家族の問題なのに夫は他人事……そんな時に使えるWEメッセージって?【ハラユキ×星野概念『誰でもみんなうつになる』対談】

家族の問題なのに夫は他人事……そんな時に使えるWEメッセージって?【ハラユキ×星野概念『誰でもみんなうつになる』対談】

2024.03.08

Profile

ハラユキ

ハラユキ

コミックエッセイスト/イラストレーター

コミックエッセイスト&イラストレーター。 おいしいごはんとお風呂屋さんと祭りが好き。近著に、国内外の多様な家族を取材し、その家事育児分担とコミュニケーションをまとめた『ほしいのはつかれない家族』(講談社)。

2022年に軽度のうつと診断されたコミックエッセイストのハラユキさん。寛解までの試行錯誤をまとめた『誰でもみんなうつになる』(KADOKAWA)は、うつにまつわる基礎知識を学ぶのに最適な一冊です。今回はハラユキさんと本書の監修を担当された精神科医の星野概念さんを迎え、子育てとうつについて考える対談を実施しました。後編は、辛い気持ちの対処、夫婦間のコミュニケーション方法を語ります。

(左)ハラユキさん:コミックエッセイスト&イラストレーター。著書に『ほしいのはつかれない家族』(講談社)など。KIDSNA STYLEで「親子で学ぶ差別」「知っておきたいネットリテラシー」などを連載。(右)星野概念さん:精神科医など。病院で勤務するかたわら、執筆や音楽活動も行う。近著に『こころをそのまま感じられたら』(講談社)。
(左)ハラユキさん:コミックエッセイスト&イラストレーター。著書に『ほしいのはつかれない家族』(講談社)など。KIDSNA STYLEで「親子で学ぶ差別」「知っておきたいネットリテラシー」などを連載。(右)星野概念さん:精神科医など。病院で勤務するかたわら、執筆や音楽活動も行う。近著に『こころをそのまま感じられたら』(講談社)。

対談前編はこちら

お母さんは睡眠不足で当たり前?無意識に自分をいじめてしまう理由【ハラユキ×星野概念『誰でもみんなうつになる』対談】

ハラユキさん漫画
 

家族の問題を家族で解決するのはむずかしい

ハラユキ:私が11年子育てして思うのは、手さえ足りていれば、子どもを育てるのは楽しくて幸せだということ。ぴちぴちした生きものが家にいて育っていくことは、もう最高なんです。

だけど、子どもをかわいいと思えないお母さんもいるわけですよね。で、それはそのお母さんが悪いんじゃなくて、置かれている環境に問題があるはず。お母さんを責めるんじゃなくて、ワンオペで追い込まれたり、孤立してしまったりしている状況をなんとかしないといけない。

星野:そうですね。子どもの心理的な発達の面からも、子どもを育てる人に余裕がある方がいい。みんなで親御さんの安定を作っていくことが大事ですね。

ハラユキ:そう考えた時に、自分の要望を夫や家族に伝えるのは大事ですよね。でも、相手と話し合いの場を持つこと自体が大変って方も多いと思うんです。

我が家の場合は、産後クライシスで夫と何度もケンカをして、それで少しずつ折り合いをつけて今に至っていますが、夫婦間で衝突してしまうことってどうにもならないんでしょうか?

星野:夫婦カウンセリング(カップルセラピー)が役立つかもしれません。一般的なカウンセリングでは相談者とカウンセラーが一対一で話しますが、夫婦2人とカウンセラーで行うのが夫婦カウンセリングです。

ハラユキ:アメリカでは割と一般的だと聞きますね。どんなふうに役立ちますか?

ハラユキさんと星野概念さん
ハラユキさんと星野さん

星野:夫婦のもめごとって「夫は家事育児をまったく手伝ってくれない」みたいに、相手が悪いって話になりがちですよね。だけど、夫婦カウンセリングの場だと、誰かを責めるやり方じゃなく、今の自分たちの状況を俯瞰する視点に変わるというか。


特に、夫婦カウンセリングのもとになった家族療法というものがあるんですが、その中で一番代表的なのがシステミックアプローチといって、これは家族のシステムを見る手法なんです。

ハラユキ:家族のシステム?

