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不妊治療により多胎児が増加?ふたご妊娠のメカニズム
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田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
ふたごやみつごが生まれる割合は、約50年前と比較すると倍増していることを知っていますか?これには、不妊治療が関係しているようです。多胎妊娠のしくみや、母体と胎児それぞれのリスクや、備えておくことなどを田園調布オリーブレディースクリニック院長の杉山太朗先生に聞きました。
「不妊治療が増えるとふたごが増える」って本当?
ふたごやみつごを表す「多胎児」。実は、不妊治療に大きく関係していることをご存知でしょうか。
もともと、日本における多胎児の出生件数は1974年で0.6%以下でしたが、2005年には1.18%となりピークを迎えました。
これには体外受精の導入や医療の発展が関係しており、排卵誘発剤の使用や体外受精といった不妊治療によって、多胎の発生率が上がることが分かっています。
なぜかというと、不妊治療では、妊娠確率を上げるために複数の受精卵を子宮に戻すため、それだけ多胎妊娠の確率も高まるということなのです。
そこで、2008年に日本産婦人科学会によって、移植する胚の数は原則として単一とする制限が設けられました。
これによって、2005年には1.18%だった多胎児の出生率が、2011年には0.96%に減少。近年は1%前後と横ばいになっています。多胎妊娠の数字は落ち着きを見せているものの、約50年前と比較すると0.6%から1%に推移しているため、それなりに増加しているといえるでしょう。
受精卵を戻す数をひとつにするよう規定が設けられましたが、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった場合には2胚移植が許容されています。
おそらく、このことも関係し、日本での出生数に占める多胎児の割合は、30歳以上になると2.0%を超え、40歳~44歳では2.71%、45歳以上では5.95%にのぼり、年齢が高いほど多胎児妊娠の確率が上がることが統計から読み取れます。
診断方法から見る、ふたごが生まれるしくみ
卵性診断
「一卵性双生児」は、ひとつの卵子が分裂してふたつに分かれるため、ほぼ100%同じ遺伝子情報を持っており、顔も体つきもそっくり。
一方で、ふたつの卵子から成長する「二卵性双生児」は、あまり似ていないことがあり、性別や血液型が異なる場合もあります。
全体のうち、ふたごを妊娠する確率は、
- 一卵性双生児 約0.4%
- 二卵性双生児 0.2〜0.3%
といわれています。
二卵性の場合は、母方の遺伝的な体質が関係し、ふたごが生まれることがあります。人種や食生活によってふたごの出生率が異なり、黄色人よりも白人種、白人種よりも黒人種の方がふたごの割合が高くなります。
実際に、ナイジェリアなどのアフリカではふたごが多く生まれています。世界のなかでは日本は多胎児の出生率は低いといえるでしょう。
次に、ふたごが生まれる素因について。
一卵性の場合は、自然妊娠でふたごの確率を上げる素因は判明していませんが、二卵性のふたごが生まれる素因は、以下が挙げられます。
- 遺伝
- 妊娠年齢(特に35歳以上)
- 経産婦
- 以前に二卵性の双子を妊娠したことがある
- 身長・体重が平均より大きい
- 生殖補助医療を受けている
- アフリカ系血統
しかし、いずれも統計的な数値による傾向であり、ふたごやみつごを意図的に妊娠する方法はありません。また、二卵性のふたごとして生まれた人自身が、多胎妊娠をする確率が高くなるかというと、そういうわけではありません。
多胎の妊娠をはじめ、すべての妊娠はさまざまな巡り合わせによって起こることなのです。
膜性診断
実は、医学的には「一卵性」「二卵性」という言葉はあまり使いません。一卵性のふたごだとしても、細胞分裂などにより卵がふたつに別れた状態で着床するケースもあるからです。
