【漫画家・ツルリンゴスターインタビュー】子育て中の関わりで「性的同意」を伝える<後編>

【漫画家・ツルリンゴスターインタビュー】子育て中の関わりで「性的同意」を伝える<後編>

2023.09.29

現在KIDSNAで連載中の「彼女はNOの翼を持っている」。女子高生の主人公・つばさと家族、そして友人たちとのさまざまな関係を通じて、はっきりと「NO」を伝えることの大切さを描いていきます。前回は、3人のお子さんの母でもある、作者のツルリンゴスターさんに、幼少期の親からの影響、仕事と家事育児のバランスの取り方と夫婦のルールについてお聞きしました。後編となる今回は、作品を通してこれからを生きる子どもたちに伝えたいことについて聞いていきます。

▼▽▼前回の記事はこちら▼▽▼

【漫画家・ツルリンゴスターインタビュー】妻・母、漫画家、どの自分も大切にするために<前編>

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NOの翼で描く、今の子どもたちに伝えたいこと

加藤:

本作「彼女はNOの翼を持っている」は、人権教育や性教育が根底のテーマになっていますが、このテーマで作品を描こうと思ったきっかけをお聞かせください。

ツルリンゴスター:

近年「性的同意」という言葉をよく聞くようになりましたが、実際日本人の文化って、そういった場面になったときに「NO」とは言いにくい雰囲気があることが多いのが現状だと思います。

じゃあ実際に「NO」を伝えている場面を描くことをゴールにしてみようというところからスタートしました。

今にして思うと、私の母も多様性や性教育に対する意識が高い人でした。ただ、そういう知識を親から受けているときはまだ自分ごとだと思えなくて。

社会に出て社会構造のひずみの溝に落ち、初めて「自分は対等に扱われていない」と感じたときに、親からもらった過去の知識がつながったんだと思います。

だから1話の冒頭では、母親が義実家で頑張るシーンを見たつばさの幼少期を描きました。やがてつばさが学生になり、人との関わりが増え、それに伴うさまざまな問題が出てくる。そして、なにかを決断する際に、これまでに受けた親の言動がヒントになることもあるのではないでしょうか。

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1話の冒頭、象徴的なつばさの幼少期の記憶。(「彼女はNOの翼を持っている」1話より)

危ない場面も、リアルで経験しなければ養えない感覚がある

加藤:

私の周りで最近「嗅覚」って大事だよねと話していたのですが、自分たちが学生の頃って「なんかこの場所は危険そう」とか「なんかこの人危なそう」といった第六感のようなものが、なんとなくあった気がしていて……今ってリアルにそういう場を見たり空気感を感じたりすることが減っているから、危機察知能力が低いのかもしれませんね。

ツルリンゴスター:

加藤さんのおっしゃる「嗅覚」って、危ないことに直面した経験があって初めて備わるものじゃないですか。

親になった今は、危ないことギリギリでもやめてほしいと思うので、先回りして禁止できるならしたいってどうしても思ってしまいますよね。

以前にじいろさんと対談させていただいた際、中高生の妊娠について、正しい知識を持って予防することも大事だけど、そもそも「意図しない妊娠は起こる(参照:国際セクシュアリティガイダンス)」ということを大人がわかっていることが重要、とおっしゃっていました。

だから、「嗅覚」がなかったからあの子は危ない目にあった、ということではなく、本当に辛い現実ですが「危ないことは誰にでも起こりうる」ということなのかなあと。そのうえで、危ない目にあったらどうしたらいいのかという話し合いを日々しながら、何かあったときには「助けて」と言ってもらえる信頼関係を日頃から築いておく。決して簡単ではないけれど、日々の積み重ねをしていくしかないんだと思います。

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作品は「唯一の正解」ではない

加藤:

「彼女はNOの翼を持っている」は人権から性教育と壮大なテーマの漫画ですが、作品作りで苦労している点はありますか?

