【時間栄養学#02】子どもの能力を最大化する「食事」の科学

【時間栄養学#02】子どもの能力を最大化する「食事」の科学

2021.01.21

KIDSNA編集部が選んだ、子育てや教育に関する話題の最新書籍をご紹介。今回は、『時間×食事で賢い子が育つ!簡単・最強子育て』(幻冬舎)。時間という観点から、栄養学の領域にアプローチした「時間栄養学」を研究する著者の古谷彰子氏が、賢い子どもを育てる食事ノウハウを徹底解説します。

【時間栄養学#01】子どもの能力は「いつ・何を」食べるかで変わる

【時間栄養学#01】子どもの能力は「いつ・何を」食べるかで変わる

体内時計を正常化する「食事」と「光」

子どもの眠りに関する悩みは尽きないものです。夜泣きがやっと終わったと思ったのも束の間、夜間に起きてしまったり、朝起きられなかったり。

寝るのが遅くなるのも、たくさんのママが抱えているお悩みの一つです。また、お昼寝をしない、眠りが浅いなどで悩んでいる方もいるでしょう。

しかし睡眠というのは、なかなか扱うのが難しいものです。大人も睡眠の悩みを抱える人は多くいます。眠ろうと思って眠れるほど、簡単でないのが睡眠。子どもならなおさらです。

iStock.com/paulaphoto
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では、子どもの睡眠をどのように整えていったらいいのでしょうか。その答えは、体内時計と食事にあります。まず、朝食に注目してお話ししていきましょう。

なぜ、朝食が子どもの睡眠に作用するのでしょうか。そのカギを握るのが体内時計です。朝食で体内時計を「リセット」すると、1日を活動的にスタートすることができ、体のリズムが地球の24時間のリズムにそって動くようになりますから、夜になれば眠くなります。

朝食は、体内時計の「主時計」をリセットします。これは前編でもご説明しましたが、脳にある体全体を統括する体内時計です。

主時計と副時計の関係は、オーケストラをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。主時計はさしずめ指揮者。そしてほかの副時計はトランペットやバイオリン、パーカッションなどそれぞれの団員です。

iStock.com/cyano66
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指揮者がおらず、それぞれの団員が自分のリズムやペースで演奏をしていては、楽曲は成り立ちません。指揮者である主時計は、ほかの副時計に対して指示を出します。ほうっておくとバラバラになってしまう時計を、朝、一度一斉にそろえてくれるのが、主時計なのです。

つまり、一斉に楽曲をスタートできるようにするのです。これを私たちは「リセット」といっています。それぞれバラバラの時間を刻んでしまう時計を、朝リセットすることが、地球の24時間リズムにそって生活するために必要なことなのです。

そしてこのリセットができるのは、朝浴びる「光」と「朝食」です。小さな子どもは特に、時計を意識して生活していませんから、体で時を感じる必要があります。

iStock.com/kazoka30
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もし、体内時計をリセットしない生活を続けると、お腹が空くべき時間に空かない、寝るべき時間に眠くならない、といったことが起こります。またそれを繰り返すことで、体のリズムは狂ってしまいます。

食事の話に入る前に、だれでもすぐに取り組める「光の刺激」について、ご説明しておきましょう。これは、朝の光を浴びるだけ。朝、カーテンを開けて太陽の光を浴びると、光が目の網膜に入り、脳の視交叉上核にある主時計が「朝が来た」と認識します。

すると視交叉上核以外の脳と体全体にある副時計に「体内時計をリセットせよ」と主時計から命令がいくのです。つまり指揮者から団員へ演奏スタートの指示がいくようなものです。

iStock.com/Nattakorn Maneerat
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そしてこの光の刺激に加えて重要なのが、「食事の刺激」です。食事をすることで、各内臓を含めたすべての細胞に対し、朝が来たことを脳を介さずに、直接伝えることができます。