そのため、産婦人科医は、羊膜と胎盤がどのように分かれているかをチェックする「膜性診断」という方法で判断しています。
膜性診断では、以下の3つに分類されます。
- 二絨毛膜二羊膜双胎(DD)…胎児がそれぞれ胎盤、絨毛膜、羊膜を持っていて、完全に別々の部屋にいる状態
- 一絨毛膜二羊膜双胎(MD)…胎盤と絨毛膜を共有しているが、羊膜は別々の独立した部屋にいる状態
- 一絨毛膜一羊膜双胎(MM)…胎児が1つの胎盤と絨毛膜、羊膜を共有し、同じ部屋にいる状態
確率からすると、最も多いのは二絨毛膜二羊膜双胎(DD)のようです。
これは一卵性からも、二卵性からも起こることがあり、一卵性の場合は途中で細胞分裂が起きて受精卵が分かれることによるのですが、その仕組みははっきりと分かっていません。
ふたごがわかる時期は、だいたい妊娠4週から8週未満。胎盤がひとつである一絨毛膜二羊膜双胎(MD)と、一絨毛膜一羊膜双胎(MM)は心拍を確認後に、ふたごだとわかることが多いです。
多胎妊娠ならではの母体と胎児、それぞれのリスク
母体のリスク
母体側のリスクとしては、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病をはじめとする合併症を起こしやすくなり、双胎の場合で78.1%が何らかの合併症を起こしているというデータがあります。
出典:第6回厚生科学審議会先端医療技術評価部会・生殖補助医療技術に関する専門委員会報道発表資料/厚生省
また、お産のときは陣痛とともに子宮口が開き、子宮頸管を通って胎児が生まれてきますが、妊娠中に突然子宮口が開いてしまうこと(子宮頸管無力症)があり、頸管に充分な長さがない場合は、子宮口を縛る「頸管縫縮(ほうしゅく)術」を行うことがあります。多胎妊娠の場合は、このリスクが高まります。
産後の異常出血の頻度も上昇します。ふたりの胎児が入っていた子宮は、大きく伸び、子宮の収縮が悪いため、出血が多くなる弛緩出血も見られます。
そして、切迫早産になりやすく、膜性診断の結果にもよりますが、長期の入院・安静、治療を余儀なくされる方も少なくありません。
妊娠37週未満に生まれることを早産といいますが、多胎児の場合はその割合が非常に高く、2017年の人口動態統計によると、単胎の4.7%に対し、多胎の場合は50.8%が早産に該当します。
出典:平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況/厚生労働省
単胎妊娠よりも早い時期からお腹が大きくなるため、自然早産に加え、妊娠高血圧症候群などにより出産を早める人工早産もあり、多胎妊娠の約半数が早産になるともいわれています。
胎児のリスク
胎児に発生する問題としては、流早産のリスクが上昇します。
日本産科婦人科学会の報告によると、双胎の約42%、品胎(みつご)の約75%が早産となっています。
そして、低出生体重児(2,500g未満)の割合は高く、双胎の半分以上、品胎の9割以上が低出生体重児として生まれます。
胎児の発育遅延や先天異常も多く、新生児の死亡率が高くなります。また、障害の発症の可能性も否定できません。
胎児の膜性によってリスクの度合は変化し、ひとつの胎盤をふたりの胎児が共有する一絨毛膜二羊膜双胎(MD)と一絨毛膜一羊膜双胎(MM)は、栄養や血液が片側の子どもに偏る「双胎間輸血症候群」が起こりやすくなります。
その結果、双胎両児間に発育の差が生じ、片方の子どもが低体重になったり、「胎児水腫(胎児の胸部や腹部に水がたまり、全身がむくむこと)」や、脳性まひの原因のひとつである「脳室周囲白質軟化症」が起こることもあります。
分娩時には、第2児や第3児へ酸素が届きにくくなり、酸血症の状態になる「胎児機能不全」になることがあったりと、単胎に比べて多くの問題があります。
そのなかでも特に脳性麻痺の発生頻度は高く、ふたごでは全体の2.0%、みつごでは全体の3.1%になるといわれています。
単胎妊娠と比べると、リスクが高いことは確かですが、単胎であっても妊娠にはリスクはつきものです。リスクを乗り越えて生まれてきたふたご、みつごもたくさんいます。
帝王切開以外の選択肢も?多胎児の出産方法
多胎児の出産は、帝王切開になるものと考える人も多いようですが、胎児の状態によっては経腟分娩で出産することも可能です。
