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KIDSNA編集部が選んだ、子育てや教育に関する話題の最新書籍をご紹介。今回は、『時間×食事で賢い子が育つ!簡単・最強子育て』(幻冬舎)。時間という観点から、栄養学の領域にアプローチした「時間栄養学」を研究する著者の古谷彰子氏が、賢い子どもを育てる食事ノウハウを徹底解説します。
日本の子どもは睡眠不足
世界の乳幼児と比べると、日本の乳幼児は寝るのが非常に遅いということが分かっています。
P&Gが0歳〜36カ月の子どもに、パンパース赤ちゃん研究所が0歳〜48カ月の子どもに行った調査では、フランスの子どもの84%が22時前には寝ているのに対して、日本では53.2%の子どもしか22時前に寝ることができていませんでした。
言い換えれば、日本ではおよそ半数の乳幼児が、22時以降に就寝しているということです。19時前に寝ている子は、ほんの1.3%しかいないのです。
父親の就寝時刻が遅いこと、母親の睡眠時間が短いということが、日本の乳幼児睡眠時間が短くなる理由です。日本のママたちは早起きで、それが子どもの睡眠時間にも影響しています。
このような大人の生活に引っ張られて、日本の子どもたちは寝るのが遅くなるだけでなく、睡眠時間も削られがちになっているのが現状です。
睡眠時間が短いと、まるで借金のように「睡眠負債」がたまります。睡眠負債がたまると、体内時計もずれていきます。
そしてメラトニンやオレキシンなどの睡眠を司るホルモンの分泌もうまく行われなくなるため、さらに体内時計がずれるという悪循環にはまってしまうのです。
そして、このように睡眠負債がたまると、週末だけはお昼まで寝てしまうという人も多くなります。すると今度は日本にいながら体は「時差ボケ」を起こすことになります。
体内時計が大きくずれて、そのずれに体が対応できなくなるのです。なんとなく頭がぼんやりしたり、疲れが取れないという方は要注意です。
よく皆さんは、自分やお子さんの睡眠をなんとなく「私は朝型」「うちの子はどうも夜型みたい」というように、「朝型」「夜型」と分類しますが、この分類を「クロノタイプ」と呼びます。
なんとなくの感覚が本当に正しいかどうか、実ははっきりと分かっているわけではないはずです。朝型か夜型かを調べるには決まった方法がありますので、ご紹介しておきましょう。
まず、調査するための睡眠は休日の睡眠を使います。平日は学校や仕事で無理して早く起床している方も多いからです。就寝時間と起床時間を記録し、その中間時刻を調べます。そして自分の年代別に、表のどこに当てはまるかを確認します。
たとえば、小学校低学年のお子さんが、9時に寝て6時に起きたとしたら、中間時刻は1時30分。表を見ると、1.5時よりも前なので「朝型」となります。
お子さんがどのようなクロノタイプをもっているかを知ることは、生活リズムをつくるうえでとても大切です。なぜなら、平日と休日の起床時刻、睡眠時刻が大きく違うと、学校でのリズムやメンタルに大きな影響を及ぼすからです。
学校がある日とない日の起床・就寝時刻のずれが、どのような影響を及ぼすかを調べた調査があります。
文科省の「家庭教育の総合的推進に関する調査研究」(平成26年度)によると、起床時刻と就寝時刻の大きなずれは、授業中の眠気につながっていることが分かります。
学校でしっかり授業を受けるためにも、平日と休日の起床・就寝時刻をそろえる必要があるのです。
親が子どもの成長のためにしてあげられることはたくさんありますが、睡眠時間を守るということもその一つです。しかし「寝なさい」と言っても寝ないのが子ども。だからこそ、「夜眠くなる」「ぐっすり寝られる」ように環境を整えることがいいのです。
乱れた体内時計をリセットする食事の力
では、どのようにして夜ぐっすり寝られるような環境を整えればよいのでしょう。そのためにまずは、「体内時計」について知ることが大切です。
私が睡眠時間を気にしているのは、大人に合わせた生活で、子どもの体内時計が狂っていると感じているからです。
体内時計というのは、私たちの体にリズムを生み出してくれる、体に組み込まれた機能ですが、朝目が覚めて夜眠くなるのは、皆さんの体に体内時計があるからです。
大人、子どもにかかわらず、この体内時計が狂うと、日常生活にさまざまなトラブルが起こります。睡眠、健康だけでなく、仕事や勉強の効率にまでその影響は及びます。
しかし、私たちがもっている体内時計、実はそれほど精密ではないのです。大きな問題点は次のふたつです。
- ぴったり24時間ではない
- 体の部位ごとで、時計が違う
このふたつの問題を理解しておくと、お子さんの「体内時計をつくり」「体内時計を調節する」ことがうまくできるようになります。
私たちの脳や体にある「時計遺伝子」は、体を地球の時間に合わせて調整する役割をもっています。この時計遺伝子ですが、体内のあらゆる場所に組み込まれています。
