日本人の「海苔離れ」は深刻に…韓国海苔大ブームでも「競合ほぼゼロ、売上高25億円」を出す熊本企業の危機感
「1枚1200円で落札」凶作の有明産海苔を救いたい
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海苔市場は、国産が凶作や後継者不足を背景に約30年で4割縮小している一方、韓国海苔が世界規模でシェアを急拡大している。このまま国産海苔は日本の食卓から消えてしまうのか。ジャーナリストの座安あきのさんによる連載「巨人に挑む商人たち」。第3回は「韓国海苔に立ち向かう『風雅』の海苔」――。
韓国海苔が世界シェア70%を占めるまでに
苦境にあるのは陸上のコメだけではない。海の国民食、海苔の歴史的な凶作が続いている。消費の低迷に追い打ちをかけるように、海水温上昇などで生育環境が悪化し生産現場に深刻なダメージを与えている。3年連続不作となった2024年度の養殖海苔の生産枚数は約59億枚。過去最低だった前年度からやや回復したものの、相場はこの3年で2倍に跳ね上がった。1990年代のピーク期の約100億枚から激減している。
国産海苔は消費・生産量ともに減少傾向にある一方で、世界の海苔の需要は伸び続けている。実際、世界の海苔生産の50%、販売量の70%のシェアを占めるという韓国海苔は、国策の養殖支援によって「海の半導体」と呼ばれるほどに市場を急拡大させてきた。だが、両者の間には同列には語れない、決定的な違いがある。
韓国海苔が、日常的に食卓に並ぶ品も高級品も、「味付け」を前提に開発されたものが主流なのに対し、日本の海苔は「天然の旨み」を追求するために、品種や製法を進化させてきた。グルタミン酸(昆布の旨み)、イノシン酸(かつお節の旨み)、グアニル酸(しいたけの旨み)という、日本料理の三大旨み成分をすべて含む世界でも珍しい天然食材として、日本の食文化の一角を築いてきたのだ。
競合がほぼ存在しない「海苔のお菓子」
中でも、その最大の母胎である九州・有明海産の海苔は特に口どけが良く、香りが高いことで知られている。100以上の河川が流れ込む広大な湾で、干満差は日本一。干潮時には太陽の光を浴びて光合成を行い、満潮時には海水に浸かって海の栄養を吸収する。必須ミネラルやアミノ酸を豊富に含んだ、世界で唯一無二の最強食材と言われる所以ゆえんでもある。
だからこそ、世界を席巻する韓国海苔の巨大市場にも、国産海苔の苦境にも、地場の企業が抗い続ける理由がある。
海苔を代表する贈答品として思い浮かぶ中に、「風雅巻き」はないだろうか。豆を海苔で巻いた棒状の、あのお菓子だ。パリッと頬張るごとに、磯の香りと豆の香ばしさが舌から鼻腔に広がり、品の良い自然の旨みに包まれる。親戚や知人に贈られて、職場で配られて。一度と言わず、二度、三度、口にしたことがあるという人も少なくないだろう。
風雅巻きのメーカーは熊本県にある、その名も「風雅」。1990年の創業以来、百貨店と専門店に特化した販売網にこだわってきた。ギフト市場における「海苔菓子」のパイオニアであり、ほぼ競合が存在しない独自の地位を築いている。
設立初年度、1億4800万円だった売上高は現在約25億円。見渡せば、割安な韓国海苔が浸透するだけでなく、主力の売り先である地方百貨店の衰退が加速する状況にある。にもかかわらず、売上高の推移では、コロナ禍の影響を受けた2020年度の1年間を除いて前年比増収を続けるという「ニッチ・トップ」にある地方企業のひとつだ。