ツルリンゴスター:

作品を読んだ読者の方に「これが唯一の正解」というふうに受け取られたくはないので、そこが難しいですね。

たとえば、日本のドラマや漫画で、親がコンドームについて子どもに話すシーンがあったとしても、「ちゃんと避妊しなさいよ!」みたいな描写が多かったですよね。

それでコンドームの使い方について親子で話す場面を描いたのですが、私自身、じゃあ実際に同じことができるかと言われると、頑張りたいけどハードルが高いなと感じてしまいます(笑)。

ただ、将来、子どもと性の話や人権の話をするタイミングで、ふっと漫画の場面が頭に浮かんでくれたらいいなと思います。たとえば、コンドームについて教えたいとき「私はあなたの性的志向と性自認を知らないけど…」と伝えられたり、子どもが周りの子たちを気にして焦っているときに「あなたはどうしてそうしたいって思う?」と声をかけられたりするかもしれない。

その言葉が出ることで、人権や性について話せる関係を深められるかもしれません。

加藤:

最近、娘が急に「かわいくなりたい」と言い出して、そのときまさに、つばさのメイクの話を思い出しました!「みんなが言う、かわいいってなんだろうね?でもそれって自分という個性に当てはめたらどうなのかな?」と聞いて色々会話しました。子どもの知っている「その一部の世界の常識がすべてじゃないよ」と、少し思考回路を広げてあげることも大切かなと思います。

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母と父、それぞれから自分を大切にすることや多様性について教わるつばさ。(「彼女はNOの翼を持っている」3話より)


ツルリンゴスター:

自分で描いていても「親子でこんなこと言うのかな?」とか「仲良すぎでは?」と思うこともあるんですが、そこでどんどん疑問に思ってほしい。「自分だったらどう言うか?」とか見ることで、それが考えることにつながるんですよね。

どこがポイントでこのセリフを発しているのか、自分なりに咀嚼してもらえたらうれしいです。

作品を読んで応援してくださる方はみなさん、お子さんを応援したいし守りたいという気持ちがあふれたコメントを下さいます。どう伝えればいいのか分からなかったり、そのための言葉をもっていないことが多いから、作品がその言葉を探すきっかけのひとつになれば…。

未就学児の親も、今からできる性教育を模索している

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コンドームや性についての話を母・時江からされたつばさは、それが普通だと思っていた。(「彼女はNOの翼を持っている」5話より)


加藤:

KIDSNAは未就学児の親がメインターゲットですが、将来見越して「今できることはなんだろう?」と感じてもらうために、意識していることなどはありますか?

ツルリンゴスター:

当初はつばさたちの年齢が高校生なので、読者である未就学児の親御さんが「おいてけぼりになっていないかな?」と心配な部分もありました。

でも連載の反応を見ると、出産したばかりの方もたくさん読んでくださっていて、子どもが生まれた時点で、「自分の子を被害者にも加害者にもしたくない」という思いがきっとあるんだなと思います。

「『NOの翼』を読んで、今から性教育しておいたほうがいいなと思って性教育の本を買いました」と言われて、「性教育は日々の生活の中にある」というメッセージが伝わっているんだなと思いました。


加藤:

最後に、ツルリンゴスターさん自身、この先どのように生きたいといった目標はありますか。

ツルリンゴスター:

私自身、にじいろさんやアクロストンさんなど、性教育やその根底となる人権教育を伝える活動をされている方々に出会ったことで、これまでふんわり感じていた人との付き合い方や、生活の中で感じるモヤモヤについて「こういうところで尊厳が守られていないんだな」と、より解像度高く理解できるようになりました。

人権教育を学ぶことで、言語化できることが増えてくると、子どもにも伝えられるし、夫や友達とも話せることが増える。

誰かと話して、そこで相手の考え方も聞いて、どんどん視界が広がって、同時に自分の生き方の軸もしっかりしたものになっていくように感じます。

だから、自分がどうなりたいというより、今目の前にいる人たちを大切にしていきたいです。

実生活で地続きで出会っている人たちがどんなことを考えているか、それをちゃんと汲み取れる人になっていきたいですね。

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Profile

ツルリンゴスター

ツルリンゴスター

マンガ・イラストレーター。長男出産後、SNSで何気ない日常のふとした出来事や気持ちを漫画やイラストで綴る。著書に『いってらっしゃいのその後で』『君の心に火がついて』(KADOKAWA)がある。挿絵やイラスト・マンガを執筆。関西在住。3人の子どもと夫、猫1匹、とかげ1匹と暮らす。
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2023.09.29

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