発達障がいと愛情不足の違いを“こどもの愛着障がい”の第一人者・米澤好史氏が解説

発達障がいと愛情不足の違いを“こどもの愛着障がい”の第一人者・米澤好史氏が解説

KIDSNA STYLE編集部が選ぶ、子育てや教育に関する話題の最新書籍。今回は、『発達障害? グレーゾーン? こどもへの接し方に悩んだら読む本』(フォレスト出版)をご紹介します。臨床発達心理学・実践教育心理学を専門とし、“こどもの愛着障がい”の第一人者である米澤好史氏が、こどもの行動の原因と、困ったを減らす接し方、愛情を伝える接し方をわかりやすく解説する一冊から、前編では、愛着の問題と間違われやすい発達障がいとの違いについて抜粋してご紹介します。

この本の発見ポイント
 

こどもの困った行動は本当に発達障がい?

私は、臨床発達心理学・実践教育心理学を専門とし、 とくに「愛着の問題」を抱えるこどもたちの発達支援を行っています。 連日、保育園や幼稚園、小中高や支援学校、医療福祉施設など子育ての現場に足を 運び、何千、何万というこどもたちを直接見てきました。

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このようなこどもたちの行動は、一見すると発達障がいをもつこどもの行動ととてもよく似ています。でも、実は愛着の問題を抱えるこどもたちの典型的な姿なのです。

しかし、愛着の問題は専門家のあいだでもまだ共有しきれていないため、誤って発達障がいと診断されたり、グレーゾーンと見なされるケースも少なくありません。

本当は愛着の問題なのに、発達障がいの投薬や支援をつづけているためにまったく効果が出ない、改善しないという事例を、これまでたくさん見てきました。

耳をふさぐ男の子
※写真はイメージ(iStock.cm/Jatuporn Tansirimas)

何でもすぐに発達障がいのせいと考えてしまうのは、間違いなのです。そこでまずひとつ、知っておいていただきたいことがあります。 それは、“こどもたちの困った行動には、必ず原因と理由がある"ということ。

そしてその原因を探るためのカギとなるのが、「愛着の問題」という視点です。

行動、認知、感情?こどもの文脈を理解するための3つの特徴

発達障がいの特徴があるこどもと、「愛着の問題」を抱えるこどもの困った行動は、とてもよく似ています。そのため見分けが難しく、専門家でも誤った判断をすることが あるほどです。

けれども、〈行動〉と〈認知(五感)〉と〈感情(気持ち)〉の3つの分類を意識してこどもの行動を観察していくと、その子にどのような“特徴”があるかが、クリアになります。その子にとって、3つのこころの働きのうち、どれが「問題」となっているのかが見えてくるのです。

もちろん、すぐにこれと決めつける必要はありませんが、それまで訳がわからないように思えた行動にも、ちゃんと理由があることに気づけるはずです。3つの分類について、もう少し掘り下げてお話ししてみましょう。

愛着の問題を抱えるこどもとよく似た行動をするために混同されやすい発達障がいには、ADHA(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)がありますが、3つのこころの働きとの関係は、つぎのようになります。

感情や感覚とは無関係に、行動そのものの問題としてあらわれるのがADHD。 目で見たり聞いたりさわったりと、五感でキャッチした認知情報を独自の解釈でとらえてしまうのがASD。

そして、感情や気持ちをコントロールできないために困った行動を引き起こしてしまうのが、愛着の問題です。

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もちろんすべてが程度の問題ですから、3つが合わさっている子たちがたくさんいます。ですが、それでもお子さんの行動の“特徴”がわかると、「そうか、そういうことだったのか」と腑に落ちることがたくさんあると思います。

同じような困った行動でも、その行動の背景をじっくり見てあげると、その子によって違う原因が見つかります。まわりをよく見て、「本当は何をしようとしていたのか」という文脈をくみ取ることがとても重要なのです。

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※写真はイメージ(iStock.cm/fizkes)

日々かかわっている大人にとって、この見極めは本来さほど難しいことではないはずなのですが、余裕がないと、文脈を見落としてしまうことがあります。 こどもを理解するためには、私たち大人のこころの余裕が必要です。

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発達障がいと愛着の問題の見分け方

発達障がいの特徴をもつ子と愛着の問題を抱える子の行動はとてもよく似ていますが、 先ほどお話しした〈行動〉〈認知〉〈感情〉という3つのこころの働きを意識すると、その違いが見えてきます。

わが子のこととなると、客観的に観察して判断するのは簡単ではないかもしれません。それでも、それぞれの特徴の違いを知っておくと、むやみに心配する必要はなくなります。

こどもたちの“特徴”を見分ける際にチェックするといいポイントを表にまとめましたので、日常生活のなかでお子さんがどんな反応をしているか、観察してみてください。お子さんの特徴がわかってくると、気になる行動の見え方もまた、変わってくると思います。