経腟分娩ができるのは、二絨毛膜二羊膜双胎(DD)の場合で第1児が頭位のケース。ひとり目の赤ちゃんの頭が下向きであれば、ふたり目が骨盤位(逆子)であっても、何とか経腟分娩することが可能です。
経腟分娩のよいところは、帝王切開に比べて出血が少なく、母体の回復が比較的早いということ。しかし、母子ともにリスク要因がある場合には帝王切開が行われます。
ひとり目の赤ちゃんが逆子だと経腟分娩は、まず難しいです。また、出産する施設にもよりますが、一絨毛膜二羊膜双胎(MD)や一絨毛膜一羊膜双胎(MM)の場合は、基本的に帝王切開になります。
胎児の羊水量に差が見られると、片方の赤ちゃんが危険な証拠です。場合によっては妊娠20週台で帝王切開を行い、早めに胎内から出してあげて、NICU(新生児集中治療室)の管理が必要なケースもあります。
先ほど述べた通り、単胎よりも多胎は母子ともにリスクを抱えています。そのため、多胎児のお産は、NICUが備わっている施設で行われることがほとんどです。
半数超が切迫早産に。多胎妊娠がわかったら備えておくべきこと
多胎児の妊娠がわかったら、やっておいたほうがよいことは、まず管理入院に備えることです。管理入院とは、妊娠中のトラブルを防ぎ、万一に備えて予防的に入院すること。
実際に、多胎妊娠を経験された多くの妊婦さんが、管理入院を経験されているようです。
多胎の場合は50.8%が早産と前述しました。逆にいえば、半数は早産ではないといえますが、いずれにせよ切迫早産による管理入院に備えておくと安心です。
リスクの多い多胎妊娠は、妊婦健診に来て、即入院ということもあり得ます。特にきょうだいがいる場合は、母親の入院中の上の子のケアについてパートナーと話しあっておく必要があるでしょう。
多胎妊婦は、妊娠悪阻(つわり)のため、入院するケースもあります。妊娠中に分泌されるホルモン量が単胎妊娠より多くなり、妊娠検査薬に反応するhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンの増え方が早いことが、多胎妊婦のつわりを重くする原因なのではないかといわれています。
また、多胎の場合は妊婦健診の回数も、単胎の標準である14回よりも多くなります。多胎妊婦への健診補助券を追加で配布している自治体もあるようです。
多胎妊娠は単胎妊娠よりも、注意深く見ていく必要がありますが、最も大変なのは子どもが生まれてからです。
ふたごやみつごとの生活についての情報の少なさや、倍になるオムツや食事等の経済的負担、ふたごやみつごを育てる母親は多胎ならではの子育ての悩みを抱えていることが多いといわれています。
一般的な話になるかもしれませんが、家族や親戚だけでなく、自治体の行政サービスやベビーシッターなどの民間サポートも視野に入れて、産後のサポート態勢を作っておくことが何よりも大切です。
NICUを備えている大きな病院には、保健医療分野におけるソーシャルワーカーがいて、いろいろなサービスを教えてくれるはずです。
多胎児家庭向けにホームへルパーの派遣や、タクシー券の補助を行なったりと独自に育児負担軽減のための支援を行なってる自治体もあるようです。
ふたりや三人を同時に育てる母親は、心身ともに疲弊しがちですが、外出することも一苦労。そうした多胎児育児の大変さを共有し、孤立を予防するための、仲間づくりに関する支援を行なっている自治体もあるといいます。
多胎児の妊娠がわかったら、周囲の人に頼れる環境づくりや、多胎児のサポート情報などを集め、できるだけひとりで抱え込まないように準備をしておくことが大切です。
<取材・執筆>KIDSNA編集部
監修:杉山 太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)
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杉山太朗
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
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