日本人の給料が上がらないのは「頑張りすぎ」だから…最低限の仕事だけこなす「静かな退職者」のススメ
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「静かな退職」とは、2022年にアメリカのキャリアコーチが発信し始めた「Quiet Quitting」の和訳で、会社を辞めるつもりはないものの出世を目指してがむしゃらに働きはせず、必要最低限の仕事をこなす働き方のことだ。雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏は「『静かな退職者』こそ、日本社会に風穴を空ける存在になりうる」という――。 ※本稿は、海老原嗣生『静かな退職という働き方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
業績と無関係な努力が信奉される異常
「静かな退職者」の真逆になる、いわゆる「忙しい毎日」型の仕事を少し考えてみましょう。
①評判のいい営業は、顧客訪問をした後に、お礼のメール(昔は手書きのお礼状でした)を出します。
②「近くに来たので寄りました」と、こまめに顧客を訪問します。
③賀詞交歓会などの催し物に顔を出します。
④ちょっとしたことがあると「上司を連れてきます」という対応をします。
⑤会議では、手書きで良いのにパワーポイントの資料を作成し、それを人数分コピーして配布します。
⑥パソコンに細大漏らさずメモをとり、それを議事録にまとめます。
⑦ビジネスでメールを出す時にも、時候の挨拶から書き始め、その後、近況報告や先日のお礼などを入れてから、ようやく本題を書きます。
営業の場合、仮に①〜④の仕事を全部やめてしまったら、本当に売り上げは下がるのでしょうか?
④などは、本人だけでなく上司にまで「ブルシット・ジョブ」を誘発しているのです。⑤は、最低限のパワポ資料を投影し、終了後、PDFで配布すれば事足りるでしょう。⑥は要点のみの手書きでかまわないし、最近では質の良い採録・テキスト化・要点整理のガジェットがあります。
⑦は、アメリカだと、Dear○○の次に、いきなり用件が書かれ、それも「はい・いいえ」で答える形式で、その「はい・いいえ」さえ「Y/N」と省略されていたりします。ちょっと探っただけで、これだけ「業績に関係ない」仕事が出てきます。
「忙しい毎日」からの脱却
街中を見渡しても、大きな駅に行けば、乗り換え案内や電車の行く先のアナウンスが四六時中流れていますが、これも果たして必要でしょうか? ホームでは、「雨の日なので傘のお忘れに注意しましょう」などと流されますが、電車を降りた後にそれを聞いても意味がないでしょう。「駆け込み乗車は危険ですのでおやめください」という注意も、果たしてそれで止める人がいるでしょうか?
ベーカリーに入ると、買ったパン一つひとつを柔らかなビニールで個別に包み、それらをビニール袋に入れ、最後に手提げに全部を詰めて渡されたりします。こんなサービス、本当に必要ですか?
私たちは今まで、「真面目に良いサービスを」というお題目に騙され、ブルシット・ジョブの渦にもがく生活を送っていたのではありませんか? それらはすなわち、「やっている感」を目一杯示すだけの行為でしょう。
では、私たちはなぜ、こんなにも「やっている感」を醸し出しているのでしょうか? その答えは、「それが評価につながる」、いや、「何かあった時に言い訳になる」からでしょう。つまり、なれ合いのために、ブルシット・ジョブを繰り返している……。その分、労働時間がいたずらに延び、結果、生産性が下がり、私生活を犠牲にせねばなりませんでした。
嫌な言い方をすれば、ようやく今、こんな洗脳が解け始めたと言えるでしょう。では、今後私たちはどう働けばいいのでしょうか。