KIDSNA編集部の連載企画『スポーツ王の育て方』。#05は小池絵未氏にインタビュー。日本人初となる米3大プロスポーツリーグのチアリーダーに選ばれてきた彼女は、どのような教育を受け、どのような想いのもと突き進み、現在に至るのかを解明していく。
「目指した以上の成果を出すことに意識を向ける」
「チアリーダーに対するパッションは誰よりも強かった」
チアリーダーとの出会いやモチベーションとなった想いについて聞いた。
ーーチアリーディングを始めたきっかけについて教えてください。
「中学1年の頃から2年間ニューヨークで暮らしていたのですが、そこで影響を受けました。アメリカではやはり、チアリーダーは女子の一番の憧れです。
幼い頃からプロスポーツを観ることが好きで、自分も応援したい、近くで携わりたいという気持ちがあったことも、チアリーダーに興味を持ったきっかけですね」
ーー中学3年で帰国され日本の高校に進学してからはチアリーディング部に入られていますね。
「3歳からクラシックバレエを習っていたこともあり運動は得意だったので、それならチアリーディングの強い学校に行きたいと考えて高校を選びました」
ーー実際に憧れのチアリーディングを始めて抱いた感想は?
「すごく楽しかったし、ものすごく辛かった。
練習は厳しくて、夏場に延々と続くランニングや、筋トレも辛かった。私はベースと呼ばれるポジションで肩に人を乗せていたので、最初の頃は肩の皮が擦り剝けて、痛くて泣いていましたね。練習で人が上から落ちてきて怪我をすることもある」
ーー練習も厳しく身体も痛い。危険も伴う。それでも続けられたモチベーションとは?
「高1の夏にチアリーディングの大会に出場し、全国3位になった時、テレビに映ったんです。それがとても興奮して、病みつきになってしまって。もっと頑張りたい、もっと上に行きたい気持ちが、モチベーションになったのだと思います」
ーー高校の頃からプロになることは考えていましたか?
「意識していましたね。日本人女性がアメリカでチアリーダーとして活躍しているニュースを観て、私も本場で上を目指したいと考え、アメリカの大学を選びました」
高い競争率に比例して長い練習時間も必要とされたはずだが、本職に勤める時間や労力も重要だ。プロのチアリーダーとして、日々をどのような意識で過ごしていたのだろうか。
ーープロ時代はチアダンスをされていたそうですが、練習は変わらず厳しかったですか?
「そうですね。練習のウォーミングアップにフィールド4周ランニングなど、とにかくよく走りました。試合中の約4時間ずっと踊り続けるので、体力が大事。
でも何よりも、ダンスの振付を覚えることに必死でした。すぐに覚えて、踊れと言われたらすぐに踊れないといけない。
NFLだと1試合で4クォーターあるので、各クォーターの間に踊る長いダンスが4パターン。プラスして、サイドラインで試合中に踊るダンスが20パターン。試合ごとに曲も変わるので、覚えるパターンがものすごく多い。NBAは振付が早くてついていくだけで大変。
それでも間違えるとフィールドに立てないので、毎日仕事を終え帰宅してから何十回、何百回と踊っていましたね」
ーーチアリーダーはみんなの憧れの的である分、気をつけていたことなどありますか?
「女の子には憧れられる存在ですし、子どもたちに見られているので、見本となる大人でなければいけないとオンオフ関係なく常に意識していました。
食生活にもすごく気をつけていましたね。
毎週木曜日に体重測定があったので、普段食べられるものは、ヘルシーなサラダや茹で卵だけ。ハンバーガーやラーメンなどの炭水化物が食べられるのは、年に一度だけでした」
ーーそれだけ自分を追い込んでいると、精神力も鍛えられそうですね。
「そうですね。特にチアリーダーを目指す女性は、やはり芯が強く努力家です。誰にも負けない意識を持っている。だからこそ、表現力が非常に長けています」
ーーそこに埋もれず存在感を放ち続けた方法は?
「自己アピール力を身につけましたね。最初はすごくシャイでアピール方法もわからなかったのですが、チアリーダーを目指す女性たち、特にアメリカ人は、オーディションなどで審査員に『踊って』と言われたら、みんなすぐに全力で踊れる。そのアピール力に圧倒されました」
ーーどのようにしたら、アピール力は身につくのでしょう?
