【ママの体と向き合う】産後のお腹は“鍛える”ではなく“守る”もの

【ママの体と向き合う】産後のお腹は“鍛える”ではなく“守る”もの

個人差があるママの体において、自分にとってのベストな選択はさまざま。助言や迷信を鵜呑みにしたり、「やらなければ」という強迫観念で自己判断のケアをしていないでしょうか?この連載では、専門家を通してママが自分自身の体と向き合うためのガイドとなる正しい知識を発信していきます。第4回は、産後なかなか戻らないぽっこりお腹にどうアプローチすべきか、川崎協同病院 婦人科産後骨盤トラブル外来の内山美紀さんに聞きました。

<連載企画>ママの体と向き合う

産後のぽっこりお腹と一般的なぽっこりお腹は違う

出産をピークに大きく膨らんだお腹は、赤ちゃんの誕生とともに大きく変化します。ですが、赤ちゃんが産まれたら体型はキレイに元通り、なんてうまくいかないのがママの体の難しいところ。

産後の体の悩みで特に多いのが、お腹のたるみや下腹部のぽっこり感。産褥期は激しい運動もできず、食事に気を付けてもお腹だけそのまま…というママも少なくありません。実は、運動をしたり食事を改善したりと、いわゆる「ダイエット」に励んでいるとしたら、あまり大きな効果が望めないかもしれません。

「特に、肩と骨盤の距離が近くなるような、体を折りたたむ筋トレはNGです!」と話すのは、川崎協同病院 婦人科でガスケアプローチを指導している内山美紀さん。(以下、内山さん)

まずは、産後のお腹がどういう状態になっているか、教えてもらいました。

弱った筋肉が、たるみやぽっこりの原因

「お腹のたるみや下腹部のぽっこりは、大きく分けて2つの筋肉が原因です。

ひとつは、いわゆるシックスパックに分かれるといわれる、お腹の表面にある『腹直筋』。赤ちゃんが入っていた分、大きくなったお腹が伸びてたるんでいます。皮ふも同様に伸び、産後1年くらいかけてゆっくり戻っていきます」
「筋トレだけじゃなく、体を内に折りたたむような私の今の姿勢もNGの例です」と内山さん。
「もうひとつは、骨盤の底にある骨盤底筋群。膀胱、尿道、子宮など、女性の大事な臓器を骨盤の一番底で支えている大切な筋肉群です。出産時に赤ちゃんが通ることで大きく負担がかかり、下にたわむようにゆるんでいます。

腹直筋は伸びた分が自然に戻り、回復していきますが、骨盤底筋群は大きなダメージを負っています」と話す内山さん。骨盤底筋群がぽっこりお腹を引き起こす仕組みを、くわしく教えてもらいました。

産後の禁止ワード「鍛える」

骨盤底筋群は“鍛える”ではなく“守る”

koti - stock.adobe.com
「骨盤底筋群は排泄のコントロールをするほか、体の安定性や腹圧の調整をしている筋肉。私が体を折りたたむようにして行う腹筋運動をおすすめしないのは、骨盤底筋群がとてもデリケートだから。出産時に赤ちゃんが通ることで大きな負担がかかり、弱ってゆるんでいます。そんな状態で肩と骨盤の距離が近くなる腹筋運動をすると、インナーマッスルに効くどころか、骨盤底筋群に圧がかかり、骨盤内にある臓器が下に向かって押し出される形になってしまうんです。

ひどくなると、尿漏れやガス、便もれ、子宮脱といった女性機能へのトラブルの原因にもなってしまう」
iStock.com/fizkes
出産時に赤ちゃんが通ることで骨盤底筋群に負担がかかり、下にたわむようにゆるむと、内臓の位置が自然と下がります。そのため、お腹がぽっこりしているように見えてしまう。