星野:言い換えると、家族の関係性です。誰が悪いから変わるべき、という考え方じゃなくて、この家族はどういう困難を抱えているか、という視点で家族を見る。夫婦カウンセリングだと、二人の話を聞きながら、カウンセラーが「今こういう関係になっているように見えます」とフィードバックするという感じです。

ハラユキ:なるほど。たしかに、夫婦間の問題は一対一だと行き詰りやすい。お互いに自分の考えが正しいと思いがちなので、第三者を入れた方がいいというのは腑に落ちます。

一人でモヤモヤしないためのWEメッセージって?

ハラユキ:今の話を聞きながら思い出したことがあります。

夫と家事育児のことで揉めていた時、コミュニケーション術の本を読んだりして伝え方を工夫するようにしていたのですが、最初に試したのがIメッセージでした。「あなたが~~してくれないから」とYOUで伝えると責めているようになるから、「私はそう言われると悲しい」とIを主語にして話す方法です。

そこから発展して、WEを主語にするようにしたんです。

――WEですか?

ハラユキ:「私たちはよくこういうことでケンカするよね」とか「私たちはいまこれができてないね」とWEを主語にすると、二人が対立関係ではなくなるんです。どちらかを責めるんじゃなくて、二人がその課題について一緒に乗り越えるべきものとして認識するようになるんですよ。

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※写真はイメージ(iStock.com/AsiaVision)

ハラユキ:家事育児のもめごとって本来は二人共通の問題なのに、片方だけが問題として認識していることがよくありますよね。そうじゃなくて、あなたもこの問題の当事者だよって意識をじわじわと認識してもらう方法としていいんじゃないかと思ってます。

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『ほしいのは「つかれない家族」』より

星野:たしかに、WEとして考えたらいまってどんな状況だろう、と考えるのは効果的ですよね。

ハラユキ:さらにはやっぱり、プロの第三者が入って導いてくれた方が、WEにたどり着きやすいと思います。一対一だとどうしてもIとかYOUになりやすいし、当事者は視野が狭くなってしまうから、それをプロの方に広げてもらうのがいいと思うんです。臨床心理士や精神科医の方は、俯瞰で物事を見るのが得意なんですかね。

星野:普段は全然無理ですよ。僕も人間関係ですごい悩んでますもん。

ハラユキ:(笑)。

星野:だからこそ、第三者の必要性を感じるんです。

ハラユキ:妻が行きたくても夫の方が渋るという話はよく聞きますが、やっぱり夫婦カウンセリングはいいと思うんですよね。

星野:責められるんじゃないか、って不安があるかもしれないけど、実際にはそうじゃなくて関係性を見るものなので、試してみてもいいと思います。

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ひとりの悩みをみんなで考えるオープン・ダイアローグ

――ハラユキさんと星野さんが知り合うきっかけになった、メンタルヘルススーパー銭湯のことも気になっています。

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 『誰でもみんなうつになる』より

星野:先ほど話にあがった家族療法から派生したのが、オープン・ダイアローグです。

ハラユキ:これもすごくよかったです。詳細は上の漫画を見てほしいのですが、オープン・ダイアローグのおもしろいところは、アドバイスじゃなくて、感想を言い合うところですね。

星野:ひとりの話をみんなで聞いて、その後に本人の前でみんなが感想を話し合います。オープン・ダイアローグでは関係性の上下をなくして話をすることが重要であると考えるので、アドバイスをするという形にはなりません。自分の中に湧いてきた思いを声に出すという感じなので、感想と言えます。

――自分の話をして人の感想を聞くだけでは自分の悩んでいる状況自体は変わらないわけですよね。それでも、オープン・ダイアローグが効果的なのはなぜですか?