この食事の刺激は、赤ちゃんや子どもの体内時計を親が構築をする手立てになります。最近では、光と食事の刺激に相乗効果があるとも、光よりも食事の刺激のほうがリセット効果があるともいわれています。朝の光と食事で、ダブルのリセット効果が期待できると考えていいでしょう。

このような体内時計を構築する食事について考える学問は、「時間栄養学」と呼ばれ近年注目を集めています。夜ぐっすり寝て、早寝早起きできるお子さんに育てるために、この時間栄養学に基づいて具体的な方法をお伝えしていきましょう。

リセット効果がある朝食は「炭水化物+たんぱく質」

では、どのような朝食を取れば、体内時計はきちんとリセットされるのでしょうか。

理想は旅館の朝ご飯。和定食です。ご飯と魚、お味噌汁といった和食の組み合わせが、体内時計をしっかりリセットしてくれます。その理由を見ていきましょう。

iStock.com/kuppa_rock
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体内時計をリセットする効果がある栄養素としては、次のふたつです。


  • 炭水化物
  • たんぱく質

このふたつを一緒に取ることが、体内時計のリセットに効果があることが実験から分かりました。大切なのは「一緒に」というところ。炭水化物単体でも、たんぱく質単体でも、リセット効果は見込めません。

炭水化物について、詳しく見ていきましょう。炭水化物は大きく、このふたつに分けることができます。

このうち、朝食に向くのは「穀類系」の炭水化物です。食材でいえば、ご飯、パン、コーンフレーク、麺などですね。

これは決してイモ類系の炭水化物が悪いというわけではありません。実は朝食に向かないイモ類系の炭水化物は、夕食向きの食材として重宝します。

これら穀類系の炭水化物は、GI値が高いということで、ダイエットでは敬遠されています。GI値とは、脂肪を蓄積する作用のあるインシュリンがどのように分泌されるかを示す値です。

この値が低いほどインシュリンの分泌は穏やかで、この値が高いほどインシュリンは急激に分泌されます。そのため、やせたい人はGI値の高い食品を避けています。

しかし、朝食の体内時計のリセット効果を考えるなら、朝はGI値の高い、穀類系の炭水化物を取ることをおすすめします。なぜならここで分泌されるインシュリンに、体内時計のリセット効果があると考えられるからです。

iStock.com/kazoka30
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そして、それと組み合わせて取りたいのが、たんぱく質です。特にインシュリンの分泌を促す魚油が含まれるたんぱく質は、リセット効果が高いことが分かっています。また、マグロやイワシなどの魚に含まれる魚油には、即効性があることも分かってきました。

マウスを使った実験では、大豆油を入れた餌と魚油を入れた餌で、体内時計をずらす実験をしました。大豆油の餌では1週間で1時間しか体内時計が動かなかったのですが、魚油を含んだ餌では2日で4〜7時間も体内時計が動きました。これはリセット効果が高いと言い換えることができます。

魚のなかでも、おすすめはマグロです。魚油を使った実験では、体内時計のリセット効果が高い順に、マグロ、イワシ、ニシン、サンマとなりました。

とはいえ、「毎朝マグロなんて贅沢」と諦める必要はありません。ツナ缶でOKです。その際は、油漬けのものを選んでくださいね。

iStock.com/jreika
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毎朝ツナ缶で飽きてしまうなら、いろいろな魚の缶詰、サバ缶、イワシ缶などを利用していきましょう。鮭フレークなどを使ってもいいでしょう。冷凍のしらすなど、調理せずに利用できる冷凍食品もあります。

また、たんぱく質ならOKと考えて、卵や肉に変えてもかまいません。続けることが大事ですから、まずは、

「穀類系の炭水化物+たんぱく質」

という2点だけ意識してみましょう。

和定食でなくても、ツナやシャケのおにぎり、魚の缶詰をのせた丼などでもいいですね。パン好きなら、ツナサンド、チーズトーストでもいいでしょう。目玉焼きなど卵料理をプラスできたら上出来です。

iStock.com/kaorinne
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栄養バランスが気になる場合は、パン食はおすすめです。「パン+〇〇+〇〇」といった朝食メニューは、簡単でありながら、栄養バランスが非常に整ったメニューなのです。

