「おひとりさま高齢者」は死後どうなるのか…親族でも友人でもない82歳未婚女性の「身元特定」に繋がったもの
自治体によっては死因を調べるにもお金がかかる
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ひとり暮らしの高齢者が「孤独死」するとどうなるのか。社会学者で、葬送に関するサポートを行うNPO法人エンディングセンター理事長の井上治代さんは「自宅で亡くなると、まず死因や事件性があるかどうかを調べるために検死がおこなわれる。ここで身元確認が壁となることがある」という――。 ※本稿は、井上治代『おひとりさま時代の死に方』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
「終活」をひとりで済ませた82歳女性
エンディングセンターの会員・古川智子さん(仮名)は、未婚でひとり暮らし。きょうだいはいるが、「死亡を知らせたくないし、財産も残したくない」と言い、まずは遺言書を書いた。続いて、エンディングセンターと死後の葬儀や埋葬、死後事務などを委任契約した。
すべての契約事務が終わったとき、晴れ晴れとした顔で、「安心しました。この喜びを伝えたい」と、エンディングセンターの担当者にランチのお誘いがあった。自身の長年の想いを託した安堵感があったのだろう。
その古川さんからある日、エンディングセンターの事務所に、電話がかかってきた。彼女が82歳の秋のことだった。
「友人とお茶をしていたら、急にお腹が痛くなって、かなり強い痛みなので、これから友人と一緒に病院に行ってきます」
そして夕方、病院帰りに電話が入った。
「入院するほどでもないので、今日は家に帰って休みます」
友人の証言では身元確認にならない
そんな会話があった日の翌朝、病院に付き添った友人が彼女に電話をかけてみると、応答がなく、駆けつけると「ひとり死」していたことがわかった。あとから知らされたことだが、死因は虚血性心不全、狭心症であり、腹痛を抑えるための強めの鎮痛剤が影響したのではないか、ということだ。
自宅の誰もいないところで亡くなっていると、死亡原因が事件性のあるものかどうかを調べるために、ご遺体は警察署に運ばれ検視がおこなわれる。その一環として実施されるのが身元確認(本人確認)である。身元確認をする理由の一つは、身元を特定し、ご遺体を家族に引き渡すためである。
古川さんの場合、前日一緒にいた友人も、確かにこのご遺体が古川さんであると断言できるし、またエンディングセンターも会員の古川さんだと証言できるのに、親族でもない者の証言では身元確認にはならないのだ。
刑事ドラマを思い浮かべるとわかりやすい。遺体が発見されると、名刺や携帯電話など、所持品や指紋などから身元が判明し、家族に連絡をすると、家族が警察署の霊安室に駆けつける。そして安置されているご遺体の顔を見て確認するというパターンだ。