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【子どもの偏食】“おいしい”も“食べたくない”も経験がつくる
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ネット環境が整った時代に生まれ、スマホやタブレットなどのデジタルデバイスの進化とともに成長してきた現代の子どもたち。親世代の子ども時代とは、社会環境や生活の仕方が変化した今、子どもたちの心身には新たな問題が起きている。今回は、子どもの偏食について管理栄養士の上田玲子氏にインタビュー。
子どもの偏食・好き嫌いはなぜ起こるのか
子どもの休園や休校で家にいる時間が長くなった反面、3食きちんと栄養バランスのとれた食事をとってほしくても、偏食や好き嫌いの問題に頭を悩ませる人も多いだろう。
厚生労働省の平成27年度の「乳幼児栄養調査」では、2~6歳の保護者が子どもの食事で困っていることの中で、すべての年齢で「偏食する」が約30%となり、その他にも、「食べるのに時間がかかる」「むら食い」「食事よりも甘い飲み物やお菓子を欲しがる」といった回答が多く見られた。
食材やメニュー選び、調理の仕方などを工夫する反面、子どもが嫌がってせっかく作ったものを捨てることもある。特に好き嫌いの激しさは保護者のしつけの問題とも捉えられやすく、このままではきちんと成長しないのではないかという焦りとともに、心に大きな負担が募ることもあるだろう。
「子どもの偏食や好き嫌いは、決して保護者の力不足ではありません。離乳期の赤ちゃんは特にさまざまな要因から食べられないものがあります。しかし一方で、不足する栄養素によっては深刻な問題に発展する場合もあるので注意が必要」と話すのは、管理栄養士であり、小児栄養学や小児保健学、食育を専門とする上田玲子氏。(以下、上田氏)
まずは偏食が起こるメカニズムについて話を聞いた。
好き嫌いは生きるための本能
「甘いものを口にしたとき、赤ちゃんはどういう反応をすると思いますか?」と上田氏。
人間の舌には、“甘味”、“うま味”、“塩味”、“酸味”、“苦味”の五原味を感じる機能が備わっている。栄養学では有名なJ.Eシュタイナー博士による研究では、乳児にこれら5つの味を与えると、それぞれの味で異なる反応を見せることが分かっている1)2)。
1)J.E Steiner et al., (1987): What the neonate can tell us about umami, in Kawamura Y and Kare MR(ed), Umami, A Basic Taste. Marcell Dekker, New York, 1987, pp97-123.
2)今田純雄(編)(2005)「食べることの心理学-食べる,食べない,好き,嫌い」有斐閣選書
「まず、甘味は砂糖(ショ糖)、果糖、ブドウ糖やごはん、パン、麺などの炭水化物に含まれるもので、心臓を動かしたり泣いたり、体を動かすために必要なエネルギーとなる糖質。甘味を口にした赤ちゃん全員が『うれしい』と全身を使って喜びを表現します。
次に、うま味は昆布や野菜に含まれるグルタミン酸、肉や魚などに含まれるイノシン酸などのアミノ酸や核酸の存在を示す味。アミノ酸や核酸はたんぱく質を合成します。つまり身体や生命活動を担うために必要な栄養素なので、好きですよというシグナルとして全員がうっとりとした表情をします」
この2つの味は、乳児自身が、生まれ持った本能の働きで“おいしい”という表情やしぐさを見せるものだ。食べ物を与えてくれる大人に対して、自然と“ください”という表情によってシグナルを発するようにできている。
また、体内の塩分バランスを整えるための塩味は、胃や小腸で消化と吸収を助けたり、細胞の働きを保つなど、人間の体に欠かせないがごく少量で十分であり、また腎臓の機能もまだ未熟なため、淡々と受け入れられる。
しかし一方で、顔をしかめて嫌がるのが酸味、吐き出そうとする反応が見られるのが苦味だ。
「これは、命をおびやかす味を本能的に危険と感じているから。食品が腐敗したときに出るのが酸味で、生物界において苦味は毒の味です。
