【泉房穂×てぃ先生②】育児中でも働きたいってワガママですか?

【泉房穂×てぃ先生②】育児中でも働きたいってワガママですか?

「異次元の少子化対策」が本格的なスタートを切る2024年。「支援策が的外れ」といった不満も聞かれる中、これからの日本の子育てはどうなる?現役保育士・てぃ先生、兵庫県明石市の前市長・泉房穂さん、そしてKIDSNAアンバサダーに、日本社会で子どもを育てることについて語っていただいた。全3回中2回目は、育児中の女性が抱きがちな自己否定感の原因を探る。

【泉房穂×てぃ先生①】「子どもは荷物じゃないし保育園はコインロッカーじゃない」

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ママもマンモスを狩る時代

加藤:次のテーマは、日本の子育ての現状と未来です。子どもや子育て世帯をめぐる状況は改善されつつあるにもかかわらず、主に女性の「子育てが辛い」という声がすぐになくなるとは思えません。

読者の方への事前アンケートでもこんな結果が出ています。

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加藤:金銭的な補助以外にも、育児中の女性が自己否定感を抱かなくて済むような社会の意識変容の必要を感じます。それは、社会全体が子どもに寛容になることが一つだと思うのですが、そこで泉さんが明石市を「子どもにやさしい街」に変えていったお話を伺いたいです。

:私が市長になる12年前、明石市も子どもに冷たい街でした。親御さんがベビーカーを押していたり子どもが泣いていたりすると、みんな冷たい目で見ていましたから。それが今ではみんなが泣いてる子どもを見て「元気な子やね〜」「子どもは泣くもんやからね〜」と言うようになった。このあたりは、大きな変化と違いますか。

加藤:変化の過程にはどんなことがありましたか?

:子どもが居ていい、泣いていい場所を作ったことが一つだと思います。市長になってすぐに、図書館を明石駅前に移設したんです。面積を4倍、蔵書数2倍にして、コンセプトを「うちの図書館はうるさいです」としました。子どもは泣くものだから、文句をつける人はほかの図書館に行ってもらって結構です、という意味ですね。

泉房穂さん
 

:だから、あえて入り口でミニコンサートを開いたりして、ここは音が鳴る図書館だとわかってもらうように工夫しました。子どもの泣き声はオーケストラだと思ってもらえたらいいですって言ってたら、これが意外と好評で(笑)。

子どもが泣いたらダメって図書館だと、絵本を読みに行くのもしんどいですやん。だって、たまには泣きますがな。それをみんながほほえましく見る街の方がいいなと思って。

加藤:うらやましいお話です。東京だと今も、朝の通勤ラッシュの時間にベビーカーとか泣いてる子どもがいると空気が悪くなりますから。

:一度も泣かずに大人になった人なんていないのにな(笑)。みんな忘れちゃうんやねぇ。

てぃ先生:「子どもの声がうるさいから公園をなくせ」ってクレームもありましたよね。※2023年4月長野市で、近隣の住民1世帯からの子どもの遊び声に対する苦情をきっかけに、住宅地の公園が廃止となった。

加藤:てぃ先生は、子育て中の女性が追い込まれる原因をどう考えますか?

てぃ先生:もちろん色んな原因があると思いますが、僕は最近マンモス理論という話をよくしています。

加藤:どんな理論ですか?

てぃ先生:マンモスは昔々にいたとされていますが、当時人間は洞窟とか岩陰に住んでいたと言われています。それで人間はどうしていたかというと、男性の方が体格的に強いから、パパが家の外に出てマンモスと戦って、ママは家の中で子どもを見るという役割分担をしていたと。

てぃ先生
 

てぃ先生:だけど最近の日本は、ママもマンモスを狩りに行くようになった。ママが狩りに行きたいから行くならいいけど、狩りに行かないと幸せに暮らせないから、ママの意向にかかわらず、行かざるを得ない。

