上手く演奏するか、「ガス室送り」か…文字通り「音楽に命を懸けた」アウシュビッツの女性オーケストラ

上手く演奏するか、「ガス室送り」か…文字通り「音楽に命を懸けた」アウシュビッツの女性オーケストラ

<ユダヤ民族を絶滅させる「不妊化」の人体実験を進めるナチスに対し、看守やナチス幹部のために演奏するオーケストラはユダヤ女性が生き延びる数少ない「蜘蛛の糸」だった:木村正人>

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「女性オーケストラ」に選ばれたことで、50人の女性がアウシュビッツで生き延びた

[ロンドン発]ポーランド南部のアウシュビッツ強制収容所では40歳以上のユダヤ人女性や少女は即座にガス室に送られた。出産適齢期の女性は極度の放射線を照射されたり、卵巣を外科的に摘出されたり、麻酔なしで子宮にホルムアルデヒド製剤を注射されたりした。

ユダヤ民族を絶滅させるため不妊化の人体実験が行われていた。ユダヤ人女性がアウシュビッツで生き延びる数少ない「蜘蛛の糸」が、ナチス親衛隊(SS)の看守やナチス幹部に音楽を演奏する「女性オーケストラ」に選ばれることだった。この細い糸で50人の女性が生き延びた。

『アウシュビッツの女性オーケストラ』(筆者仮訳、The Women's Orchestra of Auschwitz: A Story of Survival)の著者アン・セバ氏が3月26日、ロンドンの外国特派員協会(FPA)で質疑に応じた。女性たちに生き延びる希望を与えたのはオーケストラの指揮者アルマ・ロゼだった。

「50381」という番号の入れ墨

ウィーンで活躍した作曲家・指揮者グスタフ・マーラーの姪でセレブ・バイオリン奏者アルマは第二次大戦勃発後の1939年末、ロンドンから中立国オランダに戻った。ドイツはオランダを占領し、43年7月、アルマはぎゅうぎゅう詰めの列車でアウシュビッツ送りになる。

50381という番号の入れ墨を入れられた37歳のアルマは囚人服を着せられ、不妊化の実験室に連れて行かれた。手術台の上で死ぬと思ったアルマは最後の願いに良いバイオリンを求め、看守たちの前で演奏した。さらに数夜演奏した。演奏会はキャバレーのショーに早変わりした。

アルマの家族は改宗し母はカトリック、父はプロテスタント。アルマも洗礼を受け、ユダヤ教徒ではなかったが、ナチスにはユダヤ人だった。最も貴重な持ち物を持ち出すよう言われたユダヤ人の多くが素晴らしい楽器をアウシュビッツに持ち込んだ。それがアルマの命綱になった。

オーケストラに加えることは命を救うことに直結

サディスティックで残忍な女性看守は男性オーケストラに負けない女性オーケストラをつくることで名声を得ようとしていた。アルマが指揮者を引き継いだ女性オーケストラは朝と夕に収容者が整列して収容所と作業現場を往復するためのマーチングバンドとして活動を始めた。

アルマの女性オーケストラはSSに気に入られた。なぜなら演奏によってアウシュビッツは単なる絶滅収容所ではなく、より軍事的な規律漂う収容所を装うことができたからだ。名声が広がると、アルマはナチス高官や看守のために3時間の日曜コンサートを担当するようになった。

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2025.04.26

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