卵かけご飯も、コーンフレークに牛乳も「穀類系の炭水化物+たんぱく質」の組み合わせになりますからOKです。忙しい朝、これならお子さんでもすぐに食べられますよね。

このようにあまり難しく考えず、できる範囲でチャレンジしてみてください。忙しい朝はどうしても、バナナだけ、トーストだけなど「単品食い」になってしまう傾向があります。もちろん、バナナやトーストも栄養素としてはひとつではありません。

しかし、品数を多くしたほうが、その分リセット効果が高くなるので、まずは単品食いをやめてプラス一品を心掛ける、というところからスタートしてもいいでしょう。また忙しい皆さんは、缶詰や瓶詰め、冷凍食材もどんどん利用していくといいと思います。

iStock.com/Arx0nt
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栄養バランスが整った朝食を取ると、集中力が上がることも分かっています。まず、朝食を取ると、取らなかったときに比べて大幅に集中力がアップすることが分かります。

さらに、それが栄養バランスの良い内容であれば、集中力は高い値で維持されるのです。そして集中力の低下も、穏やかになります。

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食事量の黄金比は「4・3・3」

お昼に関しては、あまり神経質になる必要はありませんが、「朝を抜いて、お昼にドンと食べる」のはNGです。それはなぜでしょうか?

朝食を食べないでいると、最初に胃に入る食事が昼食となります。すると体はその時点を「朝」と認識してしまうからです。これでは体内時計は大幅にずれてしまいます。

もし、お昼の12時を朝と体が認識すれば、夜の6時になっても体は「お昼」くらい、夜10時は夕方くらいの感覚。これでは眠くなるはずがありません。夜になっても体が夜と認識しないからです。

お子さんが夜の10時を過ぎても眠らないとしたら、もしかすると朝食のリセット効果が足りていないのかもしれません。食事の内容とともに、気をつけたいのが食事の量です。1日のうちで夕食をたくさん食べるのが、日本の家庭では一般的となっています。

iStock.com/kohei_hara
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しかし、夜の食べ過ぎは体内時計に悪影響を及ぼすことが分かっていますので、徐々にこの割合も変更していきたいものです。理想的には、

「朝食・昼食・夕食」 「4・3・3」

を目指し、難しければ「3・4・3」、最低でも「3・3・4」にしていきましょう。

夜のメニューで気をつけることは、血糖値を上げないこと。血糖値の上昇は肥満につながるだけでなく体内時計を朝にリセットする効果があるため、夜は血糖値を上げたくないのです。

また、血糖値が安定していると、眠りも深くなります。そのために役に立つ食材がイモ類です。ジャガイモ、サツマイモなどイモ類のデンプンは、食物繊維を多く含んでいるため、血糖値が上がりにくい食材です。

iStock.com/Xsandra
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イモ類系デンプンに代えたとはいえ、食べた直後はある程度、血糖値が上がります。これを少し下げてから寝てもらいたいというのが、時間をあける狙いです。

血糖値の上昇は、「ノンレム睡眠」と呼ばれる深い眠りを妨げてしまいます。すると、良質な睡眠が取れなくなるのです。

逆に、夕飯の血糖値を上げ過ぎないことは、安眠対策になるのですね。1時間ほど経てば血糖値は下がってきますから、それ以降であれば寝かせても大丈夫というわけです。

また、血糖値が上がるとインシュリンが分泌されてしまいます。

このインシュリンに体内時計を動かす役割があることが判明し、「食事を変えることでインシュリンの分泌量を変化させ、体内時計の調整につなげる」ということが行われるようになってきました。

iStock.com/kazoka30
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具体的には、インシュリンの分泌が多ければ、体内時計はリセットされ、少なければされないということです。インシュリンは、体内時計を朝型に変える物質ですから、夜にはあまり多く分泌されないほうが望ましいのです。

