転職先の肩書は部長でも課長でもない…割増退職金をもらった年収1500万の部長が就いた「時給1000円」のお仕事
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石破政権が進めようとしている「退職金課税の見直し」の狙いは、雇用流動化政策や転職の促進だ。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「儲かるのは人材派遣会社や、リストラを推進したい企業だけ。中高年社員は、退職金の課税強化で老後資産が目減りするだけでなく、転職しても年収が下がる悪循環に陥る可能性もある」という――。
石破政権が進める「退職金課税の見直し」の本当の狙い
50代のパート主婦は言う。
「夫の退職金はわが家の老後資金の重要な柱です。それに住宅ローンが残っていて、退職金をそれに充てたいのに……」
石破茂首相が3月5日の参院予算委員会で退職金課税の見直しについて「慎重なうえに適切な見直しをすべきだ」と発言したことが物議を醸している。
退職金課税の見直しについては、2023年6月に閣議決定された前岸田政権下の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)に「退職所得課税制度の見直しを行う」と文言が盛り込まれた。
以来、政府・与党は税制改正で見直しを検討することにしていたが、2025年度税制改正では見送り、26年度税制改正で議論する予定にしている。
改正の背景にあるのは政府が推進する転職を促進し、賃金の上昇を促す労働市場改革だ。
退職所得課税は、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額される。退職金の所得控除が長期勤続者ほど優遇されている現状が転職を阻害しており、控除額の優遇を見直す必要がある、という理屈だ。
石破首相も「これから先、雇用の流動化は賃金の上昇とあわせて図っていかないといけない」と強調している。
控除額を、勤続20年までの人は40万円、同21年目以降は70万円となっている現行制度をどう見直すかは明らかではないが、21年目以降の人の控除額を40万円にするというのであれば、受け取る退職金は目減りすることになる。
この時、発生する問題は2つある。
1つは老後の生活保障を支える資産が少なくなることだ。退職金は退職一時金と企業年金で構成されるが、政府は企業年金を、公的年金を補完する老後の所得保障のための制度と位置づけている。課税強化によって退職金が減ると、老後の生活も不安定にならざるをえない。
そうでなくても退職金は年々減少傾向にある。厚生労働省の「就労条件総合調査」の退職金調査(5年に1回)によると、1997年の平均定年退職金は2871万円。その後、減少をたどり、2023年は1896万円だ(大学・大学院卒)。課税強化によってこれ以上退職金を減らすことは政府の政策に明らかに矛盾するように見える。