その状態で筋肉を“鍛えて”しまうと、さらなる負担がかかってよりひどくなる…さらに、この骨盤底筋群の状態を悪化させてしまう原因は、腹筋運動だけではありません。

「骨盤に子どもを乗せた低い位置での抱っこや、片側での抱っこはお腹に力がかかるため、内臓が潰されている状態。骨盤底筋群にも負担がかかっています」
iStock.com/Halfpoint
「抱っこ紐を使用するときは、腰ベルトの位置が低くなりすぎないよう注意する必要があります。正しい姿勢は、赤ちゃんのおでこに口づけできる高さ。そうするとふだんよりも赤ちゃんが軽く感じ、内臓や骨盤底筋群には負担がかからない状態です。この姿勢こそが、腹圧がかからない正しい抱っこの姿勢なんです。

他にも、よくあるのがママが仰向けで寝て、両方のスネに赤ちゃんをのせて遊ぶ『ひこうき』と呼ばれるスキンシップ。赤ちゃんの手を持って体を揺らしてあげるととても喜ぶのですが、これも肩と骨盤の距離が近づいてしまい腹圧がかかってしまうので、身体に負担のかかる腹筋運動になってしまいます。ふだん何気なく行っている抱っこやスキンシップですが、お腹に力が入ってないかな?と気にしてみてください

内臓の位置が下がることによるぽっこりお腹を予防する唯一の方法は、トレーニングやエクササイズで“鍛えて元に戻す”のではなく、骨盤底筋群を守って正しく使う、つまり“腹圧をかけないようにすること”。

そのために必要なのが、姿勢と呼吸です。この骨盤底筋群に姿勢と呼吸でアプローチする概念が、フランス生まれのガスケアプローチです。

ガスケアプローチの考え方

ガスケアプローチとは、フランス人女医ベルナデット・ド・ガスケ医師によって確立された、姿勢と呼吸から骨盤底筋群(フランス語で“ペリネ”)に働きかける身体的アプローチのこと。
「骨盤底筋群は妊娠と出産を通して大きく負担がかかりますが、それだけではなく女性の一生を通して守っていくべき大切な組織

なぜかというと、ガスケアプローチは、正しい姿勢と呼吸をすることで、骨盤底筋群に負担がかからないようしなやかに保ち、内臓を本来あるべき場所へと導くための方法です。もともとは、尿漏れや子宮脱に代表される骨盤底機能不全の予防を目的としているため、出産を経験したママや更年期の方をはじめ、女性のみなさんに実践してほしい。

出産や過度の腹圧によっては、骨盤底筋群が傷つくだけでなく靱帯が伸びてしまうこともあり、ここまでくると元には戻りません。そのため、何歳からでも、何歳まででも、予防が大切なんです」

骨盤底筋群と姿勢、呼吸はなぜ関係するのか

「筋肉はミルフィーユのように何層にも重なっていて、お腹の部分は4層に分かれています。出産によって伸びてたるむのは表面のアウターマッスルである腹直筋ですが、その奥にある筋肉、インナーマッスルは腹横筋と腹斜筋(外腹斜筋と内腹斜筋)からできています。

これらお腹の筋肉の中でも、2つに分かれた帯状の形で、左右から体を覆うように存在している腹横筋をはじめ、呼吸に関わる横隔膜、背中にある多裂筋と協働して体幹を支えているのが、骨盤の底にある骨盤底筋群です。

これらの4つの深層筋群で出来たインナーユニットが、体の安定性や腹圧の調整をしています
川崎市民団体Coaクラブ2 - stock.adobe.com
肺呼吸を司る横隔膜と、骨盤の底にある骨盤底筋群を、お腹を覆うように存在する腹横筋と背中にある多裂筋が支え合う。そうすることで体幹を保ち、良い姿勢と呼吸につながっているのだそう。

正しい姿勢と呼吸

お腹の内臓がおさまっている空間を「腹腔」といい、ここを箱だととらえると、ガスケアプローチにおける姿勢と呼吸がわかりやすいと内山さん。

「正しい姿勢というのは、背骨を十分に引き伸ばし、骨盤と肩との距離を最大限まで遠ざけた状態。腹腔を箱に例えると、背骨を反らした姿勢は、スペースが狭くなって後ろから箱に負担がかかりますし、逆に、前かがみ姿勢や猫背の場合は、箱が前にぎゅっと押しつぶされてしまいます。つまり、箱をきれいな状態に保つためには、背筋をのばしたまっすぐな姿勢がベスト。