【ADHD】行動のコントロールが苦手

ADHDは、行動の問題として「多動」「衝動性」という特徴があります。自分で自分の行動をコントロールするのが苦手なんですね。

たとえば、よく「片づけができない」と言われますが、なぜ片づけが苦手なのでしょうか。

片づけというのは、一見とても単純な作業に思えますが、実際にはいくつもの工程を連続して行う必要があります。散らかっているおもちゃをひとまとめにして、つぎ に箱に入れて、つぎに戸棚へもっていって……という具合に、異なる作業を順番にこ なしていく必要があるわけです。

ADHDの特徴をもつ子たちは、こうした一連の作業を完結させるのが得意ではありません。これをやってあれをやったら、つぎに別のことをしてしまう。最後までの手順をやりとげる実行機能がうまく働かないのです。

わざとそうしているわけではなく、「注意がひとつのことに集中しない」というADHD特有の脳の行動特性ですから、仕方がありません。

みんなで鬼ごっこをしていたはずなのに、ふと目に入った砂場へ行って遊びはじめてしまう、というような衝動性も特徴です。

いずれも行動そのものの問題であって意図的ではありませんから、厳しく叱ったり問い詰めたりしてなおるものではありません。ですが、まじめな大人ほど間違った対応をしがちです。

残念ながら、そうした場面で叱られてしまったがゆえに、自己評価を下げて苦しむ子たちも少なくありません。

【ASD】独自のこだわりを持つ

発達障がいのなかでも、ASDは対人関係などのコミュニケーションが苦手で、独自のこだわりをもつのが特徴と言われますが、その根っこにあるのはいつでも〈認知〉 の問題です。

認知とは、「目で見て」「耳で聞いて」「触れて」「嗅いで」「味わって」という五感を使って気づくこころの働きのこと。この五感からの情報のとらえ方に独自のこだわりがあるのがASDだと考えると、わかりやすいかもしれません。

たとえば、同じ場所に立っていても、あなたがとらえている世界と、私がとらえている世界は違います。「相手にはこう見えているのかもしれないな」と想像し、自分の見え方(=認知)と突き合わせてその違いを認識するわけですが、自分の認知以外を理解するのが苦手なのが、ASDのこどもたちです。

そのために「空気が読めない」「相手の気持ちをくみ取ることができない」という印象を人に与えます。

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※写真はイメージ(iStock.cm/KatarzynaBialasiewicz)

相手に伝わる言い方が想像できず言葉足らずになりがちなため、友だちと一緒に遊ぶのが難しく、結局ひとり自分の世界で過ごしてしまう傾向があります。結果的に、自分がとらえている世界がいちばん心地いいので、「居心地がいいな」と思える環境では、優れた能力を発揮するこどもたちがたくさんいます。

ただ、ネガティブな言い方をすると、「いつもそこにしかいられない」わけですから、それがときに「こだわり」として行動の問題を引き起こします。同じことを何度も繰り返す常同行動も、行動の問題に見えますが、本人のなかで問題になっているのは〈認知〉です。

そして認知はもちろん一人ひとり違いますから、あるものには非常に過敏に反応するけれど、他に対してはぜんぜん平気という具合に、その基準が“その子だけのものである”のも特徴です。

とはいえ、自閉症は「スペクトラム」障がいですから、ここからここまでが自閉症で、こちら側は違いますというような境界線があるわけではありません。すべての人がみ んな自閉の特徴をもっていて、程度の差であるという理解が大切です。

その程度の深さによって、本人にも生きづらさがありますし、また周囲には「気になる行動」として映ります。

【愛着の問題】感情が未発達・未学習

このように発達障がいのうち、ADHDのこどもたちは実行機能としての〈行動〉の問題があり、ASDのこどもたちは五感によるとらえ方の特異性 ―つまり〈認知〉の問題があります。

ですから困った行動の背景にも、よく観察すると、この〈行動〉か〈認知〉の問題が見えてきます。それに対して、愛着の問題を抱えるこどもたちは、根底に必ず〈感情〉の問題があります。

より厳密に言うと「感情が未発達・未学習」であるがゆえの問題で、自分で自分の感情がわからないために混乱してしまい、結果的に行動の問題としてあらわれます。

そしてもうひとつ、発達障がいの特性と愛着の問題の大きな違いは、生まれつき持ち合わせた特徴か否かの違いです。ADHDにしてもASDにしても、発達がいはもって生まれた脳の機能の特性ですから、その子の先天的な“特徴”です。

それに対して愛着の問題は、成長の過程で愛着という絆をうまく結べなかったことによる後天的な「関係性」の問題です。つまり、あとからいくらでも修復可能だとい うことです。

この違いも、発達障がいの特徴をもつこどもと愛着の問題を抱えるこどものタイプを見分けるための大切な視点になります。

後編では、愛着の結び方と愛着が結べていない場合に起こりやすい特徴を抜粋してご紹介します。

▼▽▼後編はこちら▼▽▼

愛着障がいの専門家が教える!愛着形成に必要な3つの基地のつくり方

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