だから子どもを別の人に預けて、ママも狩りに行く。しかも、パパとママが狩ったマンモスの半分くらいは税金という名で徴収される。子どもを預けていた人にも謝礼を払うから、自分のところにはほとんど残らない。こういうことが、子育てが辛くなる一つの理由だと思っています。

加藤:なるほど、わかりやすいですね。

てぃ先生:狩りに行きたいママはいいんですよ。でも、みんながみんなそうじゃないと思う。マンモスじゃないものを狩りたい人もいるはずなのに、そうせざるを得ないから頑張って、結果ボロボロになる。それは不幸ですよね。

:そこは政治にかかわった者として、自らも含めて反省すべき点です。やっぱり余裕がないんですよ。子どもに対して使うお金も時間も限られている。

世界でも珍しいけど、日本は30年間経済成長せず、給料は上がっていないにもかかわらず、税金も保険料も上がっている。おまけに物価まで上がったらもうカツカツで、使える金なんてないわけですよ。

女性が子どもを膝に乗せながらタブレットと電卓で作業している
※写真はイメージ(iStock.com/Yue_)

:そこで明石市では負担を下げました。市では給料を上げることも、税金や保険料を下げることもできないから、その代わりに負担をなくそうと。具体的には5つの無償化です。※①子ども医療費(現在は高校3年まで)②おむつ(満1歳まで)③第2子以降の保育料④中学校の給食費 ⑤公共施設4カ所の入場料

でも無償化って言ったって、すでにみなさんからもらってる税金でまかなってるだけですから。二重にいただかないというだけの話です。バラまきではなくて、お金と気持ちに余裕を持ってもらう発想ですよね。……政治家っぽかったですか?

加藤:はい(笑)。

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男性育休を邪魔するのは「みんなの目」

加藤:現役ママにも話を伺いましょう。現在は休職中ですか?

まなか:いえ、今も仕事を続けてます。私は航空業界にいますが、同じ部署に100人以上女性がいても、結婚・出産しているのは数人だけです。実際に結婚・出産を経験した女性が隣にいて、毎日働いて帰って育児して寝る時間もない、みたいな苦しい状況を見ていたら、自分も結婚して出産しようとはなかなか思えないはずで……。そういう状況を政府の人たちは分かってないんだろうなと思います。

まなかさん
 

:政府も、会社の経営者層も、びっくりするくらい男性一色じゃないですか。子育てにリアリティがない方々ばかりだから、環境整備に対して意識が及ばない。子育てにリアリティを持った方がリーダーをやるか、そうでなければそういう方たちの声を受けて環境整備していかないと、と思いますね。

男性育休なんかも、日本には制度自体はあるんですよ。でも、みんなの目が気になって使われへん。そこが問題ですよ。

加藤:明石市では男性も育休を最低一週間は取得するそうですね。

:そうですね。まず明石市でやれないで民間の企業にお願いも出来ないだろうと思って。男女問わずお子さんが生まれたという連絡を頂いたら、その瞬間にチームを組んでもらって、100%育休を取る前提で動くと。

その間のお給料を満額保証するだけじゃなくて、育休取ったら育児応援グッズもプレゼントすると。そうやって実際に100%取得してもらってます。たかが一週間とは言え、まずは「取らない文化から取る文化」に、という形ですかね。

座談会の様子
 

てぃ先生:明石市に限らず国全体の話ですが、もう少し長くパパが育休を取れる環境が整ってきたら、今度は期間を指定できたらもっとよくなると思います。

ママたちの話を聞いていると、退院後すぐももちろん大変だけど、その後ももっと大変だと。だから、もし一年育休が取れるとして、1~2歳、あるいは2~3歳の時に休んでくれた方が助かるってママも多いと思うんです。

今まさに0歳児を育てている人たちは「いや、何言ってるの。今大変なんですけど!」と思うかもしれないけど、0~1歳の間にパパたちができることって実はあんまりないんじゃないかって。だから、パパもお世話できるような年齢になってからの方が、力を有効に使いやすいはずで、そこはフレキシブルになった方がいいなと思います。

加藤:兄弟構成やおうちの環境によっても、大変な時期は変わってきますしね。

「結局、専業主婦がいちばん合理的」なのか?

