ベンチャーCEOママ~仕事と子育てを融合させ相乗効果を生み出す

ベンチャーCEOママ~仕事と子育てを融合させ相乗効果を生み出す

世の中の多種多様な職業のママ、パパたちに、働き方と子育ての両立や価値観について聞いていく本連載。記念すべき第1回は、1歳児を育てながら自らが立ち上げたベンチャー企業のCEOとしての働くママに聞きました。

01

会社起業と育児は両立できる?

大手広告代理店のストラテジスト職から、27歳で学生時代からの目標だった食と農業に関わる事業で起業したNさん。

妊娠・出産するにも、育児をするにも、なぜ起業という一見さらに大変な道を選んだのでしょうか。

「子どもがいるのに好きなことを仕事にするなんて難しそう」

「起業なんてしたら家事や育児を犠牲にしなければならないのでは?」

このように思う保護者も多いのではないでしょうか。

しかし、Nさんはこうした不安を打ち破り、自分の好きなことを仕事にし、起業することでむしろ仕事も育児も諦めないスタイルを実現しています。そこには、「自分にしかできない仕事を作り出したい」、そして「子育ても諦めたくない」という強い思いがありました。

今回は、Nさんのお話から見えてきたストラテジスト(=戦略家)ならではの仕事と子育てに対するビジョンと、「仕事とプライベートをあえて分断しない」という、ミレニアル世代ならではの考え方をご紹介します。

子どもを産むことを見越して27歳で起業

――まず、独身時代を含むこれまでの職歴を教えてください。

総合広告代理店を経て、スタートアップに転職。その後、食と暮らしをブランディングする会社を起業し、現在代表取締役です。

ブランドストラテジストとは、会社、商品、個人など、個々が持つ「個性」を魅力として最大限活かし、さまざまなブランドが掲げるビジョンを達成する方法を考え、実行を支援する職業です。

起業した現在の会社では、一次産業領域を中心とした、ブランディング支援をおこなっています。

具体的には、リサーチから戦略立案、コピーライティング、デザインディレクション、マーケティング、オウンドメディア運営など多岐に渡ります。

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娘に出張につきそってもらい新幹線で富山へ。

ーー起業されたきっかけは何だったのでしょうか。

幼い頃から「これからの時代は女性も仕事をしていくべき」という母の言葉の影響で、「仕事と家庭の両立」はつねに頭の片隅にありました。

大学3年の就職活動でその後入社することになる広告代理店のインターンに参加し、働くということはその先の誰かに影響し、社会を創ることだと気が付き、そこから「自分が作りたい社会」と「自分に何ができるのか」を考え続けました。

学生時代はフードロスに興味があり、学生と農家をつなぐさまざまな取り組みをしていたんです。農業と畑の魅力を社会の価値に転換していくことが、自分にしかできない仕事だと考えるようになりました。

会社員時代はいわばそのための武者修行期間です。「子どもが生まれるまでに力をつける」と最初から決めて、5年はがむしゃらに働きました。

子育ても、やりたい仕事も妥協せず続けたかったので27歳で退職し、自分が求めるスタイルで働ける環境を自分で作りたいと思い起業しました。

03
生後2カ月から隣で働くの図。

ーー起業することで一時的に収入が減る可能性もあったと思いますが、その点については夫婦で話し合いなどされましたか?

起業する前に、一社スタートアップを挟んでいますが、そのときは広告代理店のときと同じくらいの年収で入社しました。

そこでビジョンを共感しあえる仲間にも出会い、改めて、起業して自分にしかできない仕事をしていこうと決意したのです。

起業の際、夫には給与がしばらく下がることを伝え、ずっと低いつもりはないこと、借金はしないこと、自分で自立して生きていける分は自分で稼いでいくことを話し、夫もスモールスタートならばと了承してくれました。

ーーお子さんを育てながら仕事を再開した当初、どのような不安や困りごとがありましたか?

産褥期が終わったころから在宅育児の傍ら徐々に仕事を再開させたのですが、どのくらい働けるのか未知数の中で始めたので、仕事の量の調整には常に気を張っていました。

仕事の新たなアイデアは子育て時間に生まれる

ーー1日のタイムスケジュールを教えてください。

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平日のNさんの1日

ーーお子さんが生まれる前と現在での働き方の違いを教えてください。

働き方は子どもが生まれてからの方が圧倒的に良くなったと感じています。

もちろん融通がきかないこともありますが、生まれる前までは、頼まれたことは基本なんでもやるというスタイルで、時間的にも際限なく働いてしまっていたところがありました。

現在は時間的制約があるので、やることやらないことを選別する力がつきました。自分が必要なところに注力する発想が身につき、断れる人間になったと思います。

もうひとつ良い変化としては、授乳中や公園散歩、家事など、ぼーっとする時間ができたこと。意外とこの時間にいいアイデアやキーワードが生まれて、分刻みで仕事をしていた頃よりも仕事の質が上がっているように思います。

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自宅での撮影仕事も一緒に。

ーー子育てをするうえでの現在の働き方のメリットはどんな点だと思いますか?

