父親とは?子育てとは?ゴリラ社会から家族の起源を探る

父親とは?子育てとは?ゴリラ社会から家族の起源を探る

「家族を大切にし、みんなが対等に生きる。そんな人間らしさがゴリラにもある」とゴリラ研究の一人者で京都大学総長の山極寿一氏はいいます。そんなゴリラ社会から人間社会を考えると、私たちに大切なものを教えてくれるはずです。「家族」をキーワードに山極氏の考えをまとめてみました。

ゴリラ社会から人間社会の起源を探る

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出典 https://www.amazon.co.jp/

山極氏は、人間の社会構造の根底を解明するために、進化の隣人であるゴリラの調査・研究を行なっています。その方法は、アフリカの熱帯雨林でゴリラの群れの中に混ざって、彼らの行動を観察しその一つひとつを詳細にメモをとり、ゴリラの生態や社会構造を知ることから始まります。それをもとに人間社会の構造や起源について考えるのだそうです。


お見合いや面接は、類人猿の「対面交渉」?

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ゴリラ社会から人間の社会の起源を知る、というのはどういうことなのでしょうか。

例えば、類人猿と人間で共通しているコミュニケーションがあるといいます。それは「対面交渉」。ゴリラやチンパンジーは数秒から数十秒顔を合わせるそうです。あいさつ以外でも、いろんな場面で顔を合わせます。

人間は、そこまで顔を近づけず、少し離れてこの「対面交渉」をするといいます。多くの場合「机」をはさみます。これは食事や会話が目的なのではなく、人間がかつて持っていた「対面をするというコミュニケーション」なのです。「重要な情報は、実は言葉ではなく、対面した相手の目を通して得られるはず」と山極氏は述べます。これが、お見合いや就職面接、商談など、大事な場面では面接をするということにつながっているというのです。

相手の言っていることでなく、態度、顔、表情や目の動きから相手の性格をつかみ、評価をする。この評価には、対面することが必要です。人間は現代でも、古来のコミュニケーションである「対面交渉」を使っているのです。

人間の「家族」の起源は?

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それは、おそらく、長い子ども期を通じた共同の子育てと、食を共にした(「共食」による)分かち合いの精神から生まれたんだろう。つまり、子どもを家族の中に限定して育てなかった。あるいは、食を通じて家族間のつながりを作った。 山際寿一スピーチ「家族の由来に関する誤解~ゴリラから学んだこと~」

出典: 京都クオリア研究所

授乳期間と出産感覚の変化

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人類は、古く700万年前にアフリカで誕生し、熱帯雨林からだんだん草原へと出て行きました。その環境の変化により幼児死亡率が急激に上昇しました。このタイミングで、ある一定期間に何度も子どもを産むということで、多産になっていったといわれています。

そのため、人間の「授乳期間」は短く変化しました。そうすることで出産間隔を縮めて、一生の間にたくさん子どもを産むようになりました。たくさんの子どもを育てるために「共同保育」が必要になり、ほかの動物にはない「共同体」や「家族」をつくるという概念が生まれたといいます。

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ゴリラ社会から見る人間の「家族」

「人間家族の起源を考えるときには、人間よりシンプルな家族集団を築いているゴリラを念頭に置いたほうが理解しやすいことが多い」と山極氏はいいます。

ゴリラや類人猿の社会構造を知ることで、人間社会はどのように見えてくるのでしょうか。「家族」を軸に説明していきます。


ゴリラの父親の子育て法

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「ゴリラの父親は、メスや子どもたちによって成り立つもので、自覚によって作られるものではない」と山際氏は述べます。メスゴリラは、出産を経て自然に「母親」になりますが、オスゴリラは、メスに子どもを託され、その子どもに父親として認められて、初めて父親になります。つまり、いくらオスが「俺はお前の父親だ」と主張しても、メスや子どもに認められなければ父親にはなれないのです。

ちなみに、ゴリラの父親の役割は、子ども同士がうまく遊べるように促すこと、つまり、けんかの仲裁者になったり、遊び相手になることだそうです。


人間の赤ちゃんが泣くワケ

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ゴリラの母親は、生まれてから1年は絶対に赤ちゃんを離しません。でも人間の場合は、母親が早い段階で離れるので赤ちゃんが泣く必要があるというのです。人間の赤ちゃんはすでに「共同保育」されるように産まれてくるので、赤ちゃんはずっと泣くのだそうです。つまり、動物としての本能なんですね。


家族で一緒にごはんを食べることの意味

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誰かと一緒に「食べる」という行為は、コミュニケーションを促進し、和解や和平の成立を意味します。動物ならケンカの原因になる食物を、人間は一緒に穏やかに食べる。それは「我々はケンカしません」と宣言しているようなもの。一方、サルは序列社会を築いているので「孤食」が基本だそうです。

近年、家族がいても「孤食」の機会が増えているこの社会を、「個人の利益と効率を優先するサル的序列社会になりつつある」と山極氏は警鐘を鳴らしています。


時間をかけて子どもを育てる価値とは

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忙しい現代人にとって、時間は「コスト」だと捉えられることが多く、他人のために使うのは、見返りがないとやっていられないと思われがち。でも、「相手のために時間を使うことは、じつはとても幸福なことで、それを一番よく知っているのはお母さんだ」と山極氏はいいます。

子どもがかわいいから、一所懸命に世話をするんですが、 共に過ごした時間が、お母さんの喜びなんです。 それって、コストじゃないはずなんですよ。 人間って、そういうふうに生まれついていてね、 ほかの動物もそうだと思うんです。 とりわけ人間というのは社会的な動物だから、 共に過ごした時間が自分の時間なんですよね。 自分だけに時間を与えられてしまうと、 それは孤独の時間であって、 その価値というのは証明のしようがないんですね。 山極寿一・糸井重里 対談「おさるの年にゴリラの話を」

出典: HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

共にすごした時間が喜び。子育ての原点

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ゴリラの赤ちゃんとちがって、人間の赤ちゃんはゆっくりと身体の成長をするところが特色だそうです。さらに、人間が進化の途中で手に入れた「多産」という能力には「共同保育」が不可欠です。人間の赤ちゃんは、いろんな人の手によって育てられるようになっているから、泣いて自己主張したり、にっこり笑って誰からも愛される存在になる必要があるのです。そう思うと、子どもが泣いたり笑ったりしながら一緒に過ごす時間は、人間の本能としての喜びなのかもしれませんね。

2016年09月15日


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