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【漫画家・ツルリンゴスターインタビュー】妻・母、漫画家、どの自分も大切にするために<前編>
現在KIDSNAで連載中の「彼女はNOの翼を持っている」。女子高生の主人公・つばさと家族、そして友人たちとのさまざまな関係を通じて、はっきりと「NO」を伝えることの大切さを描いていきます。今回は、3人のお子さんの母でもある、作者のツルリンゴスターさんにインタビュー。前編となる今回は、妻として、母として、そして一人の女性としての自分について、KIDSNA STYLE・加藤がさまざまな質問をぶつけました!
他人にどう思われるかより、自分らしくいたい
KIDSNA STYLE・加藤(以下、加藤):
実はツルリンゴスターさんとは、KIDSNAで連載「彼女はNOの翼を持っている」を始めるにあたって、私と娘がリアルな今の母と娘として取材を受けるという形で一年ほど前にお話しているんですよね(※注:娘さんは取材時、中学三年生)。私たち親子にとってもお互いの価値観を知る、貴重な時間でした。
今日は私のほうからいろいろと質問させてください。
まず、幼少期はどんなお子さんでしたか。将来漫画を描きたいとか、こうなりたいといったビジョンはいつ頃形成されたのでしょう。
ツルリンゴスター:
保育園に通っていた頃から「絵の仕事がしたい」と言っていて、ここ2、3年でやっとイラストレーター・漫画家という肩書になれたかんじです。
体調が悪くて誘いを断ることを不安に思う親友のみっちょんにつばさは…(「彼女はNOの翼を持っている」1話より)
最近は言われることも少なくなってきましたが、まだ「お母さんってこうだよね」とイメージされる、「母親像」ってありますよね。そして、自分はその「母親像」からはズレているという思いがずっとあります。
その母親像から外れるとき、周りから「ちょっと変に見られたり、敬遠されるかな」ということは頭をよぎります。でも、「他人にどう思われるか」のストレスと、それでも自分の好きな道を進んだときの気持ちよさ、このふたつを天秤にかけると、だいたい自分らしくいることが勝つんですよね。
それは両親の影響も大きいと思います。幼い頃、母は私が暗くて変わった絵を描いていても「すごいね」とほめてくれたり、その絵をスクラップして保存してくれたり、私をとても肯定して育ててくれました。
父は母とは真逆のタイプで、愛情を表に出さず、私から見ると義務感で親をやっているのかな?とも思えるような変わった人でした。孤独でドライ。でも、ひとりで楽しく山登りをするような人で、周りの雰囲気に流されて、無理にその場に自分をはめこまなくても、ひとりでも楽しく生きていけるんだと、父の姿を通して学んだ気がします。
装いやふるまいで、「これは”お母さん”ぽくないかな」と自分の中で抵抗を感じるとき、親が教えてくれた自己肯定感やひとりでも大丈夫という気持ちが私らしい方向に背中を押してくれている気がします。
加藤:
子ども時代にお母さんと性教育の話もされていたそうで。当時としてはかなり先進的ですし、それがツルリンゴスターさんにしっかり受け継がれているんでしょうね。
ツルリンゴスター:
母は教師を辞めたあと、書店で働いていたためか、翻訳された外国の性教育の絵本や、死に関する本など、家にはさまざまな本がありました。親自身、言葉で伝えにくい部分を、本を置いておくことで伝えようとしていたのかもしれません。
仕事、育児、漫画、どれも大切だから家事は完璧を目指さない
加藤:
現在ツルリンゴスターさんはお仕事と子育てをしながら作品を描かれていて、どのように両立されているのでしょう?
