【オーストラリア留学】子ども中心主義の国際バカロレア校「Preshil」

【オーストラリア留学】子ども中心主義の国際バカロレア校「Preshil」

フリーランス教育コンサルタントの萩原麻友さんが、短期・長期で小学生から入学できる世界各国の学校をセレクトする「世界の学校ガイド」。インターナショナルスクールやボーディングスクール、国際バカロレア認定校など、グローバルな環境に身を置いて子どもに学んでほしいと思う保護者に向け、特徴的なカリキュラムや費用などをご紹介します。第6回は、オーストリアのPreshil(プレスヒル)です。

萩原麻友
突然ですが「国際バカロレア(International Baccalaureate、以下IB)」ってご存知ですか?

IBとは1960年代にヨーロッパで生まれ、現在は世界158カ国における5,400校で導入されている国際的な教育制度です。近年、日本でもよく聞かれるようになりました。

IBの目的は、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」です。

日本に上陸した1979年からしばらくは外国語でしか実施されておらず、長らくインターナショナルスクールのためだけのカリキュラムという扱いでした。しかし文部科学省の後押しもあり、2010年代以降は私立や公立校でも導入が加速しています。きっと今後も増えていくでしょう。

でもIBと聞くと、なんとなく難しそうで敷居が高そうなイメージがありませんか?

実はIB校といっても多様な学校があります。今回はその中でも、オーストラリアにある「遊びと個性を重視する」「子ども中心主義」のIB校をご紹介します。
 
 

創立90周年の国際バカロレア(IB)認定校

今回ご紹介するのは、オーストラリアの南東にあるヴィクトリア州の州都メルボルンの住宅街にあるPreshil(以下、プレスヒル)です。

1931年の設立当初は初等部だけでしたが、1970年代には年少から高3まで学年が増えました。2016年に中等部がIB認定を受けたのを皮切りに、2019年からは小中高の全段階においてIB認定を受けている一貫校です。
 
 

国際バカロレア(IB)の目的

日本の学校教育では、文部科学省が「学習指導要領」に各段階ごとの目標や内容を定めています。

対して、IBはどの国や地域で教育を受けても、その後どこにいっても教育と学習が継続できるように「国際的に共通なカリキュラム」であることを目指しています。

そのためにIBでは、3歳から19歳までの教育を以下の4つのステージに分けて、それぞれのステージに「プログラム」と呼ばれるカリキュラムを設けています。
出典:https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/
出典:https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/
PYP(初等教育)とMYP(中等教育)には指導言語の指定がありませんが、DP(高校)は「原則」英語、フランス語またはスペイン語で実施することになっています。

ただし日本語でも実施できるDPの科目が少しずつ増えてきていて、今では日本のDP認定校のうち約半数が日本語でDP科目を実施できるようになりました。

*たまに「IB資格がないと海外の大学に出願できない」と誤解されがちですが、IBはあくまで資格のひとつであり、必ずしもそんなことはありません。ただし大学が独自の入試基準を持つこともあるので、実際の出願時はよく確認しましょう。

IBの各プログラムに共通していえるのは、思考力と表現力を高めるために「幅広く、バランスのとれたアカデミックな学習と学びの体験に触れる」機会を提供していることです。

全てのプログラムで、最後に卒論のようなプロジェクトを製作・披露する場があります。

プレスヒルは、上記のうちPYP、MYP、DPの認定校です。この3つは3歳から19歳までの年齢、つまり年少から高3までの全学年に対応しています。

このようなIB一貫認定校はまだ比較的珍しく、日本においてはまだ一校もありません。(2020年11月末時点で一貫”候補”校は存在します。)
 
 

オーストラリア最古の◯◯の学校

そんな希少なIB一貫校のプレスヒルですが、そもそもIBというとたくさん勉強するイメージが強いかもしれません。

しかし、実はプレスヒルは1931年の創立当時から創業者のマーガレット “グレタ” リトル氏の「子どもを中心とした教育方針(child-centered approach)」を強く引き継いでいます。

これはその当時に各国で展開された“新教育運動”に多大な影響を受けています。「子ども中心主義」という教育思想は、マリア・モンテッソーリやジョン・デューイ、ルドルフ・シュタイナーなども現役で活躍していたこの時代に生まれました。