これらの五原味を口内全体や舌や喉などにある“味蕾(みらい)”という器官で感じとり、生体防御の判断を脳がするようにできています。酸味や苦味など本能的にリスクがあるものを嫌うようにできているため、特に苦味を含む野菜などははじめはなかなか受け入れられません。
つまり、好き嫌いや偏食は、リスクを回避し体に必要なものは受容する反応として生まれつき人間の本能として備わっており、誰しもが持っているもの。それは、人間が生存と繁栄のために身につけた選別の方法なんです。
“偏食”という言葉の定義も、実は医学的に決まったものがないのが現状。私のように好き嫌いと同義で使う人もいれば、特定の栄養素が偏ることや同じものばかり食べること、また、時期に偏りが見られる場合に偏食という方もいます」
“おいしい”の感覚はこうして作られる
人間は本能的に備わった味覚の機能を持ちながらも、生存や繁栄のためには好き嫌いがない方が生き残りやすいことから、食性を広げ、雑食になった歴史がある。私たちが今、何の疑いもなく口に運んでいる食べ物も、先人たちが命がけで食べ、酸っぱいものや苦いものでも食べられるものがあるという安全情報を得たものだ。
「新生児の段階では、五原味に対する反応は成人よりも敏感ですが、乳児が外から刺激を感じたときに反応するモロー反射と同じ原始反射なので、生後3~5カ月で減弱化します。
このため離乳食が始まる生後5~6カ月くらいからは、食べられる味のレパートリーを増やし、味覚の発達を促していくことができるようになります。
ピーマンやゴーヤは苦いけれど毒は入っていませんし、梅干しやレモンは腐敗しているわけではない。いつまでも本能に左右されていると、苦味や酸味のあるものはずっと食べられないので、食べても安全だということを体験から学習していくことが大切です」
離乳食の時期は、食感、舌触り、温度、匂い、色彩などの五感(臭覚、触覚、聴覚、視覚、味覚)で感じながら、さまざまな味を知っていく。初めは酸味や苦味を嫌がる子どもも、それらを“食べても安全である”ことが分かれば、次第に口に入れようとするのだ。
「では、まだ“おいしい”という言葉を知らない赤ちゃんがどのように味の安全を確かめ“おいしい”という言葉をむすびつけるかというと、“嗜好学習”です。そのためには、養育者と子どもたちが食事をともにする“共食”の体験が必要です」
古来、人間は共食する動物だ。進化の過程で集団で定住化し、肉食となった人類は、共同で狩りを行い、手に入れた食物を運搬し、分配することで共食するようになった。自分で食物の安全を確かめなくても、分配により運んでくれる人への信頼が生まれ、共感能力を育むとともに、脳が発達していったのである。
「チンパンジーなどの類人猿は、年寄りや子どもに乞われれば分け与え、向かい合って食べる光景も見られますが、人間は、脳の発達により、乞われなくても与えます。それが、他者の心を推論し、『自分と同じように食物に関心を持っているな』『この食物を分けてあげると喜ぶな』という思いやりへと進化していった。
つまり、食事をともにする中で、保護者や周囲の大人と“おいしい”を共有することが、本能的な味の嗜好を乗り越えるために大切な体験です。目の前の大人が、『おいしい』と言いながら食べている光景を観察したり、『おいしいよ』と教えながら食べさせることで、子どもは安全情報を得ていきます。
また、2歳以降はスプーンを使って自分で食事ができるようになってきます。今までは信頼する大人から食べさせてもらっていたので安心していましたが、自分で食べるようになると、安全か否かを自分で見極めなければならなくなります。このためちょっとしたことがきっかけで不安を持ちやすく今まで食べていたものも拒否したりするようになります。
これを2歳はイヤイヤ期だからわがままになってと思い込んでは気の毒。不安を解消するような働きかけがこの時期には大切です。さらにこのころになると新しいものを口にする機会も増えますが、得体の知れないものを初めて口にする時は、大人でも躊躇します。危険なものかもしれませんから。
