トランプの魔の手はついに金融支配に…そう騒ぎ立てる新聞テレビが報じない"FRB初の黒人女性理事解任"の深層
経済格差をここまで拡大させた黒幕の正体
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トランプ米大統領が、米連邦準備制度理事会(FRB)初の黒人女性理事、リサ・クック氏を解任した。在米ジャーナリストの岩田太郎さんは「『政治の介入を許せば、市場からの信頼が失われる』という言説がある。しかし、過去四半世紀を振り返れば、もはや失われるほどの“信頼”がFRBに残っているとは思えない」という――。
FRB初の黒人女性理事解任、一体なぜ
米連邦準備制度理事会(FRB)における初の黒人女性理事となったリサ・クック氏が、トランプ大統領に解任された。自身が契約した3件の住宅ローンに関して、有利な条件を得るため貸し手の銀行や信用金庫に虚偽の事実申告を行った、という不正疑惑が浮上したのだ。
クック氏は疑惑自体を明確には否定せず、代わりに「ローン申請書で事務的なミスがあった」と主張。その上でトランプ大統領を相手に「解任は無効」として差し止めを求める訴訟を連邦地裁に提起した。
クック氏は、「解任の真の狙いは、政治的圧力からの独立性を認められたFRBに、自分の息がかかった新理事を送り込んで支配することだ。トランプ大統領が望む『利下げ』実現という、不純な動機に基づく違法な解任だ」と主張する。
さらに同氏の代理人は、「解任が認められてFRBが大統領の意のままになれば、FRBの信認が損なわれ、米経済に修復不能な危害(irreparable harm)を与えかねない」と非難。
米コーネル大学経済学部のエスワール・プラサド教授も、「効果的な金融政策運営、米金融市場に対する世界の信頼、ドルの国際的な優位性に悪影響が及ぶ」との分析を示す。
一方トランプ政権は、クック氏の疑惑が「FRBの腐敗を象徴的に表すもの」との印象を拡散しており、パウエルFRB議長がクック氏を解任しないことが、規制・監督当局としてのFRBの信認を傷つけているとする。
住宅ローン詐欺を取り締まる立場のFRBの理事が、住宅ローン申請で不正を働いていたのであれば、まったく示しがつかない。パウエル議長が動かないため、トランプ大統領には解任の権限も理由もあるというわけだ。
解任劇で問うべき“2つの問題”
クック氏が引き続き「FRBの独立性」という錦の御旗を掲げて闘う場合、彼女のトランプ大統領に対する訴訟は米連邦最高裁判所まで争われる可能性がある。
しかし、今回の解任劇で真に問われるべきは「クック氏が不正を働いたのか」でも「大統領にFRB理事の解任権限はあるのか」でもない。この裏には、より本質的な以下2つの問いが隠されている。
1.FRBはこれまで、金融機関の高リスクな証券化商品の取り締まりや、インフレ退治で失敗を重ねてきた。そもそもFRBに損なわれる『信認』が残されているのか 2.過去四半世紀に実行してきた金融政策は、結果として「経済格差の拡大」を招いた。FRBは本当に政権から独立した『中立』な組織といえるのか。そもそもFRBは誰のための組織なのか |
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本稿では、こうした深層に迫るとともに、「クック事件」が市場や日本にどのような影響を与え得るのかを読み解いていく。