【山中伸弥・成田奈緒子】かっこつけず「助けて」を言える子が伸びる

【山中伸弥・成田奈緒子】かっこつけず「助けて」を言える子が伸びる

KIDSNA編集部が選ぶ、子育てや教育に関する話題の書籍。今回は、ノーベル賞科学者・山中伸弥教授が小児脳科学者・成田奈緒子医師と「子育て」について初めて語った『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(‎講談社) を一部抜粋・再構成してお届けします。

 
 

レジリエンスを底上げする「おかげさま」力

成田:私はいまも細々だけど臨床研究をしてて。今取り組んでいるのは、発達障害のある方たちなど向けの脳トレ。それを本来の脳トレにはない目的に使う研究なんです。

脳波を測りながら脳トレを繰り返し、毎回「今日はこんな結果だったけど前回よりここが上がっている」とか「次はリラックスを心掛けてもっと上げよう」といった教育的な介入支援をします。

そのことによって、脳の使い方や脳波の分布変化を見ると同時に、逆境というかピンチを乗り越える力がどれだけ上がるかを調べています。

山中:ほほう、そうなんや。

成田:2019年くらいからかな。科研費をいただいて行っています。発達障害のある方は、乗り越え力と言われる「レジリエンス」が低い方が多いので、その理由を脳科学的に探って対策を立てようということで。

このレジリエンスの高さを調べる「質問紙」があって、それを使うんです。
※写真はイメージ(iStock.com/kazuma seki)
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山中:どんなことがわかるの?

成田:実は、乗り越える力って、「自己肯定感」「社会性」「ソーシャルサポート」という3つのパーツからできてるの。たとえば発達障害の方は周りに理解されにくいため、自己肯定感が低いことが多い。

ですが、それに加えて、そもそも発達障害は社会相互作用の障害なので社会性も同様に低い場合が多いです。周りの人と関係性を上手く保てるかどうかという部分ですね。

そして、最後のソーシャルサポートというのは「周りの人に助けられてるっていうことを実感する力」になります。つまり、「おかげさま」と思える力。これが3番目の要素になるの。

山中:なるほど。3つの要素で点数化されるんやね。

成田:そうなの。その3つが相まって評価されるんですが、発達障害の方はソーシャルサポートの部分、「私は誰かに支えられていることを実感していますよ」の点数も低いことが多いのです。
※写真はイメージ(iStock.com/bunditinay)
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山中:そうなんだ。障害がある方にはそこを強く実感してもらえる社会でないとあかんのに……。

成田:おっしゃる通り。ところが、そういう方たちに何回か私たちのところに来てもらって脳トレをやる。

そこで「お、ほら見て。前よりこんなにストレス脳波が下がったじゃん。じゃあ次回はちょっと深呼吸しながらやろう」みたいなことをやって、10回前後くらいトレーニングすると、脳の使い方も良くなって、脳波の分布も正答率の数値もぐっと良くなるんだよ。

レジリエンス得点も上がったのですが、中でも「おかげさま」と思える力、ソーシャルサポートの点数が一番上がったんです。

山中:すごいなあ。そんなことがちゃんと証明されているんだね。

成田:一方で、レジリエンスのもう1つのパーツである自己肯定感はトレーニングしても、そこまで上がらないんです。自分なんてだめだと感じてしまう気持ちは、なかなか変えられない。社会性も同様に特性でもあるので上げるのはやや難しい。

でもね、3つの要素のうち1つでも上げられれば全体のレジリエンスの得点は上がるんです。困難に立ち向かう力が上がるんです。

それで、彼らの社会の中での生きづらさを解消できれば、とても貢献できるのではないかと思って研究を続けています。

山中:僕はひとりじゃない。誰かからサポートされている、助けてもらっているっていう認識は、成田さんたちが介入して支援することで色濃くなるんですね。
※写真はイメージ(iStock.com/fizkes)
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成田:実験によって、「教育的な介入支援」っていうのが大事なんですよっていう結論が出たのは大きいです。教育効果もありつつ、レジリエンスも上げられる、なかなか優秀なトレーニングだと思ってます。

