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仕事と家事・育児の両立が「つらい」ときの思考【藤本美貴×精神科医 藤野智哉】
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気づかないうちに身もこころもすり減ってしまう方が昨今増えているといいます。「KIDSNA TALK」第7弾では、タレントで3人のお子さんのママでもある藤本美貴さんと精神科医の藤野智哉先生にメンタルヘルスや自身との向き合い方について対談。第2回では、さまざまな不安やプレッシャー(圧)で「つらさ」を感じるときの考え方についてお話いただきました。
自分が気付かない「心とからだの消耗」
加藤
藤野先生
僕は、メンタルの「強い・弱い」の言葉そのものは曖昧であり、同じ物事に対して、「いかに受け流すか」の技術を持っているかどうかだと思うのです。
ただ、そういう技術云々とは別に、ずっと進んできて自分が削れていることに気付かない人もいます。
だから、突然のように見えるけれども実は徐々に消耗し、最後の一押しで気付くのだと思います。
藤本 美貴さん
自分でも気付いていないというのが一番辛いですね。
周りも何もしてあげられないし、「誰かに話してみよう」ということも自分が気付いていないと言えないですものね。
藤野先生
そうですね。だからこそ「私は平気です」って言ってた人が、ぽきっと折れてしまい、職場に来なくなったという話を聞きますが、本当に突然だったのか。もしかしたら少しずつ兆候はあったものの、気付かれないようにがんばっていた可能性があります。
すり減らないための「無の日」「何もしない日」
加藤
藤本さんもそんなネガティブな感情を持つことはありますか。
藤本 美貴さん
あります。でも、私は比較的少ないと思います。
プレッシャーは芸能界のお仕事をしているとあるかもしれませんが、私はそれをエネルギーに変えてがんばれるタイプです。
加藤
すばらしいです。YouTubeを拝見し、とてもポジティブな方だと思いました。
ただ、アイドル全盛期のときは多忙だったと思います。すり減る気持ちなどはどうでしたか。
藤本 美貴さん
そうですね、確かにすり減るかもしれないけれど、私は体力的に今日も100%出し切って明日100%で生きる。電池は全部なくなったけど「今日もやってやったぜ!」みたいな出し切った感が嫌いではないです。(笑)
加藤
その日その日の達成感と充実感。わかります。
藤本 美貴さん
自分の中のミッションを掲げ実行して「今日、ここまでできた」というゲーム感覚を楽しんでいるのかもしれません。
そして、本当に自分が大変だと思うとき「何もしない日」をつくります。
でも、こんなに疲れているのに、もう1回洗濯機をまわして残りの5パーセントを出し切る。「あぁ、もうダメ!」って倒れこんで寝るのが気持ちよかったりもします。
藤野先生
確かに疲れ切って寝たときは気持ちいいですよね。
もちろん藤本さんは十分な休息もとっているので、大丈夫だと思いますけど、僕としてはつい心配してしまいます。
藤本 美貴さん
私は疲れてもやる日もあるのですが、今日は無理だと思ったらソファに寝転んで何も考えない「無」という日もあるんです。そうやって自分を調節しています。
藤野先生
大事ですね。藤本さんのように「無の日」や「休息のタイミング」というのを作ってあげられない人がいて、そうなってくるとやっぱり息切れをしてしまう。
藤本 美貴さん
そっかあ、がんばりすぎちゃうんですね。
藤野先生
家に帰っても休めない「家が安息の場ではない」という人もいます。そうなるともう休まる場所がないんですね。
特にお子さんが小さいと、夜もまだ起こされたりして休息が十分ではない方がいらっしゃいます。
疲れる前の「休む習慣」と「自分の逃げ道」の確保
加藤
子育て世帯は休息がうまくとれない方が多いと思います。だからこそ、しんどくなってしまったときにはどんなことをするのがいいでしょう。
藤野先生
しんどくなってしまったときは、実はすごく難しいんです。
そういうときはもう「何かをしなくちゃいけない」というふうには思わないでほしいですね。
藤本 美貴さん
何もしなくていいですね。
藤野先生
さきほど藤本さんがおっしゃっていたようにソファに座ってぼーっとしてもいいし、ただただ寝ててもいいんです。
そんなときまで僕たちに「すべき」ことを言われてやるよりも、自分がリラックスできることをした方がいいんです。
むしろ、しんどくならないように普段から「思考のクセ」をつけてリラックスしたり、しんどくなっていないか自分に目を向けてみることが大事です。
藤本 美貴さん
共働きで子育てをしている世代って仕事もあるし、帰宅したら子どものこと、家のこともあったりして、そこですり減って行く人は多いような気がします。
加藤
ほんとにそうですね。
藤本 美貴さん
私は根底に「死ぬことがなければいい」っていう気持ちがあります。
つまり、毎日掃除機をかけなくても死なない。でも、ご飯を食べないと健康でいられないし、寝なくてはいけない。またお風呂にも入らないといけない。
洗濯は1週間洗わなくても子どもの体操服がなくならないように、7枚買ってあって自分のお金で買えるものは備えています。私が精神的・体力的に無理になったときでも1週間何もしなくても子どもが学校に行ける状況です。
そういうふうに、死なないためにやらなきゃいけないポイントを自分で決めています。
藤野先生
言うことがないくらい素晴らしいですね。僕が患者さんにいつも一番言いたいことがそれです。
患者さんはいつも「何もできないんです」っておっしゃるのですが、ご飯も買ってきたにせよ用意して、お子さんを送り出して、仕事して帰ってきたらそれで十分なんです。
