【子どもの腰痛】“脱ゆとり教育”と運動習慣が招く痛み

【子どもの腰痛】“脱ゆとり教育”と運動習慣が招く痛み

ネット環境が整った時代に生まれ、スマホやタブレットなどのデジタルデバイスの進化とともに成長してきた現代の子どもたち。親世代の子ども時代とは、社会環境や生活の仕方が変化した今、子どもたちの心身には新たな問題が起きている。前編では、子どもの腰痛が起こりやすい背景と症状について、上高田ちば整形外科・小児科 院長の千葉直樹先生にインタビュー。

<連載企画>子どもの体と向き合う

学習環境と運動習慣が招く子どもの腰の異変

近年、腰の痛みを訴える子どもが増えている。その要因のひとつとして考えられているのが、小学生が背負うランドセルの重量化だ。

ランドセルの形状も変化している。一般社団法人 教科書協会が2019年に発表した「教科書発行の現状と課題」によると、2005年度、全教科の教科書のページ数(1~6年合計、各社平均)は4857ページでした。しかしその後、2018年度は道徳も加わり7587ページ、今年2020年度は道徳と英語が加わり8543ページに増加。

これには、“脱ゆとり教育”によって学力向上を図るために学習指導要領の内容が充実したこと、そして分かりやすさや学びやすさのためのユニバーサルデザインを追求し、教科書が大判化している背景があると一般社団法人 教科書協会は指摘。

教科書に使われる紙の軽量化や、軽いランドセルも登場しているが、これらの背景の元、A4サイズのプリント類や、A4サイズよりも大きいクリアファイルやバインダーなども収納できるよう大きなサイズのランドセルも一般的になっている。

「子どもが背負える適正な重さは体重の15%程度。小学校の低中学年で2~3kgほどが適量。適正な重さを超えるランドセルを毎日背負うことで、その重さを支えるために腰が反ったり前傾姿勢になることで腰に負担がかかる」と話すのは、上高田ちば整形外科・小児科の院長、千葉直樹先生(以下、千葉先生)。

まずは、現代の子どもが腰痛を起こしやすい原因について話を聞いた。
千葉直樹/上高田ちば整形外科・小児科 院長。日本整形外科学会 整形外科専門医。整形外科・リハビリテーション科を担当。子どもが楽しく通えて、保護者も安心のクリニック作りを目指して地域に貢献する医療に取り組んでいる。
千葉直樹/上高田ちば整形外科・小児科 院長。日本整形外科学会 整形外科専門医。整形外科・リハビリテーション科を担当。子どもが楽しく通えて、保護者も安心のクリニック作りを目指して地域に貢献する医療に取り組んでいる。

子どもの体が耐えられる重さは決まっている

「教科書だけでなく、体操着、給食用の白衣、上履き、絵具セット、習字セット、鍵盤ハーモニカなど、その日の授業に合わせた副教材なども合わせると、最近の小学生のランドセルの重さは5kgを超えることもあり、重いものだと10kgになるとも言われています。

子どもが無理なく背負える重さには限界があります。一度でも腰に不調を感じると、一時的によくなったとしても腰痛が常態化しやすいため予防と早期治療が鍵になる」
iStock.com/kyonntra
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ランドセルの重量化による子どもの発達への影響を懸念した文部科学省は2018年に「児童生徒の携行品に係る配慮について」という文書を各都道府県教育委員会等に発表した。宿題で使用しない教科書を学校に置いておくなど、いわゆる”置き勉”を認め子どもの負荷を軽減するよう呼びかけている。

二極化する子どもたちの運動習慣と腰痛のリスク

一方で、最近は運動やスポーツをよくする子どもとしない子どもの二極化が進んでいることも問題視されている。

スポーツ庁の「令和元年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によると、体育の授業を除く小学生男子の一週間の総運動時間が420分を超える子どもが51.4%にのぼる一方で、60分未満の子どもは7.6%いることがわかった。女子は420分以上運動をする子ども30%に対し、一週間の運動時間が60分に満たない子どもが13%という結果となった。