「助けて」を言える子こそ成長する

山中:それにしても、成田さんが教えてくれた3要素(自己肯定感・社会性・ソーシャルサポート)は、一般の人たち、僕らにも足らないものがあったりする。

成田:そうなんです。それをみなさんに意識してほしいと思います。特に、大人になってからでは高まりづらい自己肯定感ね。それと、障害者でも健常者でも必要なのが「自立」な
の。

自立って「自分で立つ」と書くよね。自立するっていうのはどういうこと? って尋ねると「何でも自分でできることです」って答える人が多い。

特に一般の親御さんはそれを子どもに望むというか、自分でお金を稼いで、家賃を払って生活できることが自立だって考えているようです。

山中:僕らが子どもに「手に職をつけて自分で飯を食える大人になれ」と望むのと一緒だよね。

成田:ところが、障害のある方から言わせると、そもそも普通にできないことが多いわけだからそんなの絶対無理だと。

じゃあ「自立って何ですか?」って尋ねると、「自分ができないことをちゃんと理解して、誰かに『助けて』って言えること」とおっしゃるの。
※写真はイメージ(iStock.com/laflor)
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山中:なるほど。障害がなくても「できないこと」はあるし、「できない時」もあるよね。僕らみんな常に心も体も元気だとは限らない。

成田:そんなふうに共感してもらえて嬉しいです。私は、その「助けてと言えることが自立である」っていう言葉に、とても感銘を受けました。

山中:僕もです。共感するなあ。

成田:発達障害などの子どもたちの親御さんにも話すんやけど、何でも自分でできるなんてことはこの世の中で絶対ありえへんよ、と。

全部自分で背負ってしまって、自分で解決しなきゃって思わなくていい。できないときは「助けてー」って周りの人に言えばいいのよ。

それなのに、「ええかっこしい症候群」があると、ヘルプ・ミーを言えない。つまり、「ええかっこしい」は、ピンチに陥ったとき、人間のマイナス要因になるんです。

山中:いやあ、勉強になります。

成田:もちろん自分で解決方法を思いついて行動できれば、それが一番ベストな方法だとは思います。でも、すべて自助なんて無理なんです。限界がある。

いま、コロナで経済的にだったり、精神的にもつらい人って少なくない。ぜひ「助けて」って声を出して、周りを頼ってほしい。

山中:ええかっこしない人のほうが「ちょっと手を貸してくれへんか?」って言えて、そこをきっかけにまた成長できるんやろうね。

成田:そうそう。常にええかっこしようとすると、ネガティブな事実や課題と向き合えない。すると、課題解決できなくなっちゃう。ヘルプを頼めるのは、人が生きてゆく力のひとつなのに。

家庭生活も仕事も結局はチームやし、役割分担もある。
※写真はイメージ(iStock.com/kokouu)
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山中:今、僕たちは患者さんに移植するためのiPS細胞を作ってて、その作業は、細胞を作るグループと、その細胞を評価するグループ、場所を管理するグループと、概ね3つくらいの集団で行います。

グループでの連携がうまくいっているときはコミュニケーションもとれるけど、たとえば、良い細胞ができなかったりすると、つまり結果が伴わなくなると互いに相手を責め合うようになってしまう。

成田:人も組織も、ピンチのときに真価が問われます。

山中:ほんとに。うまくいかないとき、どうやってフォローしあえるか。素直に「助けて」って言える感覚が大事だと思う。そこのところが、チームの分かれめです。

今の研究でも、チーム内でどれだけ密にコミュニケーションをとってるかだよね。自分からコミュニケーションをとりにいけるかどうか。

もし、そういうのが苦手な人がおったら、周りがどうカバーしてこころを開かせてあげられるか。そこやろうね。

面倒やとか、照れくさいとか、言わんでもわかるやろうとなると、なかなかわかり合えない。そこをスルーして突き進んでしまうと、よく言われるコミュニケーションミスというのが生まれるんです。

