もっとこうしてくれたらいいのに…と親として子どもに過度に期待してしまう事があるかと思います。親の願いは尽きることはありません。おへそ保育園園長、吉村直記さんの連載3回目では、そんな風に子どもに期待をしてしまうときに振り返ってほしい事を教えて頂きました。
1985年8月11日佐賀市生まれ。
社会福祉法人みずものがたり 理事
小規模認可園「おへそ保育園」・幼保連携型認定こども園「おへそこども園」・放課後学童クラブ「おへそ学道場」 統括園長。
自ら考え、学び、行動し、情熱を持って社会に貢献できる人づくりを日々研究している。
執筆、講演活動、空手指導、また、一男一女の父として子育てにも奮闘中。
日々子どもたちに教えている空手道は、「型(かた)」といって決まった基本動作を覚えることから始まります。
順番をすぐに覚えてしまう子もいれば、ちょっぴり時間がかかる子もいます。だからと言って、時間がかかる子が劣っているのかと言えばそうではありません。ゆっくりでも続ける努力ができる子もいますし、後から発達と共に急激に伸びる子もいます。
親御さんにとっては、時間がかかることに不安になってしまうこともあるかもしれません。でも、 小学生で空手の技術が高い子でも、中学生になると立場が逆転したりするケースや、順調に成績をあげることができていても、小さな失敗や挫折をきっかけに、一気にやる気を失ってしまうケースもあります。
大人の私たちは往々にして子どもに『早く』を求めてしまいますが、早く技術を習得したところで、その子が辞めてしまえば元も子もありません。例え、時間がかかったとしてもその子が心から楽しんでいれば、後から技術はついてきてくれるものです。
お父さん、お母さんたちにできる最大のサポートは、目に見える成長に一喜一憂したい気持ちをグッと我慢して、じっくりと待つ親の姿勢なのかもしれません。
相手が園児であっても空手の練習中は厳しく接します。練習試合で負けてしまって悔しくて泣いている子がいると『泣くことよりも、その悔しさを練習に向けることが大切!』と言って叱咤激励することもあります。
繰り返し伝えることで、最後には涙を拭って挑戦できるようになっていきます。自分で成し遂げた機会というのは子どもたちの大きな自信となっていきます。愛情を持ちながらも子どもの成長を信じ時に厳しく伝えることで、子どもたちは自分の甘えから脱却し、思い切って乗り越えればうまくいくこともあると、前向きな気持ちで何事にも取り組むようになっていきます。
その一方で練習を楽しむことも大切にします。『辛い練習に耐える』というのが武道であるという方もいらっしゃいますが、私はそれだけではないと思っています。私は練習の中で「きつい練習をそのままきつくやるのではなくて、どうやったら楽しめるか考えてみてごらん。」と子どもたちによく伝えます。
もちろん最初は厳しい練習は辛いと感じるもの。でも、続けることによって『こうすれば楽しく練習できる』とか、『声を出せば、元気に練習できる』とか、だんだんと楽しむ工夫を生み出せるようになっていきます。
楽しむ工夫というのは、将来、子どもたちが困難に出会ったときに、それを耐えるという手段だけではなく、うまく回避できる方法や、楽しむ方法を考える力になっていくと私は思っています。日々の練習には技術を向上させる以外に、人生を学べるたくさんのエッセンスが隠されています。
ある生徒が自宅でお母さんにこんなことを言ったそうです。
「学校で上級生にからかわれた時に、殴りたくなる位ムカついたけど、ここで殴るのはつよくやさしくじゃないと思って、そう考えていたらムカつかなくなった。だから、空手してて良かったって思った」
私どもの道場訓は『つよくやさしく、やさしくつよく』というシンプルなものなのですが、頻繁に言葉にすることによって、子どもたちに染み込んでいき、行動につながっていきます。その子のお母さんは、こうおっしゃられていました。
「練習したり、目標を達成したりする以上に大切な心を身につけていて、とても驚きました。」
子どもたちに真に伝えるべきことは、空手が上手になったかどうかより、人に優しくなったとか、笑顔が増えたとか、練習を楽しむことができるようになったとか、昨日より今日、今日より明日、1ミリでもいいから、技術だけではなく、人として成長できたことを評価してあげることが大切だと思います。
『挨拶がしっかりできて欲しい』『勉強をいっぱいして欲しい』
…親の願いは尽きることはありません。でも、そんな風に子どもに過度に期待をしてしまうとき、ぜひ、振り返っていただきたいのです。
挨拶をしようとして顔を真っ赤にしているお子さんを認めましたでしょうか?好きなことを全力でやっているお子さんを認めましたでしょうか?
