貧乏になった日本でなぜキーエンスは圧倒的な利益を出せるのか…「どんなことが起きても強い企業」の共通点
「長期的な潮流」だけで投資先を選ぶと失敗する
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投資を始めるときは、どのような企業を選ぶといいのか。農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者の奥野一成さんは「製品やサービスの善し悪しが付加価値を決める時代は終わった。一方で、なおも成長を続けるアップル、ディズニー、キーエンスの戦略には共通点がある」という――。 ※本稿は、奥野一成『武器としての投資 AI時代を生き抜く資産とキャリアの築き方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「安さ」や「便利さ」では満足できなくなっている
かつての日本経済の成長は、社会全体に蔓延まんえんしていた「モノ不足」という目に見える顧客課題をいかに安価に解決するかにかかっていました。冷蔵庫、洗濯機、テレビといった三種の神器に象徴されるように、製品を製造すれば確実に需要がありました。この「モノを供給すれば売れる」時代は、やがてモノが充足するにつれ、価格競争へと軸足を移していきます。アジア諸国の安価な人件費を活用し、機能や物量をより低コストで提供することが企業の競争力となったのです。この一連の時代を総括するならば、「目に見える課題を、いかに早く安く解決するか」が付加価値の中心にあったと言えます。
しかし、時代は確実に変わりました。アジア諸国の経済発展による賃金上昇に加え、消費者のニーズも大きく変容しています。すでに機能面や物量面で満たされている現代の消費者に対して、単なる「安さ」や「便利さ」では満足を与えることは難しくなっていますし、それは携帯電話市場におけるアップル社の躍進を見れば明らかです。
「機能の追加」ではなく「潜在的な課題」を解決した
同社は単なる電話機能を超えた「ライフスタイルの提案」としてiPhoneを位置づけました。音楽、地図、カメラ、SNS……これまで分断されていた日常の行動を、すべてスマートフォン1台でシームレスにつなぐという発想は、単なる「機能の追加」ではなく、顧客が抱える「潜在的な課題」を鮮やかに発見し、解決したのです。単なるスペック競争ではない、体験そのものをデザインすることで、圧倒的な付加価値を生み出しました。
今、求められているのは、こうした「課題発見型」の付加価値創出です。顕在化したニーズを拾うのではなく、顧客自身がまだ気づいていない本質的な欲求を洞察し、言語化し、形にする。この能力こそが、現代における企業の持続的な成長を支えるものとなっています。
ディズニー社の例も興味深いでしょう。ディズニー社は、単なるアニメーション制作会社を超え、「夢と魔法の体験」を提供することで、世界中の顧客に深い感動をもたらしました。ディズニーランドのコンセプトは「最も幸せな場所」という抽象的な課題を発見し、それを徹底的に体験として具現化したものです。ここには単なる「アトラクションの数」や「施設の豪華さ」といった機能面の競争では説明できない、圧倒的な課題発見力と、それに基づく付加価値創出のストーリーが存在しています。