そしてプレスヒルは、現存するその当時の「子ども中心主義」の学校としてはオーストラリア最古なのです。今でも、その思想は引き継がれています。

では果たして「IB」と「子ども中心主義」は両立するのでしょうか。

「子ども中心的」な探求が軸の初等教育

プレスヒルがIBを導入することを決めた理由のひとつは、IBの教育方針でした。それは、たとえば「問い」を立てて探究することや、創造力や表現力を磨くことです。

まずは、プレスヒルの初等教育で採用されているPYP(IBの3歳~12歳向けのプログラム)をもう少し詳しく見てみましょう。

PYPでは、生徒は以下の6つの教科横断的テーマについて探求します。
  • 私たちは誰なのか
  • 私たちはどのような場所と時代にいるのか
  • 私たちはどのように自分を表現するのか
  • 世界はどのような仕組みになっているのか
  • 私たちは自分たちをどう組織 しているのか
  • この地球を共有するということ
プレスヒルでは、このような問いを通じて生徒が自発的に知的な挑戦や探求を重ねるように仕向けます。各生徒は、自ら問いを立てること、意見を持つこと、責任感を持った活動家になることを奨励されています。
探求の主導権を先生と生徒のどちらが握るか、というのはIB校によっても多少違ってくるようですが、プレスヒルはあくまで「子ども中心的」な探求が軸であるため、学びに関する選択の多くは生徒に委ねられています。

先生が生徒に教えるような関係性というよりも、一緒に探求し思考を深めるパートナーのような関係にあります。

PYPではさらに以下の6教科を学習します。
  • 言語
  • 社会
  • 算数
  • 芸術
  • 理科
  • 体育
教科といっても、IBでは決まった範囲の知識を覚えることよりも、与えられた課題について考えたり表現したりする力を育てることが目的です。
プレスヒルでは上記に加えて以下の選択性プログラムも提供しています。
  • Philosophy(哲学)
  • French(フランス語)
  • Art(美術)
  • Library(図書室)
  • Music(音楽)
  • Creative Dance(創作ダンス)
多様な活動を通じて、生徒たちは協働したり、知見を広げたり、表現したりして学習者として育ちます。

自然を感じ創造性を育てるキャンパス

PYPももちろんですが、プレスヒルの初等教育をなによりも特徴づけるのはその「子ども中心」の哲学が現れる施設です。
現代の都会的な環境では難しくても、子どもにとっては必要な自然との触れ合い。

プレスヒルの構内には、小さな丘、林、船、菜園、茂み、小川、土と泥、ロープや工具など、五感を刺激する仕掛けが詰め込まれています。

そこにはアスファルトも芝もなく、土はむき出しで、あちこちに子どもが作ったと思われる溝や穴や山だらけです。

こんな子どもにとってのパラダイスで遊んでいるうちに、子どもたちは知的好奇心を満たし、身体能力を磨き、創造力を発揮しています。

学びと遊びを切り分けない

プレスヒルでは、「遊ぶのはおしまいにして、勉強の時間です」のような掛け声はきっと聞こえてきません。学びと遊びを切り分けないからです。

たとえば、子どもたちは「遊びのパートナー(play partner)」である先生と「プレイワールド(PlayWorld)」というスキームを通じて学びます。

プレイワールドは、同じ市内にある名門モナッシュ大学との共同研究をきっかけに取り入れられた幼児教育の方法です。学校内に物語のシーンが再現され、子どもたちは物語の人物になりきって課題の解決法を考えたり作品を作ったりします。その取り組み自体が、PYPの横断的テーマと深く関わっていたり、いわゆる科目知識に結びついたりしています。

プレスヒルでは、IBやプレイワールドなどの時代に合わせた手法を新しく取り入れながらも、創立当時の信念である「子ども中心」を貫いていることがわかります。

競争もなければリーダーもいない個人主義

もうひとつプレスヒルの特徴をあげるとすれば、個性を徹底的に尊重することです。

オーストラリアの学校では制服を採用していることが多いですが、プレスヒルは全学年私服。むしろ制服は、個性や選択の自由を否定し、ジェンダーを固定し、服従関係を形成するものとさえ考えています。