気持ちを言葉にする力を育てておく

成田:言ったつもり、わかったつもりが、結構大ごとになる場合は少なくありませんよね。

「たぶん大丈夫とは思うけど、最後確認させて」っていうのが大事。「そういえば別件のあのことですが、私こう思うんですけど」って、何か違う話から発展させるとうまくいったり。コミュニケーションは本当に大事ですね。

山中:その点、アメリカの組織はコミュニケーション力がすごいです。僕、いまアメリカでも活動していて。

コロナでもう1年以上行けていないのですが、あのポジティブなコミュニケーションが懐かしいです。お互いをとことん称え合う。「良くやった」「あんた、すごいね」って。

日本だと普段何も言わないのに、失敗したときだけ「何やってんの?」って口出ししがちでしょ?
※写真はイメージ(iStock.com/alvarez)
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成田:そうなると言われたほうは「はあ? 普段何にもおっしゃらないのに、何ですか?」ってなりますね。

アメリカは、Thank you for everyone とか、All of you とか、あるいは「誰々のおかげで」って名指しで感謝を口にするよね。花束買ってきたり、プレゼント贈ることもするし。

山中:心の中で常に感謝していても、やっぱり言葉にしないと伝わらない。僕の研究所でも普段から、感謝を伝えるようにしています。

成田:子育てもそんな空気感でやれると、子どもは幸せだと思うな。

両親の不仲が子どもに与える影響は、大人が思っているよりも相当大きいです。私自身がそうだったから余計わかる。

山中:そうやなあ。

成田:詳しいことは存じ上げませんが、山中君もうつ状態になったとき、周囲にSOSを出せたから解決できたのかな。

助けてくれへん? 手え貸してくれへん? って言える力があったってことでしょう。それは、何があってもご両親やご家族が自分を助けてくれるという安心感があったんだと思うのよ。

山中:それはあったかな。実際、僕が研究に追われてたから、家族には本当に支えてもらっていたよ。

成田:そこやん。「助けて」を言える力を育てるには、「いつでも助けるよ。大丈夫だよ」って周囲が伝えることです。

SOSは恥ずかしいことじゃない。あんた、ひとりで生きてるんとちゃうで! って伝えなくてはいけません。
※写真はイメージ(iStock.com/monkeybusinessimages)
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ええかっこしない子育てに「学歴」は関係ない

山中:僕自身が「まあ、そこそこでいいんじゃないの?」っていうところがあって。

娘二人とも結局は医者になりましたが、医学部を受験するときも、そんなに必死になって勉強して、すごくいい大学に行かなくてもいいんじゃないの? っていう感じで見てましたね。

娘たちに対して「入れるところに入ったらいいやん」っていう感じで。いい大学じゃないとだめとか、全然なかった。

成田:山中君自身もそうだったしね。ええかっこしない子育て、できてるやん。

山中:もうひとつ、自分が医者になって、いろんな人たちと出会った経験から得た結論というか、見方というか、そんなものも影響してるかな。

医者は、病気を「診る」んじゃなくて、人間を「観る」ものですよね。そうすると、お医者さんというのは、別に卒業した大学で決まらないなっていうのはすごく思う。
※写真はイメージ(iStock.com/byryo)
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成田:激しく同意します。

山中:17歳とか18歳って、めっちゃいろんなもんを吸収する時期じゃないですか。

そのとき自分が熱中しているものとか、譲れない何かを犠牲にしてまで必死で勉強する必要なんか、全然感じなかった。僕自身がね。だから、子どもにもあんまり無理させたくなかった。

まあ、手に職は絶対につけてほしいんですけど、別に医者じゃなくてもいっぱいありますからね。

成田:そうですね。女子は一般職しかありませんよ、なんて言われていた私たちの時代に比べれば、選択肢はぐっと増えているし。

親が過度に体裁を気にしなければ、子どもは自由に道を選べる。

山中:そうそう。親も子も、ええかっこして生きる必要はまったくないと思います。
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山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る
山中伸弥(著)、成田奈緒子 (著)
990円(税込み)講談社

2022年01月27日

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