【ノルウェーの教育】子どもの権利と平等を守るかかわり

【ノルウェーの教育】子どもの権利と平等を守るかかわり

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、ノルウェー語の翻訳者として活躍している佐脇千晴さんに話を聞きました。

平等リテラシーを育むノルウェーの教育

国連開発計画(UNDP)が発表した2018年の人間開発指数(HDI)で、189の国と地域のうち、健康、教育、所得面の達成度を測るスコアが最も高かったのが、北欧4カ国のひとつ、ノルウェー。

人間開発におけるこれらの進展が目覚ましいとともに、今年2020年は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)によるジェンダー・ギャップ指数の調査で2位という結果に。男女平等の国としても、注目されています。

日本とノルウェーの公立小中学校に勤務したのち、現在はノルウェー語翻訳家として活躍している佐脇さんは、ノルウェーの教育においても、“平等であること”が重要視されていると話します。

「ノルウェーに暮らす人々には、男女の違いにより生じる格差の他にも、国籍や人種、障がいの有無もひとつの個性であるという価値観があります。

1978年施行の男女平等法をはじめ、強い意思を持って制度や意識改革を推し進めながら培ってきたノルウェーの平等精神は、子どものたちのアイデンティティにも大きな影響を与えています」

佐脇千晴ノルウェー語翻訳者。2008年よりノルウェー在住の3児の母。大学卒業後、中学教諭を経てノルウェー国立オスロ大学ノルウェー語コース全課程単位取得、学部単位取得退学。日本語非常勤講師を務める傍らノルウェーのドキュメンタリー映像翻訳や民話や絵本の翻訳に携わる。著書に『3びきのヤギのブルーセ プールでおおさわぎ』(三元社)  『あかちゃんはどうやってつくられるの?』(河出書房新社)などがある。
佐脇千晴/ノルウェー語翻訳者。2008年よりノルウェー在住の3児の母。大学卒業後、中学教諭を経てノルウェー国立オスロ大学ノルウェー語コース全課程単位取得、学部単位取得退学。日本語非常勤講師を務める傍らノルウェーのドキュメンタリー映像翻訳や民話や絵本の翻訳に携わる。著書に『3びきのヤギのブルーセ プールでおおさわぎ』(三元社) 『あかちゃんはどうやってつくられるの?』(河出書房新社)などがある。

価値観を押し付けない教師の関わり

「ノルウェーの学校では、叱るよりも褒めて伸ばす文化。子どもを厳しく叱りつけたり、『子どもはこうあるべき』というように価値観を押しつける接し方はしません。

子どもに対して男の子だから、女の子だからと強要しないジェンダーレスな教育も、日本との大きな違いではないでしょうか。

※写真はイメージです(iStock.com/FamVeld)
※写真はイメージです(iStock.com/FamVeld)

たとえば、男の子が編み物や人形遊びに夢中になっても尊重しますし、学校にワンピースを着てきたりネイルをしてきたりしても見守ります。反対に女の子が、ミリタリーやスーパーヒーローが好きでもそれを尊重します」


差別の抑止と平等を守る独立機関“オンブッド”

今では男女平等先進国として注目されているノルウェーも、昔は男性優位の社会だったと佐脇さん。

1910年の女性の選挙権の付与を皮切りに、女性の国政選挙権が付与され、1978年に男女平等法が成立。

3年後の1981年には、女性の初首相であるグロ・ハーレム・ブルントラント首相と共に4割以上の閣僚が女性というブルントラント内閣が誕生するなど、女性の社会進出が飛躍的に進みました。

男女平等法では、差別の抑止と平等を促進する独立機関、「オンブッド」が設立されます。

オンブッドは、政府や行政の干渉を受けない第三者機関で、性別、民族性、宗教、障害、性的指向、性同一性、性別表現および年齢に基づく差別と戦う組織。

「学校では、『子どもオンブッド』という団体が、子どもの人権が尊重されるように、情報提供や無料のカウンセリング、学校や教師への指導などを行なっています。

世界各地に設置されている“子どもオンブッド”と“男女平等オンブッド”は、実はノルウェー発祥なんですよ。

オスロ大学(iStock.com/dem10)
オスロ大学(iStock.com/dem10)

さらに、ノルウェーの教育費は、公立であれば、小学校から大学院まで“無償”。ノルウェー人に限らず、外国籍であっても、3カ月以上滞在する場合には無料で教育を受けることができます。

このように、学びたいと思う人に対して、国や市町村がとことん援助をする。貧富の差に関係なく、学ぶチャンスが平等にあるということも大事なポイントです」

ひとりひとりの考えや選択が尊重される学習システム

ノルウェーに暮らす人々は、公用語であるノルウェー語だけでなく、英語圏外の国では英語力がトップクラスであることでも知られています。

日常生活では本や映画、テレビ番組などを英語で読んだり聴いたりしているだけでなく、子どもたちはノルウェー語もままならない小学校1年生から英語教育がスタートします。学校の授業ではプレゼンや討論を英語で行うこともあり、子どもたちの英語能力が高いのも大きな特徴です。

「とはいえ、“テストの点数=成績”ということではなく、小学校には成績表が存在しません。中学校に入って初めて成績通知がスタートしますが、内容は日本に比べると簡易的です。

※写真はイメージです(iStock.com/dolgachov)
※写真はイメージです(iStock.com/dolgachov)

学校教育で重視されているのは、子どもが自分の意見をどれだけ伝えられるかということ。教師と生徒は対等な関係を築いているため、生徒が教師にはっきりと意見するところは北欧ならではだと感じていますし、そういったところが評価の大きな指標となっています。

先生たちは子どもの自由な発想を尊重するため、丸暗記させる授業ではなく、考えさせ、自由に発言させることに力を入れています。考え方の押し付けがないので、たとえば子どもたちの描く太陽の色は赤だけではなく、黄、白、ピンク、紫であったりするんです。

小学校の授業はだいたい教科書やワークブックに添って進んでいきますが、個人で行うよりも圧倒的に自由に意見を言い合う授業やペアワーク、グループワークで 互いの意見を交換し合うような授業スタイルが多いですね。

また、ノルウェーには受験がありません。高校進学では中学の成績が、大学進学では高校の成績が重視されます。

高校卒業後はすぐに進学や就職をせず、1年間自分が好きなことに没頭する子もいれば、バックパックで世界を回るなど思いっきり自由に過ごす期間を設ける子も珍しくありません。

※写真はイメージです(iStock.com/martin-dm)
※写真はイメージです(iStock.com/martin-dm)

その後、そのまま就職をする子もいますが、次の年から必死に勉強して進学する子も。日本の場合、子どもがそういうことを言い出せば、親にも教師にも反対されかねないのではないでしょうか。

ノルウェーでは、子ども一人ひとりの選択が尊重され、個人に委ねられている。だからこそ、自由な発想や“相手を尊重する”という心が育まれていくのです」


<取材・執筆>KIDSNA編集部

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2020年06月12日

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