興味深いのは、プレスヒルでは個性の表現を奨励しながら、スポーツやリーダーシップの方面では勝ち負けや優劣がつかないように配慮していることです。

多様なスポーツ機会を提供して運動を推奨していますが、そこに「競争」を持ち込みたくないのだそうです。なので、学校対抗の部活動もありません。(やりたい子は外部でクラブチームに所属するそうです。)

プレスヒルでできる多様なスポーツは、フェンシング・テニス・テコンドー・水泳・ローンボウルズ(芝生のボーリングのようなもの)・漕艇・クロスカントリーランニング(長距離走)・サッカー・バスケ・クリケットなど。

また、「勝ち負け」や「優劣」をつけないという理由で役員などの学校内のリーダーシップやポジションも設けていないそうです。

ゴールは心の自立

競争や格付けがないからといって、決してたるんでいるわけではありません。その分、PYPの核である「私たちは誰なのか」「世界はどのような仕組みになっているか」といった「問い」に真剣に向き合っています。つまり、プレスヒルの生徒は失敗を避けるために頑張るのではなく、自らの考えを持ち、それを表現することに意欲を出します。

ソーシャルメディアなどの台頭により、子どもたちの自己意識が他者からの承認や肯定に流され、多様性や個性を表現する意欲が削がれる恐れがある。プレスヒルはそう考えているからこそ、あえて競争やリーダーシップを省くことで、すべての生徒が自分の意見を持ち、たとえそれが少数派であっても声を上げる勇気を持つことを奨励しているのです。

プレスヒルの初等教育――それはワクワクするような教育環境と「子ども中心」の哲学をベースとしたPYPの実践です。

小6を修了した生徒は、中1から近隣のセカンダリースクール(中等部)に進学します。そこでは、同じ哲学をベースにしながらも、より発展的で実践的なMYPとDPが待っています。

今回は初等部にフォーカスしましたが、プレスヒルはIBの一貫校として年少から高3まで、すべての生徒が自己認識と心の自立を目指せるようにサポートしています。

プレスヒルをすすめるとしたらこんな親子

どんな学校にも、子どもの向き不向きがあります。学校を選ぶときは、学校と家族と子どものことをそれぞれよく知る時間をたっぷり取ってベストフィットを見つけましょう。

もし私がプレスヒルをおすすめするとしたら、こんな親子です。(著者の主観です)

●競争や競争や序列はなるべく排除したい
●国際バカロレア教育制度に惹かれている
●遊び主導型の学びに惹かれる
●子どもの個性を認め、尊重したい
●従来型の教育や評価方法に疑問を感じている

学校の詳細情報

※取材当時(2021年1月時点のものです)

名称

Preshil The Margaret Lyttle Memorial School(プレスヒル・ザ・マーガレット・リトル・メモリアル・スクール)

創立年

1931年

学年

Kindergarten:年少〜年中
Primary(Prep-Year 6):年長〜小6
Secondary(Year 7-12):中1〜高3

児童数

285名

学費

[通学生(2021年度)]
Prep(年長):AU$17,500
Year 7(中1):AU$23,200
Year 12(高3):AU$27,600

※兄弟割引あり

所在地

オーストラリアのヴィクトリア州の州都メルボルンの中心地から5キロほど東のKewという街にあります。
395 Barkers Rd, Kew VIC 3101
https://goo.gl/maps/P5qFBscNnHsFzW7Q7

参考資料:
■IBとは | 文部科学省IB教育推進コンソーシアム
https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/

■認定校・候補校 | 文部科学省IB教育推進コンソーシアム
https://ibconsortium.mext.go.jp/ib-japan/authorization/

▶International education - International Baccalaureate®
https://www.ibo.org/

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萩原麻友

萩原麻友の執筆記事一覧(バックナンバー)

学校見学と図書館が好きなフリーランスの教育コンサルタント。元留学カウンセラー。東京大学教育学部卒。二児の母。インター歴7年、アメリカに4年単身留学していた帰国子女。子どもが自分より英語をできるようになった保護者から進路・教育相談をよく受けます。

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2021年07月14日

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