「数々のオーディションに挑戦して、合格と落選を繰り返しながら身につけました。成功して失敗して、また成功して、そうすることでしか自信をつけることはできない。
日本の若者たちにも、失敗を恐れずにいろいろなことにチャレンジしてほしい、と思いますね」
大胆でダイナミックな国民性と競い合えるほどの実力やアピール力なくして、プロのチアリーダーになることはできない。その厳しさを感じたからこそ、挑戦を続けられたのだろう。
高1の頃、初めてのチアリーディングへの挑戦にも関わらずレギュラーとなり、チーム全国第3位の要員となる。そのベースには何があり、その経験がどのようにプロへと繋がっていったのだろうか。
ーーチアリーディングを始める以前に習い事などされていましたか?
「3歳の頃からクラシックバレエを習っていました。
母がバレエダンサーだったこともあり、私にもそうなってほしかったのだと思います。通っている子みんながプリマドンナを目指すような、厳しいバレエ団でした。正直、行きたくない時もあった(笑)
でも、高校1年でチアリーディングを始めてすぐにレギュラーになれたのは、バレエを習っていた成果だと思います」
ーークラシックバレエのどういった部分が、チアリーディングに活かされたのでしょう?
「体が柔らかかったし、足もすぐに上まで上がりました。リズム感も含め、高校1年の頃には既に身体の基礎ができていたと思います」
ーーアメリカの大学へ進み、本格的に本場のチアリーダーへの挑戦が始まったわけですが、日本とアメリカでの違いはどのように感じましたか?
「大学ではチアダンスチームに入っていましたが、チームに入るためにはオーディションに受かる必要があります。
チームに入れるのは中学高校とチアダンスをやってきた上手な子ばかり。私が入れたのも、日本の高校での厳しい教えがあったからだと思います。
私が評価された部分は、動きがシャープでモーションの一つひとつの形をキレイに決めることができる、細かい基礎があることでした。ただ、オーデション時のアメリカ人女性のパワーやダイナミックさには圧倒されましたね…!」
ーー高校での下積みが活きたのですね。
「高校の時から、人一倍練習してきた自負はあります。大学の時もとにかく自主練して、コーチに一対一で見てもらう時間を作ってもらい、フィードバックをすべてメモしてその部分を徹底的に練習したり。
チアリーディングとチアダンスに対するパッションは誰よりも強かった(笑)。
それに、プロのチアリーダーという目標を達成するために、今自分はどうしたらよいか、と常に考えていました。大学のチアダンスチームに入るのはその第一歩でした」
ーープロになるために500人の中から選ばれるなど競争率は激しかったと思いますが、特別にライバルとして意識した存在はいましたか?
「チームメイトでしょうね。ダンスチームでは上手な子がセンターなど良いフォーメーションにつくのが通例です。
自分も良いフォーメーションを取りにいきたいから、みんな努力する。試合に出るためのオーディションもあり、チームの中で競い合うからこそ、一流のチアリーダーが誕生するのだと思います」
ーーライバルでも、チームワークは必須である印象があります。
「もちろんそうです。チームの絆が固く、みんなの気持ちが一つになっていればダンスの演技もまとまる。だからみんな、ライバルであっても仲良しです。NFLのチームだとお互いを“シスターズ”と呼ぶくらい、家族のような絆ができている。
ただ私はライバルとして誰かを意識するよりも、目指した以上の成果を出すことに意識を向けていました。何か上手くいかないことがあっても、目指した以上にできれば周りを見返すことができる。負けず嫌いだったので、結果として勝つことが大切でした(笑)」
親の勧めで続けてきたクラシックバレエは、結果として功を成し、小池絵未氏がプロの世界へと向かう原点となった。彼女が結果にこだわるのには、そうしたバックグラウンドがあるからなのかもしれない。
母の望むバレエダンサーの道からは外れたものの、自ら選んだチアリーダーの道で直面する辛い場面では、いつも両親からの言葉が支えになっていたという。小池絵未氏の向上心を育てた両親の教育について聞いた。
「チアリーダーを続けていると、厳しい練習やオーディションの落選などもあり、気持ちが弱気になることが何度もありました。それでも続けてこられたのは、常に上を目指していた自分自身の気持ちと、両親からのアドバイスがあったからこそだと思っています。
両親は、私が後ろ向きになっていると『もう一回やってみればいい』『人生一回きりなんだから』と声をかけてくれて、背中を押してくれました」
ーーお母さまはバレエの夢を託されていたそうですが、チアリーダーになることを反対はしなかったのですか?
