スクールを運用する費用はすべて、Manaiの思いに賛同してくださる企業や研究所、起業家の方々からの援助で成り立っています。

今までだと当たり前のように親や本人が学費を負担していましたが、将来子どもたちの学びの恩恵を受けるのは誰だ?と考えるとそれは社会ですよね。だったら恩恵を受ける側が負担するのが、本来の姿で理にかなっているのではと思いこの制度を作りました」

「やっていい」自由が自己肯定感になる

 
「日本に限らず、今、子どもたちに一番欠けているものは自己肯定感なのかもしれません。自分の好きなことに自信を持つという考え方、それが欠けていることは本人の損失だけでなく、社会損失でもあるのではと思っています。

『やっていいんだよ』という自由を後押しする環境を作ることが我々のフィロソフィーに当たるところです。

『やっていい』自由を得て子どもが主体的に学ぶと、子どもは自然と没頭します。それが人間の本来の性質だからです。そして没頭した学びが深みに達するからこそ、『やってよかった』『自分だってできる』『自分も周りの景色を変えられる』という自己肯定感が生まれます。自己肯定感を持った子には、壁が立ちはだかったときに乗り越える力や、新しいものを創造する力も付随します」

野村氏は、没頭対象を見つけるためには子どもの頃からできるだけ多くの没頭する可能性に触れておくことが大切だと語る。

「没頭するために何かを始めるのは本末転倒ですが、合わなかったらすぐに切り替え、多くの機会と選択肢を与えてあげましょう。一度、没頭体験をした子どもは没頭癖がつき、他の対象にも興味を持って学ぶ姿勢が身に付きます」

Manaiが描く、子どもの未来

今の子どもたちが大人になる未来は、科学もさらに進歩して可能性の幅も広がるだろう。野村氏に未来を想像してもらった。

かけ算の増える未来に、自由になるための武器を

「かけ算が増えていくでしょうね。今まで違う分野として語られていた物事の境界が、もっともっと曖昧になっていくと思う。とりわけこれまで科学として扱われなかった分野と、科学の境はなくなっていくと考えます。

そういう意味でも、科学的なものの考え方を小さい頃から作法として身につけるというのは、自由になるための一つの武器になると思います。
 
提供:Manai
我々Manaiとしては、彼ら子どもたちが将来、どうなってほしいかをあまり考えないようにしているんですね。彼ら自身がどんな人間になりたいかを決められるような、武器を身に付ける環境を作ることが我々のやることであって。なので彼らがどんな未来を選ぶかは、あえて関せずにいようというところです。

ただ、唯一何かを身につけてほしいとあるならば、やはり自己肯定感だと思っています

Manaiから世界にアクセスする

Manaiの学びはTokyo Baseに留まらない。現状でも国内外の研究機関にネットワークを持ち、生徒たちは最前線で活躍するプロと交流の機会がある。

今後、このネットワークをどう展開し、学びの場を広げていくのか。Manaiのビジョンについて聞いてみた。
 
「いろんな人たちが出入りして、科学を通して学び、世界にアクセスして自由に生きていける人たちを育てることが、我々のビジョン。

我々は学校教育機関と言いつつも、本当に作りたいのは『学校』ではなく、『共同体としてコミュニティー化する』ことが究極の目標。

基本的に教育はどうしても洗脳的なところがあり、どこか一カ所のコミュニティーに所属することは、ひとつの考え方に染まりやすく、ものすごく大きなリスクになるんです。これからの時代、ひとつの価値観だけで判断することのリスクは、時を経るにつれて大きくなっていくでしょう。
 
提供:Manai
新しいものが生まれるきっかけは没頭と、あともうひとつ、ダイバーシティだと思うんですよね。異なるふたつ以上のもののかけ算でしか新しいものは生まれない。

複数のコミュニティーに出入りすると子どもの視野は広がりますし、閉塞感を感じることもない。コミュニティーの数だけ人間関係があり、そこで新たな発見がある。

だからこそ、学校と家の閉じたコミュニティーを往復するだけではなく、子どもはいろいろなコミュニティーと関わったほうがいい。我々はManaiの中で物事を閉じさせないようにしています。

もっと現実的なビジョンとしては、海外の学校にいる子たちをビジテッドリサーチャーのように受け入れて、Manaiにいる子たちと交わっていくような形を作れたらいいなと。

海外を含めいろいろな子たちが、1週間、1カ月、1年かもしれないけれど、絶えずやってきてこの場で研究して、また世界に散らばっていくという。そういう場にしていく計画を進めています」

Manaiの学びのカタチ

最後に、Manaiという名前にどのような意味が込められているのか聞いた。

「『Manai』は日本語の『真名井』をアルファベット表記にしたものなんです。昔の日本人の考え方のひとつに、物事はその名称がつけられるまでは、何者でもないという考え方があります。これから何かに機能や役割を持つ前の、可能性を秘めたごちゃっとした状態のことを『真名井』っていうんですね。

その話を聞いて、まだまだ可能性のかたまりだけど、何かをがんばることで自分たちの役割を得て本当の自分になっていく場所にしたい、という想いを込め『Manai』と名付けました」

子どもたちは、これから大人たちが解いたことのない問題に直面していくだろう。そんな未来では「なぜ?」に徹底的に向き合う“没頭力”と、それを解明する科学の経験がきっと役に立つ。世界に革命を起こすイノベーターが、このインターナショナルサイエンススクールから生まれる日も遠くはないかもしれない。
 
Manai/Webサイト
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部
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2020年07月17日

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