星野:たしかに、声を重ね合わせるだけなので、何かが解決するかどうかは誰にもわからないんです。

だけど、自分の話に対する人の感想を聞いていると、自分でも意識していなかった気づきが生まれるんだと思います。実際に僕もロールプレイで当事者の立場として話をした時に、自分にはまったくなかった視点が語られているのを経験しました。

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星野概念さん

星野:他の人の感想には、「自分でも本当はそうした方がいいとわかってるんだけどできない」みたいな意見も出てきます。抵抗のある考えを誰かが話しているのを聞くと、だんだん「意固地になることもないか」みたいな気持ちになることもある。そういう心の動きが生まれること自体に意味があると思っています。

――ハラユキさんがのちにご自身のオンライン・コミュニティで試されているように、おうちから参加できるものもあるので、育児中で外出しにくい時でも試せるかもしれないですね。

うつを治すのは薬だけじゃない

――ハラユキさんは、オープン・ダイアローグ以外にも、お祓い、スパイス、アーユルベーダなど、医学的なものもそうではないものも幅広く挑戦されていますね。

ハラユキ:元気な患者ですよね(笑)。

でもこうやって色々試したり、いろんな人の話を聞いたり、本を読んだりして思ったのは、薬で治る人もいれば、薬以外の方法で治る人もいるってこと。薬がいいとしても、どの薬がその人に合うかすぐにはわからないし。

生活の根本を見直して改善したり、色々掛け合わせて試さないとメンタルの不調は治らないと思うのですが、どうですか?

星野:僕もそう思います。薬はあくまで一時的に症状を抑えるみたいな役割というか。

ハラユキ:もう何も気力がわかないって時には、やっぱり薬がいいと思います。

星野:そうそう。薬は支えとしてはすごくいいけど、そんなに万能じゃないんです。

ハラユキ:星野先生に本の監修をお願いしたのも、そこなんですよね。精神科医で理論の部分ももちろん知識があって、さらには臨床心理士の資格もお持ちで。医学的な理論も大事だけど、それだけじゃないんだよってアプローチを常に試していらっしゃるところがとてもいいなと思っています。

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ハラユキさん

ハラユキ:実際私にも薬は効いたし、通った病院もよかったし、医療の力で改善していったところもあります。でも、他のことも無駄じゃなかった。お祓いでもスッキリした部分はありますし。だから、色々試した中でどれが明確に効いたと言いにくいけど、結果的には寛解したし、何なら前よりも元気になりました(笑)。そのあやふやさが人間だとも思いますね。

星野:辛いなと思って、自分に対して一生懸命試行錯誤していたわけじゃないですか。そのこと自体が必要で、大事なことかもしれないです。その試行錯誤が孤立に向いちゃうとまたよくないけど、ハラユキさんの場合は色々試すうちに応援者と少しずつ出会っていって、自分の心身の機嫌を良くしていったわけですよね。

ハラユキ:孤立はよくないですよね。でも、メンタルの不調は周囲にも相談しにくいから、孤立に拍車をかけやすい。特に第一子の育児中とか、考えちゃうんですよね。「みんなもっとバリバリやってるのに、わたしはできてない」みたいに。

星野:不安な時って、人と比べちゃうんですよね。

ハラユキ:それで言うと、星野先生のメンタルヘルススーパー銭湯もまさに孤立しない場ですよね。メンタルの問題を話すことがまったくタブー視されないという。

星野:そういう場は色々あるといいなと思っています。よくわからない寄合みたいな。

作家のいとうせいこうさんと一緒にやってる「心場所 〜心のことを話してみる場所〜」というオンラインイベントも、よくわからないけどとりあえずみんなで集まって、90分話すっていう場で。毎月やってるんですが、年明けはみんなで書き初めしたりして(笑)。

ハラユキ:書き初めって楽しいですよね(笑)。何か困ってから相談先を探すのは大変だから、普段から弱みをみせられるコミュニティに属してると、いざという時に相談しやすいですよね。そういう場所を普段から複数持っておくと心強いんじゃないかなと思います。

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ハラユキさんの『誰でもみんなうつになる』はこちらから

2024.03.08

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