【学びのカタチ】科学を通して没頭を学ぶインターナショナルスクール

【学びのカタチ】科学を通して没頭を学ぶインターナショナルスクール

2020年の教育改革を間近に迎え、新時代を生きるこれからの子どもたち。親である私たちが受けてきた教育があたりまえでなくなるこの時代、子どもに合った最適な教育とは何なのか?この連載では、従来の評価軸では計ることのできない独自の視点で子どもの能力を伸ばす、新しい「学びのカタチ」について紹介していく。今回は、サイエンスに特化したインターナショナルスクール「Manai Institute of Science and Technology」代表、野村竜一氏に話を聞いた。

<連載企画>学びのカタチ
 

科学研究を通して自分の興味に没頭する

世界中で多くの人が感染しているB型肝炎の新しい治療法を、ナノ粒子によってつくれないか?運動によって、反射神経を強化することは可能か?視覚や嗅覚などの感覚機能が味覚に影響を与えることはあるのか?使用済みの植物油から、酵素を使ってバイオ燃料を製造できないか?……。

このような興味関心を持つ高校生たちが、科学を通して研究、実験し、没頭するための教育・研究機関がある。2019年に開校した、インターナショナルサイエンススクール「Manai Institute of Science and Technology」(以下、Manai)だ。

「Manaiには、全生徒に共通する時間割がない。生徒ひとりひとりが自らテーマ設定を行い、実験による仮説検証を繰り返し、レポート・論文を作成して発表するまで、自分だけのスケジュールを組み立てて通っています」と話すのは、代表の野村竜一氏。
 
学校と塾の両方の機能を持つ教育機関として、高校生を対象とし、卒業すると大学入学資格(WASC認定)を得ることを選択できるManaiは、小中学生を対象とした”Manai Junior”も開始している。

ここでの学びとは、一体どんなものなのだろうか。

生徒自身がアクセスしていく学びの場

取材当日はManai Juniorの放課後クラスを見学させてもらった。低学年は保護者といっしょに研究を進める場合もあるようだ。ブラックホールについて知りたい子どもや、虫歯の原因となる硫酸カルシウムについて調べている子どもが映像を見ながら研究のヒントを探していた。

そのほかにも生徒たちが取り組んでいるリサーチについて聞いた。

「たとえばそこで怪しく光っているのは、植物を使ってアンモニアを作るという実験装置。

空気中の窒素を、液体や固体にしてアンモニアを作るという分野が昔からあるのですが、これを工業的にではなく植物を使い、バクテリアの力を借りて取り組む実験をしている子がいます。 
 
他には言語学をやっている子もいますよ。我々メンター陣に言語学にくわしい者がいなかったので、外部の大学の先生に頼んでメンターをお願いしています。

こんなふうに、Manaiでは子どもたちがそれぞれ思い思いのプロジェクトやテーマに取り組んでいます。

どこまで研究するかという研究期間の設定も生徒によって全く違います。研究が終わったら論文を出したり、コンペティションに参加するということをこれから目標にしていきます」

提供:Manai
提供:Manai
――Manaiには時間割がないということも、これで納得です。カリキュラムを自分で組み立てるから、週に5日来る子もいれば、放課後だけ、土日だけ来る子がいるのですね。

「我々が用意する授業を自由に取っていくという意味では、我々は“カリキュラム”という概念をあまり持っていない。カリキュラムとは基本的には到達目標があり、到達するための勉強内容を指示するものです。

ここでは到達目標は生徒自身で決めるものだし、目標のために何をするのかは生徒自身がアクセスしていきます」

先生はいない。メンターが伴走する

生徒たちは個々で決めたテーマに沿ってリサーチや研究を進めていくだけではない。たとえば、メンターによるワークショップやセミナー、実験プログラムなどを合わせて選択していくことで、より深く、広く没頭をすることができる。

――先生のいないManaiでは、メンターはどのような役割をしているのでしょう。

「生徒一人ひとりにメンターがつき、研究テーマを相談したり、研究を進めるうえで必要な文献や研究者、研究機関を紹介したり、適切なアドバイスをしています。
提供:Manai
提供:Manai
なかなかテーマが決まらない生徒に対して、上から指示するのではなく興味や趣味をヒアリングし『そういう興味があるなら、こんな分野はどう?』と提案をしていくメンタリングができるのは、我々の強みのひとつですね。

会話の中から生徒の気付きを促すための手法である”メンタリング”の時間は頻繁に設けていて、最低でも週に1回は実施しています」

――教室という概念もなさそうですが……生徒たちが研究を行なうラボはこのManai Tokyo Baseだけではないのですか?
 
