赤ちゃんに安全と安らぎを与えることで、ぐずっていた子どもも落ち着くという「まぁるい抱っこ」。その「まぁるい抱っこ」の生みの親である正看護師の辻直美先生に「まぁるい抱っこ」を生み出したきっかけ、特長などを聞いてみました。
みなさんは子どもを抱っこするとき、どんな気持ちで抱っこしていますか?
無意識で「抱っこして【あげる】」という言い方や、気持ちになっているママもいると思います。
辻先生によると、「お母さんと子どものやり取りを見ていると『抱っこしてあげるから〇〇してね』など、抱っこすることが交換条件になっていることが多いようです。このような抱っこでは、子どもは満たされず、抱っこしても泣き止まないことがあるんです」。
また、お母さんの多くがやっているのは、荷物をもつようにお尻に手を当てるだけ、もしくは子どもの脇を支えるだけの不安定な抱っこです。このような抱っこでは、子どもの立場に立って考えると気持ちよくなく、心も休まりません。
辻先生によると「抱く」には、本来、「命を命で育む(はぐくむ)」という意味があります。
もっとかみ砕くと、「育む」という言葉には、「相手(この場合は子ども)の気持ち良さやどうやったら安心してもらえるかを抱く側が考え、成長するためのお手伝いをする」という意味が込められているそう。
「抱っことは、命も体もゆだねてくる子どもを全面で受け止め、子どもたちが心地いいと感じさせてあげること。それを形にしてみたところ、まるでママと子どもが『繭』みたいにみえる抱っこになったんです。
その抱っこを見た人から『とっても丸いですね』と言われたことと、多くのママがやっているお尻にひっかけただけの抱っこと区別した方がいいと思い、『まぁるい抱っこ』と名づけました」(辻先生)。
「まぁるい抱っこ」は、具体的にどのような良いことがあるのでしょうか。
正しい姿勢で抱っこされると、赤ちゃんの体が自然と丸くなり、ママに体をゆだねることで精神的な安心感が得られます。
また、安心して泣き止む効果も。辻先生によると「なかなか泣き止まず悩んでいたママも赤ちゃんとのコミュニケーションが楽しめるようになった」ケースもあるそうです。
身をゆだねることで、リラックスして眠くなってきます。緊張感がほぐれて自然と力が抜けて心地よさを感じます。
ママにとっても良いことが!全身全霊をあずけてくるわが子を心からかわいいと感じることができます。
また、抱っこをすることで「護(まも)りたい」という気持ちが強まるようです。
密着した形になるので、ママと子どもが「とけ合う」感覚に。一体感が生まれ、自然とやさしく語り掛けられるようになる効果も。
「手を使わずに抱っこする」と聞くと、「どうやってやるの?」の不思議に感じる人も多いでしょう。辻先生にその言葉の意味をうかがってみました。
「抱くということ=『持ち上げる」だと思っている方が多いので、『子どもが大きくなったら重くてできません』『授乳中はできません』『子どもが2~3人になるとできません』と言いますが、その考え方が違うと私は思っています。
前にも述べましたが、『抱く=護る』なので、本当なら立っていても座っていてもできるし、目でも抱くことはできます。手をつなぐことも抱っこといえるのではないでしょうか」と、辻先生。
たとえば、下の子を抱き上げているとき、上の子が「ママー、抱っこして」ときたら、どうしていますか。恐らく「後でね」と言っていることが多いのではないでしょうか。
確かにママも体力的にも安全面からみても2人以上を同時に抱っこするのは厳しいことがありますよね。
でもそれだと子どもは満たされないので、「ママー、ママー、抱っこして」と言い続けることでしょう。
辻先生曰く「そんなときは『どうしたの?』と語りかけながら、やさしく子どもの目を見つめてください。この方法ならば、手で抱っこできないときも『目で抱っこ』できるので、子どもも心が満たされ、安心できると思います」。
子どもが本当に心地よく感じられ、安心できる「まぁるい抱っこ」をするために、確認しておきたいことを聞いてみました。
赤ちゃんや子どもが泣く理由は、大人と違って言葉で気持ちや要望を伝えることができないため、それを「泣く」という表現方法で知らせようとしているからです。
子どもの立場になってみると『困らせるためじゃなく、聞いてほしいことがあるんだよ』と思っていることでしょう。
きちんと向き合って聞いて、適切なケアをしたら言いたいことがなくなるので泣き止みます。
ただ、つい忙しいと「泣いているから……」と仕方なく他のことを考えながら抱っこし、赤ちゃんが大泣きからすすり泣きぐらいになると、すぐに降ろしてしまうこともありますよね。
辻先生曰く「このケースだと、子どもの心は満たされていないので、おろされたら再び泣き始めてしまうでしょう。
子どもがお腹の中にいるときには『抱っこしてあげる』ではなく、『早く抱きたい』と思っていたはず。そういう気持ちで抱っこされた子は、短時間でも満たされて、自分から離れていきます。忙しいのはわかりますが、『(私が望んで産んだあなたなんだから)抱っこしたい、抱っこさせてほしい』と思って能動的にするのか抱っこに対する意識の違いはとても大きいです」。
「泣き止ませるためにとりあえず抱っこしよう」では意味がありません。抱っこの前に子どもの様子をじっと観察することが重要です。
観察ポイントは、泣き声、表情、肌、ボディランゲージ。この4つをよく見て、今、満たされていないことは何なのか、子どもが本当は何を求めているのかを感じ取って心の声にこたえることが大切です。
「まぁるい抱っこ」は、抱き方の技術ではなく、子どもに立場に立って考えること、子どもと向き合う姿勢の大切さを教えてくれているのだと感じました。
抱っこすることで、子どもと十分なコミュニケーションが取れて、ママと子どもの信頼感も深まるでしょう。
次回はずっと抱っこしていたい気持ちになれ、さらに疲れにくい「まぁるい抱っこ」の具体的なやり方について教えてもらいます。ぜひお楽しみに!
辻直美
吹田市市民病院に勤務後、上海での医療提携活動に従事。帰国後、聖路加国際病院救命救急センターに勤務し、その際、地下鉄サリン事件の救急救命にあたり、その後国際災害レスキューナースとして東日本大震災や熊本大地震などの被災地での救命活動、被災者の心のケアも行う。また、自身の育児と同時に同居する舅・姑の介護をすることになり、その経験からベビーの抱っこの仕方、親のあり方、災害時の対応など、育児に関するさまざまな講演会や講座、スリングの商品化などの活動を精力的に行っている。近著に『3秒で泣き止み、3分で寝る まぁるい抱っこ』(講談社)がある。
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