これは新奇性恐怖といい、これも、共食し、みんなが食べているから安心だと認識するだけでなく、美味しそうに食べているから食べてみたいと気持ちが動くことにより『毒が含まれているかも、食べるのをやめよう』という反応から、『どんな味がするのかな、食べてみたい』という反応へと変わり、食べず嫌いを乗り越えることができます。
また、食べたことのない食物に対して母親が食べていると80%にのぼる幼児が食べることが研究3)でも分かっています。幼稚園や保育園に入り、給食を友だちと食べるようになると、これまで食べなかったものを食べるようになるケースもよく見られます」
3)Harper.L.V.,&Sanders,K.M(1975)The effects of adults’eating on young children’s acceptance of unfamiliar foods .Journal of Experimental Child Psychology, 20,206-214
嫌いになるのは味よりも“いやな経験”から
離乳期の酸味や苦味を避ける本能的な反応や、2歳以降のはじめてのものを食わず嫌いする新奇性恐怖は、周囲の大人との共食で“おいしい”を共有することにより緩和されることが分かった。しかしそれでも、特定の食物を食べなくなる原因はいくつか存在する。そのひとつが、“食物嫌悪学習”だ。
咀嚼機能に合った調理法で嫌悪体験を減らす
「食物嫌悪学習は、ある食材を食べた際に、吐き気や腹痛などの体調不良が起こったり、無理やりに食べさせられたといった、いやな経験が記憶として残ることで嫌いになってしまうこと。
これを乳幼児に当てはめて考えると、発達段階にある咀嚼能力が好き嫌いや偏食に大きく関わることになります。たとえば、離乳食で舌触りが悪いときや、茹で加減が甘かったかな、という時に子どもが目の前で口から吐き出すのを経験した方も多いのではないでしょうか。
これは、離乳食初期の赤ちゃんは歯がほとんど生えていないので、舌に乗せられたものを飲み込むことしかできず、固いものや粗い質感のものはのどに詰まらせるリスクがあると感じるから起こる反応です。
また、乳歯が生えてきてからも注意が必要。
乳歯は、1歳で前歯8本、1歳半になりやっと奥歯が生え始めます。生えそろうのはだいたい2歳半から3歳頃。奥歯が上下生えていないと、固形物はすり潰して食べることができません。
食べないことをわがままに感じてしまうこともあると思いますが、うまく噛みつぶすことができないため、のどに詰まらせて苦しかったりすると子どもにとって嫌悪体験になり、怖くて食べられなくなることがあります」
乳歯が生えそろい、よく噛めるようになるのは3~4歳頃。しかしそのわずか2~3年後、5~6歳で永久歯に生え変わるため乳歯が抜け始める。そのため、歯がまだ生えていない箇所があったり、ぐらぐらしたりすると再度咀嚼力が低下することになる。
「親知らず(第3大臼歯)以外の永久歯が生えそろうのはだいたい11歳から13歳。乳歯が永久歯に生え変わるまでの間、噛む力が再び弱くなっていることに気づかない親は、固いものを与えたり、幼稚園の頃は食べられたのにどうして食べられないの?と思うこともあると思います。
子どもが野菜を嫌うのは苦みが大きな要因ですが、繊維が多く、歯がしっかり生えそろっていないため噛み切れず窒息への恐怖も一因。咀嚼力や歯の状態に合わせて調理法を変えてみることで食べられるようになることもあります」
噛む力の促進と舌の発達で食べられるものを増やす
子どもの咀嚼機能に適した食事を与えるだけでなく、離乳期においては噛む力を育むことも必要だ。そこで気を付けるべきは、スプーンを使った与え方。
「人間は唇と上あご前歯の裏側が敏感です。ここで食べ物の物性を感知し、固ければ奥歯で噛もう、やわらかければ飲み込もうと判断をしています。しかし、いきなりスプーンを口の奥まで入れてしまうと飲み込むことしか学習できず、物性を感知し舌を使って歯ぐきに食べ物を運んでつぶすべきか、単に飲み込めばいいのかの判断力が育ちません」
噛む力をつけるには、スプーンを歯ぐきより奥には入れずに下唇の上にのせます。そうすると自然に上唇が下りてきます。上唇と下唇で挟んだらまっすぐにスプーンを引きぬいてください。