「長い時間同じ姿勢でゲームをする子どもや、外遊びをする機会が少なく運動をする習慣がない子どもは、筋力や身体感覚の低下によって姿勢が悪くなる恐れがある」
Anchalee - stock.adobe.com
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さらに、スマホやゲームなどのデジタルデバイスに触れる時間の増加が、子どもの筋力を養う外遊びの機会を奪っている。十分に運動をしておらず体全体の筋力が低下していると、腰を支えるための筋肉量が不足し腰痛のリスクが増す。

「子どもの発達にとって適度な運動はとても大切。しかし、同じ動作を繰り返すことが腰の痛みをはじめとした体の不調につながることもあります」

成長期の子どもの腰に起こりやすい症状

一般的に腰痛と呼ばれる原因疾患にはさまざまな種類があり、複数の疾患が重なって起こっている場合もある。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、椎間関節炎、仙腸関節炎、腰椎圧迫骨折、筋筋膜症、股関節疾患などに加え、ストレスから痛みを伴う場合もある。

千葉先生は、子どもの腰痛には大きく分けて2つの原因疾患があるとする。

体のゆがみにより痛む腰椎側弯症

「まずひとつめは腰椎側弯症(ようついそくわんしょう)です。

人間の背骨は、椎骨(ついこつ)と呼ばれるブロックが首から腰まで複数連なることでできていますが、このうち腰の部分にある5個を『腰椎』と呼びます。体の正面から見たときに通常はまっすぐであるはずの腰椎が、左右にゆがんで曲がっている状態が腰椎側弯症です。
koti - stock.adobe.com
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腰椎に側弯があると、首から腰まで全体的な姿勢の悪さにつながります。側弯が進行しやすいのは中学生くらいの時期ですが、それ以前から腰に負担のかからない生活を心がけることが大切です。

たとえば学校や習い事で指定されているバッグがショルダーバッグタイプの場合、片方の肩だけに負担がかかり、腰に痛みが起こることがある。整形外科医師に相談して、リュックタイプでの通学を認めてもらう診断書を書いてもらうとよいでしょう」
iStock.com/ChesiireCat
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側弯症は原因のわからない特発性のものが多く、生活習慣とは関係なく起こるとされている。しかし、体の片側だけに負担をかけると腰椎に負担がかかるため重さを分散させる工夫が必要だ。

背中を反らすと痛い場合は腰椎分離症

習い事や部活で熱心にスポーツに取り組む子どもからも腰痛に悩む声が聞かれるという千葉先生。練習中に繰り返し同じ動作をして腰に負担がかかることで、骨にひびが入り疲労骨折をするケースがある。

「小学校高学年から中学生くらいの子どもの腰痛の原因の一つとしてあげられるのが、腰椎分離症です。子どもの体は成長段階にありますが、それは骨も同じ。新しくできる骨が、骨と骨の分離している部分に当たることで神経に触れ痛みを感じます。

たとえば人を背負いながら背中をねじる柔道や、バレーボールのように背中を反らせながらジャンプと着地を繰り返したりすると、しびれのような痛みが走ることがある。背中を後ろに反らせる動作で痛みが強くなるのが特徴です。
iStock.com/FatCamera
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腰椎分離症は早期の診断とコルセットなどで安静にすることで治癒する可能性もありますが、診断が遅れたり、安静が不十分ですと、骨折部の癒合が望めないこともあります」

5つに分かれている腰椎の一番下である第5腰椎に特に起こりやすい腰椎分離症。治療が遅れたり放置をしたりすると、腰椎が前や後ろにずれる「分離すべり症」の進行につながり、大人になってから慢性的な腰痛に苦しむことになるため早期の治療がポイントになる。

後編では、子どもの腰痛を防ぐために日常でできることをくわしく解説していく。

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

2020年07月03日

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