結果に向かって努力しようとしている姿や、努力してもうまくいかない姿。結果はあまり見えなくても、子どもたちは小さな成長をしていることがあります。そんなプロセスにこそ焦点をあてていただきたいのです。
子どもたちは認められることによって成長していきます。保育園でも子どもたちに「静かにしなさい」と言うより、静かにしないことに耳を傾けると、子どもたちは落ち着いて話を聞いたりします。「なんでできないの」と言うより、できなくても大丈夫という言葉で、安心して挑戦できるようになります。
子どもたちは、うまくいかない今の自分を認めてくれる大人がいて、一歩踏み出す勇気を得ていきます。
誰でもがんばってもがんばってもできないこともあります。大人に「できるよ!」と言われると、『できない』ことがダメなような気がします。でもそういう子でも『できない』ままでも誇れることがあると思うのです。
いじめられたことがある人は、いじめられた人の気持ちがわかります。体が弱い人は、他者への配慮も自然と生まれます。
うまくいなかった経験も、立派な財産だと私は信じています。
自分自身の子ども時代に漢字の宿題を綺麗な字で書いてくると『スーパーはなまる』といって、はなまるにさらに☆マークをつけたまるをつけてくれる先生がいました。私はスーパーはなまるが欲しく欲しくてたまらなかったのですが、なかなかもらえない。何度も何度も書き直して提出するけれども、一向にスーパーはなまるをもらうことはできませんでした。
そんな時、私の母は先生に「努力して、昨日よりも成長している過程をみてあげてください」と直訴してくれたのです。
今思えばただの親バカなのかもしれませんが、そんな風に親が強く努力を認めてくれた思い出はこの歳になっても忘れることはありません。
保育園でも、虫が好きな子、将棋が得意な子、人を笑わせるのが得意な子など、色々なタイプの子どもたちがいます。
子どもたちはそれぞれキラリと光る可能性を持っています。
誰かと比較して優越感や劣等感を感じさせて競争をあおるよりも、子どもそれぞれの個性を認め、昨日よりもゴールに向かって一歩前進した小さな成長を認めてあげることによって、子どもたちは大きな自信を育てていくのだと思います。
吉村直記
社会福祉法人みずものがたり 理事・おへそグループ統括園長。
1985年8月11日佐賀県生まれ。5歳の時交通事故で父を亡くし、母に兄弟3人の真ん中として女手一つで育てられる。ロータリー財団の親善大使として派遣されメキシコ合衆国へ一年間留学。大学在学中に幼児教育に興味を持ち、関東の保育コンサルティング会社に入社。1年半で50件以上の保育園の立ち上げや運営に関わりながら乳幼児教育を学ぶ。
25歳でおへそ保育園園長に就任。現在、0歳~12歳までの子どもたち、障害を持つ子どもたちが共存する“おへそグループ” を統括。執筆・講演活動、また、一男一女の父として子育てにも奮闘中。
2017年03月12日
これからの予測不可能な社会を生き抜く子どもを育むために、親としてどのような教育を選べばよいのでしょうか。子どもの知的好奇心を伸ばし、学ぶことにわくわくしながら成長していくための方法について、東大名誉教授であり教育学、教育人間学、育児学の専門家である汐見先生と、世界150カ国で人気の知育アプリ「シンクシンク」の開発者であるワンダーファイの川島氏が対談しました。
ワンダーファイ株式会社
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KIDSNA TALK