どんなに「毒母」でも恨んだことは一度もない…NHK朝ドラのモデル・やなせたかしが母親に抱いていた本当の想い
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NHKの朝ドラ「あんぱん」で、やなせたかし氏の母・登美子を演じる松嶋菜々子さんの演技に注目が集まっている。『アンパンマンと日本人』(新潮新書)を書いた東京科学大学の柳瀬博一教授は「おなかが空いた人に自分の顔を食べさせるアンパンマンの源流は、その母親との関係にある」という――。(第1回)(インタビュー、構成=ライター市岡ひかり)
「あんぱん」にあるフィクションとノンフィクション
4月からスタートした連続テレビ小説(以下、朝ドラ)「あんぱん」(NHK総合)。「アンパンマン」の作者であるやなせたかしとその妻・暢がモデルのドラマです。
私は「やなせたかしとアンパンマン」を語る上で、ドラマでは一見ヒール役のように描かれている母との関係性こそが重要なカギになっていると考えています。
X(旧Twitter)では松嶋菜々子さん演じる嵩の母・登美子に対し「一度捨てた子供に堂々と会いに来るの、面の皮が厚すぎ」「言うこといちいち腹が立つ」などと、その「毒母」ぶりが話題になっています。
実際はどうだったのでしょうか。まずはドラマの内容を見ていきましょう。脚本を担当するのは、やなせたかしと手紙のやりとりをしていた中園ミホさんです。少女時代、やなせたかしが編集長を務めていた文芸誌『詩とメルヘン』(サンリオ)の熱心な読者で、小学生の時に彼に手紙を書き、そこからしばらく文通を続けていたそうです。
やなせたかしをよく知る中園さんだからこそ、でしょう。彼女は「あんぱん」を徹底してフィクションとして描く部分と、ノンフィクションとしてリアルに描く部分とを明確にしています。
わかりやすくフィクションなのは、やなせたかしと妻・小松暢の関係性です。ドラマでは、やなせたかしがモデルの「柳井嵩」と、暢がモデルの「浅田のぶ」は幼馴染という関係ですが、史実では戦後、高知新聞の編集部で初めて出会います。
そして架空の人物であるジャムおじさんをイメージした「ヤムおんちゃん」、一緒にパンをつくるバタコさんをイメージした「ハタコさん」などといったベタな描写も。わかりやすさや記号性が求められる、実に朝ドラらしい表現です。