提供:Manai
「提携している科学技術分野の研究などを行なっている企業のラボを借りることが多いですね。このあたり(市ケ谷)は大学も多く、東京理科大学や東京工業大学のラボにおじゃますることもあります。

学校の理科室のように、設備に合わせて研究をするのではなく、生徒の研究に応じて設備や施設を配置する。世界中が学びの場になり得るという点が特徴です」

なぜ子どもに科学が必要なのか

国境のない多様性にひらかれた学問

――科学に着目されたのはなぜですか?
 
「科学には国境がなく、人と人が国の線を越えてコミュニケーションをしていっしょに取り組む、人が学び、みずからの学びを生かして外界にアクセスして自分を表現するインフラとして大変優れていると思っています。将来は科学者になって国をまたぐのだから今のうちから国籍は意識していません。

我々に共通する考え方で国籍という概念はなく、だから授業もコミュニケーションも基本的には全て英語です。

国籍だけでなく、性別、年齢、バックボーン、それに考え方が”ごちゃまぜ”な環境で、自分だけの没頭を重ねていく経験は、他者と違っていることを無意識に肯定できるようになる。

さらに、違いを肯定することは、自分の考えと異なる他者と協力して新しいものを生み出すことにつながります。

そのため、ダイバーシティな環境を整えることと、生徒が立てた目標を最大限叶え『好きなことに没頭できる』環境を作るというのが、我々の仕事です」

科学は“社会にアクセスするためのツール”

――野村さんは『学習塾ロジム』の共同創業者・共同代表でもありますが、『学習塾ロジム』から『Manai』へはどういう流れだったのでしょうか。
 
「モノを独断や偏見で判断していることで損をしている、論理的に考えられないことで社会的にもったいないことが起きている。そのような想いから、2006年に問題解決力やロジカルシンキングを学ぶための『学習塾ロジム』を作りました。

物事を独断と偏見ではなく、因果関係の中で『こうだからこう』と主張できる人間が増えると、世の中ずいぶん変わるだろうという想いがありました。

その中で、本質的な学びとはどんなものかを考え、たどり着いたのがManaiです。だからこそ、科学と他の分野をかけ算するというのは、我々が意図的に行なっていることです。

Manaiの前身であるInternational School of Science Founding Project(ISSJ)では、サマースクールやスプリングスクールでいろいろな分野とかけ算したプロジェクトを行いました。

たとえば『禅とサイエンス』。禅の教えは世界中の科学者やアーティストがすごく興味を持っています。科学と禅にどんな共通点があり、どう違うのかを、みんなでお寺に行って和尚さんを交えてディスカッションしたりしました。
 
iStock.com/SAND555
また、宇宙をテーマにしたことも。天体観測やゲーム開発のほか、実際にモデルロケットを製作し実験も行ないました。ロケットを作る過程で、航空力学や重力などの計算や、構造、設計のコツを学び実際に飛ばす。

ここで言いたいのは、科学だけを実直に学んでほしいわけではなく、科学は自分が没頭するツールであり、世の中にアクセスするためのツールで、自分を表現するツールであるということ。

そのツールを使って、自分の興味や社会問題と積極的に組み合わせることで、新しい世界をつくっていくことを目指しています」

後編では、野村氏が自身の体験から考える学びの本質と、Manaiのビジョンについて語ってもらう。
Manai/Webサイト
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部
【学びのカタチ】計算し尽された学びの設計が“創造者”を育む
<連載企画>学びのカタチ バックナンバー

2020年07月16日

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