生後9か月前後で上下の前歯が生えたら手づかみ食べを十分にさせ、形があるものは前歯で噛み取らせることで、次第に自分に合ったひと口量も覚えていきます。一口量がわかるとよく噛むことができ、噛んだものを舌の上でまとめて飲み込めるようになります。これをくり返すことにより噛む力が育っていきます。
また、水分は食前か食後に与え、食中には与えないこと。食事中にまだ口の中に食べ物が入っているのに水分をあたえると噛まないで流しこむ癖がつくため噛む力がつかない。同様に、急がせたり無理強いするのも噛む練習には逆効果だ。
「自分で加減をしながら食べられるようになるためには、手づかみ食べを十分にさせることも重要です。前歯でかじり取る練習ができるし、ひと口量を覚え、噛んで口の中でまとめて飲み込むこともできる。
さらに、手でつかむことにより温度や固さを確認することができるので、熱いと口に入れないし、触って固ければ手でつぶしてみたり、下に落としてみたりして自分の噛む力にあった形態してから口に入れることができます。手づかみ食べでテーブルや床を汚してしまうのは、遊んでいるわけではなく、好ましい食形態を学習しているのです」
スプーンの使い方と合わせて注意したいのは、ストローマグ。近年、ストローマグを1歳以降も長期間使うことによる発音機能への影響が問題視されている。
「舌は中央より少し後ろから先(前)にかけて発達し、母乳やミルクを飲むのは後方、離乳食は後方から中央にかけての部分を使って押しつぶしながら食べます。しかし、ストローマグで飲み物を摂る場合は舌の後方しか使っていないため発達の問題が起こります。
舌の先端(前方)は食べ物を運んだり、コップで飲み物を飲むときに使う場所ですが、発語機能も担っているため、発音が悪くなる可能性も。
そのため、1歳を過ぎたらコップで飲めるように離乳期後半から少しずつ練習することをおすすめします。また、ストローマグは、子どもが飲みやすいことから必要以上に飲みすぎてしまい、満腹になってご飯が食べられないということもあるので注意が必要です」
ひどい偏食は発育・発達への影響も
離乳食が順調に進まない場合や、幼児期になっても決まったものしか食べない子どもや、極端に小食な子どもなど、偏食が激しい場合は、栄養が足りているか心配になるものだ。上田氏は、不足する栄養素によっては、深刻な問題へと発展する場合もあるという。
「特に鉄分とビタミンDの不足は昨今問題になっています4)。
乳幼児期の鉄欠乏は貧血を発症し、貧血により体重増加不良、身長の伸びの障害をきたすだけでなく、脳の発達・機能にも影響します。鉄分については、2歳未満で貧血が3カ月以上続くと発育や発達に遅れが出る可能性が高く、日本では50~100人に1人の割合で発症しているといわれます。この段階で保護者は気がつかずに見逃してしまうことが多くあります。
乳幼児期に起こる貧血は、鉄欠乏が主な原因。食べ物から鉄分を摂らなければならないところ、母乳や牛乳、米など鉄分の少ないものばかり摂っていたり、離乳食を始める時期が遅れたりすることで、乳幼児の場合は食欲不振や体重の停滞、つかまり立ちや歩行、発語など精神運動発達(具体的には人見知り、バイバイ、おつむてんてんなどの簡単な遊びをする、ひとり立ち、一人歩き、言葉の理解、発語など5)の遅れを招きます。
「血液検査で貧血と診断された場合には、鉄剤治療(3~6㎎/kg/日)を行った場合、数日以内に効果がみられることが多い。その後治療期間については症状をみながら16週間計測し、その後漸減しながら6カ月~1年を目安に中止していきます6)。
しかし、2歳未満の子どもは、脳や体が形成される段階のため、この時期に貧血が続くと一度遅れた発育や発達は取り戻すことが難しいのです。
鉄欠乏症を防ぐには離乳食開始5~6か月の目安を遅らせないこと。離乳食を段階的に進めていくこと、離乳食には鉄分豊富な食材を活用すること、牛乳は1歳までは飲料としては与えない(調理に使う程度は問題ない)こと、生後9か月以降で3回食/日を定着させそれでも鉄分が足りないようならフォローアップミルク(生後9か月以降に使用可)を与えてもよいでしょう。