メインとなるのが、脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」にある「主時計」です。皆さんの両耳をつないだ中間あたりに位置しています。
この主時計以外に、胃、腸、肝臓などの内臓や、血管や皮膚などの末梢組織にも「副時計」と呼ばれる体内時計が備わっています。これら体全体に備わっている副時計を調整するのが、脳の主時計です。
ここで最初に問題になるのが、これらの時計は、地球が刻む1日の長さである「24時間にセットされていない」ということです。まず、そもそも中心となる脳にある主時計からしてずれています。
主時計が刻む「1日」の長さは人によってばらつきはあるものの、およそ24時間よりも少し長い時間。そのため、外の光の刺激がない洞窟に住むとすると、地球の1日と、自分の体が刻む1日が、毎日少しずつずれていきます。
そしてさらに悪いことには、それぞれの内臓や血液、皮膚などの末梢組織にある副時計が刻む「1日」の長さもほぼ同じくらいの長さとはいえ、バラバラに存在しているといわれているのです。つまり私たちは体の中にずれた時計をいくつも抱えて生活しているというわけです。
ですから私たちは毎朝、それらの時計を一度リセットしてから1日をスタートするようにしなくてはならないのです。
そのリセットに役立つのが食事です。特に朝食は、1日のスタート時に体内時計をぴったり合わせてくれる役割をもっています。普段の食事に焦点を当てていけば、親子で体内時計を整えていくことができます。
何も生活習慣を変えずに、子どもを早く寝かせることは非常に難しいものです。しかし、食事を変えれば、お子さんもそしてママも夜ぐっすりと寝られるようになります。
夜更かしをするこの子が悪いというのでも、忙し過ぎる私が悪いというのでもなく、食事を変えればいい。それを知るだけでも、気持ちがずっと楽になるはずです。
脳の栄養素を作る「朝食」
朝食には栄養以上の意味、「体内時計のリセット」という役割があるということが、最近の研究で明らかになってきました。
リセット効果については後編で詳しく述べますが、まず朝食の影響がどれほど大きいか、実際の調査結果で確認していきましょう。
文部科学省が行った「全国学力・学習状況調査」(平成30年度)によれば、朝食の摂取を「全くしていない」という子は、「している」という子に比べて、大きく差をつけられていることが分かります。
また、目を引くのが朝食を摂取「している」子と、「どちらかといえば、している」という子の差が大きいことです。習慣の力は、私たちが思っている以上に大きいのです。
これらの調査から分かることは、勉強を頑張らせる前に、親が毎日朝食を食べさせることで、子どもの成績を伸ばす支えになるということなのです。
では朝食がどのように脳の栄養になるのか、その仕組みを見ていきましょう。脳は炭水化物が分解された形である「グルコース」を栄養素の一つとして活動しています。
そのため、朝食、特に炭水化物を摂取しないと、グルコースが届かず、脳は栄養素不足となります。そして栄養素が脳に届くまでには、ある一定の時間が必要です。例えば水であれば、胃が空っぽなら30分ほどで腸に届きます。
しかし、しっかりと1食食べると、その食物が胃で消化されグルコースとなり、それが腸から血管に吸収されて脳に届くまでには、2時間〜3時間かかります。
朝食で取った炭水化物が、分解されてグルコースとなり、脳の栄養素として使われるためには、勉強の最低2時間、できれば3時間前に朝食を取るといいのです。
よく、入試のアドバイスとして「受験前は朝型にしましょう」といわれますが、これは栄養学からいっても正解です。テストが9時からであれば、開始の3時間前、つまり6時頃に朝食を食べるのがベスト。そうすれば9時には、その日の朝食が脳のエネルギーとして使えるからです。
このように脳が働くためには、グルコースという栄養素が届いた状態が必要なわけです。毎日きちんと朝食を取る習慣がある子どもは、常に脳で栄養が取れた状態で、保育園、幼稚園、小学校で午前中の活動をしていることになります。
一方、朝食を取る習慣がないと、子どもたちは午前中の活動を、栄養素不足の脳で行わなければなりません。これが毎日のこととなれば、同じ能力をもっていた子であっても、大きく差が開いてしまうことでしょう。
これは、土日の習い事も同じです。習い事でもっと成果を出したいと望むなら、体温を上昇させるために、きちんと朝食を取ることが大切です。
このように考えると、子どもの成績や、習い事の成果を上げるためにまず親ができることは、朝食を食べさせる」ことだと分かります。「成績が悪いから塾へ」と考える前に、しっかり朝食が取れているか、もう一度見直してみましょう。
後編では、どのような物を食べるとリセット効果を最大限発揮するのか、くわしく解説していきます。