このまっすぐに背筋を伸ばした姿勢こそが、骨盤底筋群を守り、内臓が正しい位置に上がる理想的な状態なんです。姿勢が正しく整ったときこそ、呼吸はおのずと腹式呼吸になる。それに伴い、インナーマッスルも一緒に働いてくれるので、皆さんが悩まれる産後の体型作りにもつながります」
iStock.com/Tom Merton
呼吸の場合は、箱の状態の腹腔の上に、横隔膜がのっているイメージ。いわゆる胸で息をする胸式呼吸によってこの横隔膜が下がると、腹腔に圧がかかり、内臓がつぶされて骨盤底筋群に負担がかかるのだそう。そのため、横隔膜を下げない腹式呼吸をすることが理想です。

「腹式呼吸をしようとしてお腹に力が入ってしまう方が多いのですが、正しい腹式呼吸は、お腹に力が入っていない楽な状態で行えるもの。良い姿勢をするだけで、まったく力を入れない楽な状態で自然に腹式呼吸ができるようになっているのです」

内山さんは、私たちが楽だと感じる姿勢、例えばソファや椅子に寄りかかっている姿勢は、内臓をつぶすように圧迫しているため、骨盤底筋どころかどの筋肉も使っていないからこそ、楽に感じているだけであると指摘します。

簡単に腹式呼吸ができるエクササイズ

「ガスケアプローチの姿勢と呼吸は、やってみるとその心地よさに驚かれる方も多いです」と話す内山さんに、簡単に腹式呼吸ができるエクササイズについて教えてもらいました。
このとき、床に背中がピタッとくっついているのが理想。
1.背中を床にぴったりつけるように仰向けに寝転ぶ

2.片方の足を片方のひざの部分にのせ、かかとをぴったりくっつける。その際、持ち上げた足のひざが体の前にくるように

3.手をばんざいし、首を伸ばした状態で笑顔をつくって優しくはーっと息を吐く。お腹に力が入っていないことを確認しながら、呼吸をくり返す

「1で寝転ぶ際に、“背骨そのものを伸ばす”とより良いです。バスタオルを一枚敷いた上に仰向けに寝て、他の誰かに頼み、背中からお尻に向かってバスタオルを並行に引っ張ってもらうと、バスタオルが動くのに合わせて引っ張られ、背筋も自然に伸ばされます。背骨にある椎間板がつぶれることによって起こるヘルニアや、腰痛の症状も緩和されますよ。

このエクササイズは、継続して行うと、肩と骨盤が最大限伸びた状態の腹筋運動、つまり身体に負担のない腹筋運動になります。

ママのお腹を正しく守ろう

「産後数か月で体型を戻した!というモデルさんのお腹を見るとキレイに引き締まっているように見えますが、産後のママは、骨盤底筋群がもろくゆるんでいる状態。身体に負担のかかる腹筋運動をはじめ、育児中も腹圧のかかる動きはできるだけなくすよう気を付けてみてください。

お腹周りは“鍛える”のではなく“守る”ことで、内臓を本来あるべき正しい位置へと導くことができれば、産後の体型もすっきりしてきます」と内山さんは言います。

お腹のたるみや下腹部のぽっこり感の悩みには、つい鍛えれば鍛えるほど引き締まると思ってしまいがちだけれど、ママの体に必要なのは、出産で傷ついた筋肉をこれ以上悪化しないよう正しい運動を行い保護すること。女性にとって大切な骨盤底筋群を、正しい方法でしっかり守っていきましょう。
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内山美紀(川崎協同病院 婦人科)

内山美紀(川崎協同病院 婦人科)の記事一覧

助産師、一般社団法人 日本ガスケアプローチ協会公認指導者。川崎協同病院 婦人科でのガスケアプローチの指導のほか、東京・神奈川を中心に、出張専門の開業助産師として、妊婦さんや産後の方へのガスケアプローチクラスや訪問ペリネケアを行う。

川崎協同病院

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

<連載企画>ママの体と向き合う バックナンバー

2020年01月14日

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