「食事」で子どもの能力を最大化

子どもの体にいい食事をしたい、食育をしたいと思っている親御さんは多いのですが、何から手をつけていいか分からないといいます。

まず、簡単なのは一緒にスーパーに行くことです。これも立派な食育です。スーパーでは野菜、果物などコーナーが分かれていますから、「何が野菜か」「何が果物か」が分かるようになりますし、小さい子は特に自分で選んだものを食べたがります。

ですから、気をつけて買い物をするだけで、それが立派な食育になります。

iStock.com/Kiwis
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時間栄養学的な食事を学んだ皆さんであれば、買い物のときに、「このツナ缶は朝ご飯にしようね」「おやつは焼き芋にしようか?」「このジャガイモは夜、グラタンにするね」などと会話をしながら買っていけば、お子さんは自然と朝に食べるもの、おやつに食べるもの、夜に食べるものを覚えていきます。

すると、体のリズムを整えるための食事、時間栄養学的食事がいつの間にか身につくようになります。

また、親御さんが食べさせたい、料理をさせたいと思うものを、選ばせる、買わせるのもいい方法です。また、お子さんが作ったサラダなら、たとえレタスとミニトマトだけのものでも、旦那さんも喜んで食べるはずです。

iStock.com/Yagi-Studio
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自分で料理したものを、パパやママが「おいしい!」と喜んでくれたら、お子さんも自分に自信をもつことができます。

このようなちょっとした成功体験を繰り返すことで、お子さんの自己肯定感は高まっていきます。食育なら、体だけではなく心も同時に育むことができるのです。

ミカンの皮を少しはがすように、「最初だけ手伝う」というのもポイントです。最初できないから「まだできない」とするのではなく、ちょっとだけ手伝ってあげて、「できた」につなげるのです。この「できた」がお子さんの自己肯定感につながります。

iStock.com/alvarez
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子どもの料理というと、ハードルが高いように感じるかもしれませんが、その一歩は「自分で食べる」ことから。子どもが食事に興味をもてるようにすることからスタートしてください。

時間栄養学的な食事はできるところから

子どもはそれぞれ成長が違います。初めてのお子さんであれば、何が正しいことなのか、迷ってしまうのも当然です。

だからこそ、ここまでお伝えしたような、シンプルな原則を知っておくことが大切なのです。お子さんの体内時計が整う食事に変えるだけで、睡眠のリズムも改善され、子どもの成長を自然な形でサポートすることができるようになります。

ただ、できない日があっても、できない日が続いたとしても、焦る必要はありません。皆さん忙しいわけですし、子どもが5歳なら、ママだって「5歳」。完璧なママに、たった数年でなれるほうが珍しいです。子どもと一緒にママも日々成長していきます。

iStock.com/Choreograph
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厚生労働省などが出している平均的な数字と、お子さんの成長の速度が一致しないといって、悩むママもいます。しかし、気にし過ぎる必要はありません。

あくまでそれはたくさんの子どもの「平均」であって、一人ひとり、子どもの成長はそれこそバラバラ。そこにぴったり当てはまるほうが難しいのです。

大切なのは目の前のお子さんが健康かどうか。あまり教科書的な数値に引っ張られずに、目の前の大切な一次情報であるお子さん自身をしっかり見つめていきましょう。

時間栄養学的な食事にしても、あまり一生懸命になり過ぎずに、自分が「これならできる!」というところから始めてください。

【時間栄養学#01】子どもの能力は「いつ・何を」食べるかで変わる

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時間×食事で賢い子が育つ! 簡単・最強子育て

古谷 彰子 (著)

1,540円(税込)幻冬舎

2021.01.21

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