「最初は反対していました。ただ、大学のチアダンスチームでNCA/NDA全米大学チア・アンド・ダンス選手権に出場したとき、会場まで見に来てくれたんです。
その時に、大舞台で優勝した私のパフォーマンスを見て、初めて認めてくれたのだと思います。私の熱意が伝わったと実感した瞬間でした」
「両親は、英語には特に力を入れていました。幼稚園に入る前から、帰国子女の家庭教師をつけてくれるほどでした」
ーー中学1年の頃にニューヨークに引っ越された時、その学びは活かされましたか?
「最初は、トイレに行きたいも言えませんでした(笑)。
でも1カ月ほどのサマーキャンプに参加して、日本語を話さない環境に身を置いたら、覚えるスピードが格段に上がりました。その経験から、大学でアメリカに戻ったときもルームメイトはアメリカ人、現地の人しか来ないお店でバイトをするなど、常に英語しか話せない環境に身を置きました。
英語を習得するには、自分を困難な環境に置くことが一番早いと思います。
英語を理解すると、いろいろな人種の人たちと出会えて、さまざまな文化を知ることができる。世界も自分自身の価値観も、確実に広がります」
ーー中学3年の頃に帰国してからは、英語を忘れないよう工夫されていましたか?
「両親にネイティブの知人がいたので、英語でコミュニケーションをとる習慣は常にありました。アメリカのコメディ番組やドラマを観ることもしていましたね。
また留学したいと思っていたので、常に英語を耳にして話す機会を作るように努力していました」
幼少期は学びの機会を惜しみなく与えてくれた両親だが、自立することに重きを置き、大学費やアメリカでの生活費はすべて彼女自身が賄ってきたという。子どもだからと甘やかさない両親の教えは、厳しい状況でも努力を続けられる彼女の基盤となったのかもしれない。
今を迷いなく「幸せ」と語る彼女の、現在の活動について聞いた。
最後に、小池絵未氏が思う「スポーツ王」について聞いた。
「アメリカですごい選手をたくさん観てきましたが、マイケル・ジョーダンはやはり格が違うと感じました。日本人選手でいうなら、羽生結弦選手ですね。
大観衆の中で、覚えた振り付けをノーミスでこなさなければならない。オリンピックという計り知れないプレッシャーの中でそれを完璧にこなす、その魅せる力に圧倒されました。
私も踊りをやっていた者として、その大変さは苦しいほどわかるので、本当にすごいと思うし、尊敬します」
ーー小池さんは日本人初の米3大プロスポーツリーグを制覇したチアリーダーとなったわけですが、ご自身をどのように考えられていますか?
「私は常に向上心を高く持っていましたし、上へ行けば行くほど、一流の人々と触れ合う機会も増え、触発されてさらに上を目指してきました。
チアリーダーだからこそできる特別な体験もたくさん経験できましたし、今、メジャーリーグの取材などができるのも、チアリーダーをやっていた自分あってこそです」
ーーチアリーダーを引退されるとき、どんな感情でしたか?
「正直、もう1年続けようか悩みましたが、ちょうどその時NFLレポーターの話をいただいていたので、これは前に進むべきだと判断しました。
引退しても戻りたいと思ったことは何度もありましたが、昔いた場所に戻るのは、前に進むのとは逆な気がして。次に進みたい、次に出来ることは何だろうと考える方が、私らしい。
今昔の自分よりもっとすごいことをやりたい。今は、ただそれだけを考えて進んでいます」
凛とした佇まいと目を惹き付ける美しい姿勢。チアリーダーとして活躍されていた姿を容易に想像することができる。怒涛のごとく駆け抜けてきた学生時代、競争の中で生き抜いてきたプロ時代を明るく笑い飛ばすかのように語ってくれた彼女は、その当時と変わらず、たくさんの笑顔を見せてくれた。
<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部
2019年01月09日
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