そして、藤本さんがおっしゃったとおり、そうじを毎日しなくても大きな影響はでません。最低限必要なこととそうでないことの取捨選択はとても大事です。
藤本 美貴さん
共働きの人は「ちゃんと母親もしたい、しなきゃいけない。」「仕事をしていることで子育てをちゃんとしていないと思われているのでは」といったことを気にされる方がいます。
費用面で余裕があれば、自分への投資と考えてロボット掃除機を買う。忙しくても料理を作りたいという人は、材料を入れたら時間になったら作ってくれる家電を利用する。
そうすることで、ちゃんとやらなきゃいけないと考える家事もやっている気持ちが保てると思うのです。
自分の逃げ道を自分で作ることも大事かなと思います。
加藤
本当にそうですね。仕事もそうですが、捨てるポイントを自分の中にいくつか見つけておく。優先順位が大事ですね。
藤野先生
他人が作った理想像のようなもの、例えば「ご飯は手作りじゃなきゃダメ」というようなことを押し付けてくる方も中にはいます。でも今の時代は昔と違います。
藤本 美貴さん
ほんとですよ、よくできていますよね。
藤野先生
家電も昔とは違います。洗濯機も洗剤も入れてくれるタイプもあります。そうやって自分の負担を減らすものをどんどん増やしていったらいいと思います。
仕事を休めない!そんなときは「他で手を抜く」
加藤
お仕事をされている方は、なかなか仕事を休めないと思います。そういうときはどう考えればいいのでしょう。
藤本 美貴さん
仕事を休んでしまったら職場の立場もなくなったり、お金の問題もでてくると思うので、一番悩ましいですよね。
藤野先生
仕事を休まないですむように最優先にしたいんだったら他で手を抜くことが必要だと思います。お仕事も必ずやらなくてはいけないこととそれ以外は必ずあるはずです。
例えば、みんなが残業をしているから自分だけ早く帰るのは気が引けるから残ってはいないか。
仕事は長期的なものなので、調子が悪い状態で長く続けているよりも休むことでパフォーマンスが違うことがわかっています。
しかもしんどい状態でやっていてもパフォーマンスがあがらないので、会社的にもよくないです。
だからこそ、「ここまではできるけど、これ以上はできない」というラインをひいておく必要があります。
「専業主婦だから当たり前」の呪縛
藤本 美貴さん
逆に、共働きの人は「仕事」が逃げ道になることがありますが、専業主婦の人は「働いていないから完璧にしないといけない」っていうような気持ちがあるようです。
例えば、コロナ禍前でしたが、「子連れで食事をしよう」という話になった際に「旦那さんの食事だけは作らないと…」と話すママ友がいました。大変だと思います。
藤野先生
ステレオタイプの考え方が未だに残っていますが、専業主婦というのは本来、仕事ではなくて家庭を回すための役割なので、生きていくために必要なことを整えさえすればそれでいいんです。
それこそ旦那さんも大人ですから、外食をしてきてくれればいい話です。そういうことを発信していくことで世の中が変わっていくと思います。
藤本 美貴さん
そういう方は、旦那さんに「何か勝手に食べてよ」って言えないのだと思います。
加藤
そうですね、言えないのだと思いますが、なかなか難しい問題だと思います。
藤野先生
そういうことを受け入れられない旦那さんっていうのも結構いますからね。
藤本 美貴さん
そうでしょうね。
藤野先生
それが普通だった歴史もありますが、時代も変わりました。それこそ、一人の収入だけで贅沢できる時代ではなくなっています。だからこそ昔と同じ考え方は通らないですよね。
加藤
藤本さんは旦那さんとそういう話はされるのですか?
藤本 美貴さん
します。でもうちは「俺のはいいよ、勝手に食べるし」っていうタイプなんです。
加藤
そう言ってもらえるとこちらもありがたいですよね。
藤本 美貴さん
そういう人じゃない家もありますよね、まだ。
藤野先生
それで苦しめられている人は多いですよね。
藤本 美貴さん
でも大人ですし勝手に食べられるんですよ。それに食べ物もコンビニもスーパーも、家にレトルトもあるしという時代ですものね。
加藤
そうなんですよね。
藤野先生
家事をいきなり全部やらなくなってしまうと、反発をくらうかもしれませんが、私はこのくらいはできるけど、これ以上になるとしんどいんだ、って言うことを正直に伝えてみることが大切です。
ご主人は、お子さんを育てながら家事をする大変さって意外にわかっていないものです。だからこそ、知らないと理解もできないので、話し合いの場を設けて共有してもらうという考え方もあると思います。
藤本 美貴さん
話し合いは必要ですね。
加藤
本当にそう思います。子育て中の方は自分のことだけでなく、やらなくてはならないことが山積みです。だからこそ、しんどい状態であっても疲れていることに気付かなかったり、気付いてても助けを求めることができないために、心もからだも疲弊し切って限界を迎えてしまう場合があります。
藤野先生がおっしゃるように、しんどくなる前に必要なこととそうでないことの取捨選択を日頃から行い、手を抜くこと。また、藤本さんがお話されていたように時短家電をうまく利用したり、お惣菜やレトルト食品などを上手に活用することも必要です。
そして、何より家庭でのコミュニケーション。これが一番大事だと思いました。
次回の更新は、7月14日(木)予定です。お楽しみに!
先行きが不透明な時代が続くことから、さまざまな不安やプレッシャーで精神的な疲労感を訴える人が増えていると聞きます。
藤野先生、よく「強い人ほど急にぽきっと折れやすい」という話を聞くのですが、実際はどうなんでしょうか。