自営業で、私と働きたいと思ってくれる理解のある関係性の方と働いているため、融通がきくこと。

仕事と子育ての垣根をなくし、仕事をしながら育児、育児をしながら仕事をすることができています。自分にしかできない仕事と子育てを両立できるロールモデルは、世の中にまだまだ少ないですが、なければ自分自身で切り開いていきたいなと思っています。

仕事柄、日本各地への出張もあるのですが、たとえば、遠方への出張が入った場合、会社員だったら「子どもを連れて行く」という選択肢は難しいでしょうし、そのために出張できず、やりたい仕事を諦めることになるかもしれません。

私の場合、昨年、仕事で娘を連れて九州の養豚場に出張することがあり、夫も現地からリモートワークをしました。

打ち合わせにはオンラインなら娘も画面に写したり、現場に連れて行くことでアイスブレイクをしてもらっています。

そして、食の領域でお仕事をしているからこそ、食に関心の高い母としての当事者感覚も仕事に生かせるところがメリットだと感じています。

デメリットをあげるとすれば、会社員の方よりも、行政的な補助は少ないところですかね。

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仕事先の養豚場にて。豚の赤ちゃんとご対面。

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子どもの誕生が夫婦ともにキャリアチェンジのきっかけに

ーーお子さんが生まれて、パートナーとお互いの働き方について話し合うことはありますか?また、お互いの働き方に賛同、応援していますか。

授乳など、母だからこそできる育児もあるのでその分私が娘と過ごす時間は多めでしたが、基本的には2人で育児、家事をするというスタンスは共有していました。

コロナ禍というのもあり、共に在宅ワークとなったことは夫の家事参加を促進してくれ、その意味では助かったと感じています。

ーー夫婦での家事や育児の分担についてのルールはありますか?

夫が料理、私が洗濯物をたたむのが好きなため、なんとなくそれは決まっています。それ以外のことはとくに決めず、どちらかが適宜やる感じでやっていますが、「どちらかに偏っている」と不満が出た場合は、その都度話し合いをしてバランスを取ってきました。

ルールという風に決めてはいませんが、何かやったら「〇〇やったよ!」と報告し、もう片方は「ありがとう!」と言うことが習慣とモチベーションになっています。現状のスタイルに不満は特にないですね。

ーーお子さんが生まれたことで、妻や夫、それぞれがキャリアチェンジを考えたことはありますか。

私は子どもが妊娠前から出産に備えて起業しています。夫はまさに、“娘の生きる未来をよくする”という私の強いマインドに影響され、転職を検討し始めています。

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「農家直送野菜の定期便サービスを利用。「常に新鮮な野菜が届いている状態にしており、買い物負担を減らしています」

仕事と育児の境界線をなくしたからこそ母親目線を生かす

ーー疲れた時やストレスフルなときの自分との向き合い方を教えてください。

思い切って仕事から離れること。日記に気持ちを書き、俯瞰して冷静になります。

ーー子育てと仕事、家事をするうえで培った「私の持論」を教えてください。

子育てと仕事に境界線を設けず、なるべくくっつけること。たとえば、仕事の相手もママの場合は、子育てネタをアイスブレイクに話したり、娘の話題で場を和ませます。

また、娘に食べさせたいものを提供している農家さんやサービスを応援するなど、家事の時間に考える、子育てする母親マインドを仕事に生かすなど、それぞれを区切らずにどんどんくっつけていくことで心地よく働くことはできる!むしろ働きやすくなります。

編集後記

「好きを仕事にして起業する」「育児も仕事も諦めない」、そんなことができるのは限られたごく一部の人だけ、と多くの人は思うかもしれません。

育児と仕事でいっぱいになっているとき、そんなキラキラとした話は夢物語のように感じてしまうこともあるでしょう。

しかし、「今ある枠組みの中で実現できないなら新しい仕組みを自分で作る」方法をNさんはあみだし、実現しました。

仕事と育児をオン、オフと明確に切り分けず、あえて融合させていくことで、どちらにも相乗効果をもたらすという働き方は、これからの時代のスタンダードな働き方のひとつとなっていくでしょう。

そして、女性の起業は仕事だけでなく子育ても含め、自分らしい生き方をするための手段のひとつといえるかもしれません。

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部


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2021年04月05日


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