加藤:子育てしながら働くことについて、まなかさんから事前に頂いたご意見を紹介します。

「もしかしたら、専業主婦は最も合理的で最も多くの人間が幸せになれる制度だったのではないか」「母親が働くことは自己満足でしかなく、社会にはメリットがないのでは」と考えてしまうことがあると。詳しく聞かせてください。

まなか:さっきのてぃ先生の話で言えば、私はマンモスを狩りに行きたい女なんです。子どもが生まれる前から夫婦二人で働いていて、家事分担もしています。ただ、今子どもを二人育てるようになって、長時間子どもを預けて自分が働くって本当にいいのかなと思うようになって……。

KIDSNA アンバサダーのお二人
 

まなか:この状況だと、子どもにも、夫にも、夫の親にも負担がかかる。それでも働きたいと言ってる私はただのわがままなんじゃないかと思ってしまう。だから、世の中の仕組みとしては専業主婦は合理的で、社会の多くの人がそれで幸せになれるなら、私もそうしたほうがいいんじゃないかって……。

加藤:なるほど……。泉さん、いかがでしょう。

:僕は選択肢が色々あるのがいいという立場です。共働きにしないといけないわけではないし、専業主婦じゃないといけないわけでもない。共働きにしても、ご商売を夫婦で一緒にやる場合もあります。色んな働き方があるわけであって、大切なのは自ら選んでる時間なのか、せざるを得ない時間なのか、ですよね。

マンモスを狩るのが好きな方は性別問わずいらっしゃいますから、行きたい方が行くのがいい。「私は子どもと一緒に居たい」と思うなら、そういう時間を長くすればいいですよね。それぞれの方が望む選択肢が保証される環境をどう作るかやと思いますね。

まなか:自分で選択できるというのは、その通りですね。あと、てぃ先生にお伺いしたいのですが、子どもと母親が長時間離れるのはやっぱりよくないことですか?

てぃ先生:ははは(笑)。よくなくなくない! 別にいいと思います。もちろんお子さんにとってパパやママは唯一無二の存在です。二人からしか感じられない愛情もあると思う。だけど、だからといって他の大人と長時間居たらダメかっていうと、そうじゃない。

極端な例ですが、自分のことを愛してくれないパパママよりも、自分のことを精一杯愛してくれる別の大人といる方が幸せかもしれない。つまり、その子にとって信頼できる大事な人がいるのであれば、必ずしもママやパパとずっと一緒じゃなくてもいいと思う。

座談会の様子
 

てぃ先生:ここにいるみなさんは、子どもを放っておいている訳ではないと思います。そういう中でどうしても子どもと離れる場面が生まれてるというだけ。だからそれはぜんぜん悪いことじゃないと思います。

さらに言えば、これからは家の中でパパママがやることを減らしてあげるのも保育園の役割の一つになるのかなと思っていて。仕事に家事に育児に、大変すぎるじゃないですか。ワンオペの場合は特に辛い。

なので、何でも「家庭でやってください」「保育園と二人三脚で」ではなく、ある程度のこと、例えばお箸のこととかできるようになってほしい身の回りのことを保育園で可能な範囲はやってあげて、おうちではとにかくお子さんのことを愛でてください、おうちでやることはそれだけ大丈夫ですって。ここまでしないと、親御さんたちは結構限界来てると思います。

:……ええ話や!!

てぃ先生:現状では無理だけど、そこまで保育園でできるようになったら、お母さんの我慢や自己否定感を解消できる気がします。

:子どもと接する時の密度も関係ありますよね。長時間一緒に居ても子どものほうを向いていないとしたら、時間は限られていても子どもとちゃんと向き合っている方がいいですから。そのためにも、保育士さんが余裕を持てる体制を整えないとね。大きなテーマですよ。

加藤:てぃ先生のおっしゃることが実現したら、今よりもみんなが幸せになれるイメージが湧きます。

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