もう人類はAIをコントロールできない…歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが考える「最初にAIに征服される国」
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人工知能(AI)が人類を征服する。そんなSFのような事態は起きうるのか。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による話題の新著『NEXUS 情報の人類史』より一部を特別公開する――。(第2回) ※本稿は、ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史 下』(柴田裕之訳、河出書房新社)の第10章から一部抜粋、再構成したものです。
プーチンでもAIを取り締まることができない
(第1回より続く)
ソーシャルメディアのアルゴリズムが憤慨や憎悪を煽るコンテンツを拡散し、社会の信頼を損ねる手口は、民主社会にとって大きな脅威となった。だが、AIは独裁者にとっても脅威だ。
AIはさまざまな方法で中央の権力を強固にすることができるものの、権威主義の政権は、AIに関して独自の問題を抱えている。
まず何をおいても、独裁社会は非有機的な行動主体を制御する経験を欠いている。あらゆる権威主義政権の基盤は恐怖だ。だが、いったいどうやってアルゴリズムを威嚇することができるというのか?
もしロシアのインターネット上のチャットボットが、ウクライナでのロシア軍兵士による戦争犯罪に触れたり、ウラジーミル・プーチンについて不敬なジョークを飛ばしたり、プーチンの政権の腐敗を批判したりしたとしても、政権はそのチャットボットをどうやって罰することができるというのか?
警察官は、そのチャットボットを投獄することも、拷問することも、家族を脅すこともできない。もちろんプーチン政権は、そのチャットボットをブロックしたり削除したり、それを作った人間を見つけて罰そうとしたりすることはできるだろうが、これは人間のユーザーを懲戒するよりもはるかに厄介な仕事だ。