【寝かしつけの新常識#01】赤ちゃんのお昼寝を「科学」する

【寝かしつけの新常識#01】赤ちゃんのお昼寝を「科学」する

KIDSNA編集部が選んだ、子育てや教育に関する話題の最新書籍をご紹介。今回は、『赤いライトで朝までぐっすり赤ちゃん寝かしつけの新常識』(東洋館出版社)。睡眠科学者で二児の母である著者が、科学的根拠に基づいた赤ちゃんの眠りのしくみをお伝えします。

 
 

赤ちゃんにはどれくらいの睡眠が必要?

赤ちゃんによって成長に個人差はあるものの、睡眠パターンは似ていて、同じように発達していきます。新生児は一日中寝ていて、2歳になると毎日12時間寝ればよくなる、といった調子です。

なぜ成長とともに必要な睡眠時間がこれほど減るのか、そして年齢ごとに必要な昼と夜の睡眠時間を理解することはとても重要で、このことは夜ぐっすり眠るためのスケジュール管理に役立ちます。

ラッキーなことに、わたしは何万人もの赤ちゃんの睡眠パターンをわざわざ調査する必要はありませんでした――赤ちゃんの睡眠というのはとても重要であり、研究しやすいテーマでもあるので、さまざまな調査結果を組み合わせた分析がいくつもおこなわれています。

iStock.com/SDI Productions
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もっとも大規模なものに、18か国の子ども6万9544人分のデータセットを使って、子どもの睡眠に関する世界標準や、年齢ごとの平均的な睡眠時間を明らかにしたものがあります。

このデータには、昼と夜の合計睡眠時間、夜に何回起きるか、お昼寝の回数とその長さなどが含まれています。成長による睡眠の変化には、世界共通の傾向があることがわかりました。1日に必要な睡眠の量に個人差はあっても、どの子も年齢が上がるほど、その量を減らしていくのです。

このデータをグラフにしたのが、次の図です。これを使って、年齢ごとに必要な睡眠時間を知ることができます。

 
 

お子さんの睡眠パターンが標準に沿っているとして、同じ年齢の平均と比べて、夜の睡眠が短く、お昼寝が長い場合、少なくともその平均までは、お昼寝を短くしてもいいことがわかります。その短い時間しかお昼寝しない赤ちゃんが、ほかに何万人もいるのですから。

もしお子さんの睡眠時間が同年齢の標準より短い場合は、ひとつ上の年齢グループを目安としてください。お子さんの成長は進んでいて、必要とする睡眠時間も短いからです。

目安とする合計睡眠時間が決まれば、お昼寝はグラフに表わされた時間以内に収めるようにしましょう。

お昼寝を短くすることで、簡単に、そして効果的に、夜の睡眠を改善することができます。その際に、標準から外れてしまわないかどうかを知ることのできるデータがあるのは、とても便利なことです。

iStock.com/LeManna
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例:午後に3時間お昼寝するリアムくん

母親のクローディアは、2歳の息子リアムの夜の授乳をやめることができずにいました。リアムは夜7時になるとすんなり寝つくのですが、毎晩何回も、ときには1時間おきに起きるのです。昼間は保育園に行っていて、そこで午後に3時間お昼寝していました。

iStock.com/NataliaDeriabina
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2歳児は、毎日12時間の睡眠が必要だということが研究でわかっています。1日に必要な睡眠時間は決まっていて、お昼寝でその一部を満たしてしまえば、夜の睡眠時間は短く12時間の睡眠のうち、3時間をお昼寝ですませていたので、残りは9時間です。

リアムは夜7時から朝6時の11時間のうち、合計すると 2時間くらい起きてぐずっていたそうです。睡眠時間の計算と、ぴったり合います。

この場合、お昼寝を短くして、寝る時間を遅くする必要があります。夜中に11時間寝て朝7時に目を覚ましてほしいなら、夜8時に寝かせて、お昼寝を1時間に減らすよう提案しました。

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体内時計とは別にある、体の「眠りたい欲」

人間は、疲れたら寝るものですよね。でも、その疲れは、どのように調整されているのでしょう?科学者たちは、寝るタイミングは、2つの要因によって決まると考えています。

ひとつは体内時計であり、もうひとつは睡眠圧です。睡眠圧とは、体の眠りたいという欲求です。

これまで見てきたように体内時計が睡眠に影響している一方で、睡眠圧はそれとは関係なく変化し、睡眠のタイミングに影響を与えます。

学生時代、試験前に一夜漬けしたときのことを思い出してみてください。試験が終わったあと、崩れ落ちるように眠ってしまったはずです。たとえまだお昼過ぎでも、前日から疲れがたまっていると、睡眠不足を取り戻す必要があります。

iStock.com/demaerre
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そんなときは、体内時計が、「まだ寝る時間ではないよ」と言っても、体のほうは「今すぐ寝なさい」と命令します。たちまち寝入って、じゃまが入らなければ何時間も眠りつづけ、そのうちにすっきりして目覚めます。