ツルリンゴスター:
私はたぶん、両立はできていないですね(笑)。ぐちゃぐちゃな状態でひたすら走り続けているかんじです。
本業は、制作会社でフルタイムで働いています。本業の勤務後、子どもが帰ってきてごはんを食べさせて、描けるときは夜の9-10時くらいからひたすら漫画を描いて……睡眠時間は平均3、4時間くらいという生活でまったくおすすめできません。
加藤:
フルタイムで働くだけでもキャパオーバーになるのに漫画まで…どのようにモチベーションを維持しているのでしょうか。
ツルリンゴスター:
そうですね、精神面で追いつめられることもありますし、体力面でも異変を感じたら、2、3日はすごく睡眠をとったり、お風呂にゆっくりはいったりして、自分の体の悲鳴に耳を傾けつつ、隙間時間で自分を癒すスキルは上がってます(笑)。
食事も、作りたいなと思えるときは凝ったものを作るけど、ダメなときは出前やお惣菜を買う。結局家事がいちばん手間を省けるし、「ある程度適当でもうちの家族的には問題じゃない」というのがこの3、4年で気づいたことです。ただ、夫は私より家事をしっかりやろうとする考えなので、結果普段の家事はほとんど彼が回しています。
家事はあえて「分担しない」「できないときはやらない」
加藤:
パートナーとの認識はどのようにすり合わせていったのでしょうか。
ツルリンゴスター:
ここに至るまで、もちろん、喧嘩も話し合いもしました。夫もかなり激務で、最終的に我が家では「できないときはやらない」、あとは「分担はしない」。そのときできるほう、気になったほうが動くことにして、「どっちもやらなくても文句を言わない」というやり方にしています。
加藤:
分担すれば「こっちのほうが多い」ということが気になるし、決まったことができていないと「あっちがやるはずなのに…」という気持ちになってしまうから、あえて分担しないのもいいかもしれないですね。
ツルリンゴスター:
もちろん、分担が決まっていたほうがタスク管理がしやすい夫婦もいると思います。大切なのは、どちらかが大変なときにその都度言い合える関係を築くことで、その夫婦にとっていい方法を家族の段階に合わせて変化しながら探していければいいなと思います。
加藤:
以前おこなったママ座談会でも「私はこんなにがんばっているのに、なんで気にかけてくれないの?」という女性の意見は多くて。でも男性は「察して」には気が付かないものですよね。
ツルリンゴスターさんはご自身の要求をパートナーにはっきり伝えていますか?
ツルリンゴスター:
具体的な要求を伝えることもあったし、「夫婦どちらも同じくらい家事ができたらサポートし合えていいよね」という話をすり合わせてきて、それがあって「そのときできる方がやる」方式が今できているんだと思います。
家事は経験とコツがいる仕事で流れもあるので、ひととおり全部一人でできるようにならないと不満を生まない家事参加は難しいかもしれません。パートナーの片方が3日家にいなかったとしても家事育児を回せる、というレベルに来て初めて見える景色があって、うちも夫婦でその感覚が共有できるまでに時間がかかりました。
でも、今は私、本当にやっていなくて、夫の負担が大きいと思います(笑)。
あとは子どもが成長してきて、自分の出したものは自分で片づけたり、戦力になってくれています。
100%分かり合うことはできなくても、着地点を一緒に探すことはできる
加藤:
パートナーはツルリンゴスターさんが二足の草鞋を履いていることに対して、もともとご理解があったんですか?
ツルリンゴスター:
夫は私が好きなことをやることに関して、とても肯定的です。私の副業時間が増えたことで、夫の負担が大きくなり始めた頃は、もちろんとまどいもあったと思います。
お互いの仕事についてもよく話しますし、例えば漫画を描くときに、内容について壁打ち相手になってもらったり、キャラや設定作りのときに手伝ってもらったり、一番近いところにいる彼に制作を応援してもらえるかは私にとってモチベーションにとても関わるので、理解があることはとても重要です。
とはいえ、夫婦で性格が全然違うし、何を軸に生きているかも違います。
夫も私も、夫婦であっても「すべては分かり合えない」という前提を持ちつつ、それでも折り合いをつけられる着地点を一緒に探す、ゴールは同じなので、そこを目指して家庭を運営している感じですね。
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Profile
ツルリンゴスター
マンガ・イラストレーター。長男出産後、SNSで何気ない日常のふとした出来事や気持ちを漫画やイラストで綴る。著書に『いってらっしゃいのその後で』『君の心に火がついて』(KADOKAWA)がある。挿絵やイラスト・マンガを執筆。関西在住。3人の子どもと夫、猫1匹、とかげ1匹と暮らす。