なお離乳食期の子どもにはレバーや赤身肉、カツオやまぐろなどの赤身の多い魚、卵、大豆、濃緑色野菜青菜類(小松菜、ほうれん草等)などの鉄分が多く含まれている食材を十分に与える対応が必要です」
また、太陽の光に当たることで体内で生成されるビタミンDは、カルシウムやリンの吸収を助け、元気な骨を作る働きがある。これが不足すると、身長が伸びにくい、背骨や手足の変形、O脚などの症状が起こる“くる病(骨軟化症)になる可能性も。
「これは、妊娠中に浴びる太陽光が不足していたり、子どもの外遊びの減少や日焼け止めの使用などの過度な紫外線防止対策、食事からの摂取量が少ないなどが考えられています。
食事からビタミンDを取り入れるには、いわしや鮭などの魚のほか、しめじやしいたけなどのきのこ類などが有効。また、国立環境研究所が、季節や時間、場所によって一日に必要なビタミンDの摂取量を紫外線を浴びて合成しようとした場合に必要な日光浴の時間を算定して毎日更新しています。
他にも、母親が数滴を指や乳首につけて赤ちゃんに与えたり、食事に入れたりして摂ることができる液体のサプリメントもあります。無味で飲みやすいので、妊婦さんに勧めることもあります」
4)「授乳・離乳の支援ガイド」2019年改定,厚生労働省
5)改定「離乳の基本」理論編(編集:母子衛生研究会)母子保健事業団.1997
6)佐々木万里江、高橋孝雄、「乳児期の鉄欠乏について」小児科臨床 72No.2:193-196.2019
好き嫌いや味覚は一生変わり続けるもの
この偏食がいつまで続くのか、食べられるようになる日が来るのだろうかと悩む人も多くいるが、上田氏の行った調査では、食べられないものが食べられるようになった年齢は10代と遅い傾向にあることが分かっている。
「にんじんや玉ねぎ、ピーマンや納豆などを食べられない子どもが食べられるようになる年齢は平均10歳。うち約80%は15歳になってからです。
また、一般的にクセがあると言われる、レバーやふき、しそや春菊が食べられるようになるのは平均14歳、セロリやらっきょうは平均17歳7)。
好き嫌いには波があり、味覚が安定するのは小学5年生くらいと結構遅いんです。つまり、子どもの好き嫌いや偏食は、長い目で見守ることが大切。
食べられないものが食べられるようになるきっかけのひとつは好奇心。幼児期の場合は、気が向いたとき、興味が湧いたときに食べられるような環境にするのがおすすめです。そのためには、たとえば子ども専用の食事を一生懸命つくることをやめてみる。『せっかく用意したんだから食べなさい』ではなく、『お腹が空いたら食べよう』くらいの心持ちでよいのです。
子どもがまだ噛んでいるのに、次のひと口をスプーンに乗せて子どもの口の前で待ってしまうのでは、早く飲み込みなさいと言っているようなもの。焦る気持ちで子どもの食事にいっぱいいっぱいになるよりも、まずは自分たち大人が食事を楽しむことも必要です。
子どもが9才ごろから高校生ぐらいまでの第二発育急進期に差し掛かれば、食べる量がぐんと増えて、そのときに好き嫌いがなくなったということも多い。この時期に親知らず(第3大臼歯)を除く永久歯が生えそろって咀嚼力が上がることも、食べられるようになる一因です」
7)嗜好に関する研究”上田玲子,千葉学校保健研究, 6, pp.13-20, 2014
食事を共にし、楽しい時間にすることが偏食克服の第一歩
味覚は年齢や体調などによって一生変わり続けるものだと上田氏は言う。子どもが食べない食材について悩むよりも、目の前の子どもに対してやるべきことは、プレッシャーをかけず、できるだけ多くの人と楽しい食事の時間を積み重ねることだ。
「極端に同じものしか食べないことで、鉄分やビタミンDといった、子どもの体に影響を及ぼす栄養素が不足している場合は小児科専門医を受診することをおすすめしますが、そうではない場合は、まずは子どもといっしょに“食事は楽しい”を共有することから始めてみる。
食は“経験”です。さまざまな角度から子どもの興味や好奇心を刺激し、子どもが“食べてみようかな”と思ったとき、いつでもチャレンジできる環境を整えましょう」
KIDSNA編集部