睡眠圧は眠るとゼロに戻りますが、睡眠が不足すると高いままになり、「睡眠負債」がたまります。そうすると日中でも疲れを感じ、眠ってしまうのです。時間に関係なく、体は睡眠圧と睡眠負債をなくそうとするのです。

寝つきをよくするには、体内時計と睡眠圧のタイミングが合っていなければいけません。そのためには、疲れているときにベッドに入り、翌朝元気になるまで眠る必要がありますが、次の日の夜に再び疲れがたまる程度の時間には、目を覚まさなくてはなりません。

iStock.com/Aja Koska
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睡眠不足にならないために、1日に必要な睡眠の量は決まっています。大人の場合は、個人差があるものの、5~10時間の睡眠を夜にまとめてとる必要があります。平均的な人の場合は、7時間半の睡眠が必要です。

赤ちゃんは、さらに多くの睡眠を必要とします。

生まれたばかりの赤ちゃんは、1日の大半を眠ってすごします。そして、大きくなるにつれ、起きている時間が長くなり眠っている時間が短くなります。小さな赤ちゃんほど、いったん起きてもすぐ疲れてしまいます。赤ちゃんは睡眠圧がすぐに高まってしまうから、何度も眠る必要があったのです。

iStock.com/Amax Photo
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成長するにつれて、睡眠圧の増加はゆるやかになり、長く起きていられるようになり、お昼寝の間隔があいていきます。

赤ちゃんも大人も寝つきが悪くなる仕組みは同じ

毎日を快適にすごすためには、体内時計と睡眠圧(体の眠りたいという欲求)を同期させることが重要です。けれど、理想的な睡眠習慣を実践している人は多くはありません。

いつベッドに入るか、いつ起きるか、そして合計睡眠時間に日によってばらつきがあると、体内時計と睡眠圧は簡単にずれてしまいます。

たとえば、ベッドに入る時間が来て、体内時計が寝る時間だと知らせているとします。けれど、あなたは読書に夢中で、1時間たってから寝ます。翌朝、アラームが鳴っていつもの時間に起きると、1時間の睡眠不足になっています。

iStock.com/jacoblund
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その夜、いつもより疲れていると感じ、1時間早く寝ます。長めに寝たので、すっきりして目を覚ましますが、その日は金曜日。土曜日の朝は寝坊できるので、また夜更かしをして――。

こうやって毎日、寝る時間や起きる時間、睡眠時間の長さを変えることはよくあることだと思います。でもこれがつづくと、問題発生です。体内時計と睡眠行動のあいだに、常に矛盾が生じてしまうのです。

その結果、当然ながら、毎日疲れたと感じる時間はバラバラになり、体は何が起こっているのかと混乱します。今は夜?朝食の時間?夕食の時間?それとも寝る時間?

iStock.com/Antonio_Diaz
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不規則な睡眠時間が、睡眠不足と強い相関関係にあることは、研究で証明されています。160人の台湾の大学生の睡眠/覚醒サイクルを2週間観察したところ、規則正しい人ほど睡眠の質がよいということがわかりました。

一方で、曜日によって寝る時間や起きる時間がちがう、いわゆる「学生生活」(わたしの学生時代のような……)を送っていた人のほうが、寝つきが悪い、夜中に目が覚めるなどの問題を抱えている傾向にありました。

もうひとつ、就寝・起床時間がまちまちになってしまう例に、「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」があります。

週末は夜更かしをして、土日に朝寝坊することで、体内時計と睡眠圧がずれ、睡眠や気分、代謝、消化が乱れるソーシャル・ジェットラグを起こす人が増えています。これでは、体内時計のはたらきも台無しです。

iStock.com/fizkes
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平日は、早くベッドに入っても、長時間寝られるわけではないため、常に睡眠不足の状態がつづきます。

決まった時間に就寝 ・起床して(平日だけでなく週末も!)、体内時計に合わせれば、消化や睡眠や気分などすべての身体機能の調子が整います。体内時計に合わせて生活することで、時計はあなたの次の行動を予測し、体を準備させることができます。

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赤いライトで朝までぐっすり 赤ちゃん寝かしつけの新常識

ソフィア・アクセルロッド 著、綿谷志穂 訳

1,430円(税込)東洋館出版社

2020.12.16

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