【教えて!高濱先生】受験を考えるのは何歳から?

【教えて!高濱先生】受験を考えるのは何歳から?

2021.05.04

Profile

高濱正伸

高濱正伸

花まる学習会代表

1959年熊本県人吉市生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。1993年「花まる学習会」を設立。「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、現在も現場に立ち続ける。2020年から無人島プロジェクト開始。ニュース共有サービス「NewsPicks」のプロピッカー/日本棋院理事/算数オリンピック作問委員/「情熱大陸」などTV出演多数

読者からお悩みを募集し、子育て、教育、健康など各分野の専門家にご回答いただく人生相談コーナー。今回は花まる学習会代表の高濱正伸先生が、教育に関するお悩みに答えます。お悩みはオンラインで随時受付中。

【お悩み】質の良い教育のために受験させるべきでしょうか

3歳男子のママ
3歳男子のママ

私も夫も地方育ちで東京の教育事情が分からず、子どもの今後の進路について悩むことがあります。

 

できるだけ質の良い環境で学ばさせたいと思っているのですが、東京では小学校から受験する方も多く、どうするべきなんだろうと考えてしまいます。

 

子どもが受験したいという意思を持っているなら別ですが、今の段階では小学校入学前から受験のための習い事など、子どもに心身ともに負担がかかるようなことはしたくないとも思います。

 

幸いにも、現在は東京都内でも良い教育を受けさせることができる地域に住んでいるので、公立でも問題ないのかなとは思っていますが、いつの段階から受験を考えるのがいいのでしょうか。

高濱先生の回答「何のために受験するのかを夫婦で考えましょう」

まず、小学校受験にしても、中学受験にしても、「よく分からないけど周りがしているから受験したほうがいいのかな」というのは、牛の群れが東に向かって走っていたら、とりあえず一緒に走ってしまうのと同じです。

 

走る群れの中にいるとき、お母さんたちは「自分はここがいい。群れのみんなと違う道でもいいからここにいよう」とはなかなか思えないんですよね。

 

まず、小学校受験については、したからといって勉強ができるようになるとか、能力が伸びるとかそういうことではないと思っています。

 

なぜなら、小学校受験の対策は、“お受験用の特訓”として面接対策がメインとなっていて、実際に面接官も、基本的に子どもの能力というより子どもと両親との関係性、つまり「家」しか見ていないからです。

 

たとえば子どもが面接で答えにつまったとき、お母さんが横から口出しをしたら不合格というケースはよく聞きますよね。

 

とはいえ、幼児期はまだ柔軟なので、特別デメリットもないと思っています。

 

次に、中学受験について。

 

僕はふだん、著名な教育家の方々と対談する機会があるのですが、その際に必ずといっていいほど上がるテーマです。

 

しかし、「子どもに将来こんな風になってほしい」とお母さんたちが思うような職業の方々を見てみるとどうでしょう?実際に一部上場企業の役員クラスまでのぼり詰める人には地方や公立高校出身者が多いですし、ノーベル賞の受賞者も9割以上が公立高校出身であることも分かっています。

 

では、なぜそこまでみんなが中学受験に血眼になるの?といえば、大学受験の合格率を上げるという観点で見るとメリットがあるからなのですね。

 

東大の入試レベルになると個人の底力が必要になるのでそうはいかないのですが、一般的には、早めの段階で試験対策の反応性を伸ばすような塾に行き、対策を始めておくことで大学受験の合格率を上げることができます。

 

また、私立の中高一貫校に行って、最後の1年は受験勉強だけやるようなやり方をすれば、有名大学への現役合格率も高くなります。

 

だからといって、公立中学・公立高校はだめなのかというと、そうではありません。

 

進学校に比べると、3年間勉強を詰め込まずにのんびりできる分、ハンデがあるので、一浪くらいはするかもしれませんが、大学を出たあとの活躍ぶりでいうと、一浪くらいしているほうが人間味もあります。東京も都立高校はかなり復活してきているし、「焦る必要はない」というのがわれわれプロの考えです。

 

もちろん中学受験自体を否定しているわけではありません。

 

早咲きの子同士が集まることで、レベルの高い同級生から刺激を受けるおもしろさは、僕自身も熊本高校時代に経験しました。

 

地元の公立中学では勉強ができすぎると変わった目で見られてしまうから、気を使ってできないふりをしていたという話は、地方の公立ではよくある話なんです。

 

また、中学受験の場合、昨今は「小学3年生の10月頃には決めなければ間に合わない」「小学3年生でも遅い」といわれていますが、その時期の子が受験に向いているかどうかは正直プロでも見極められません。

小3の時点では「この子は高校受験のほうが伸びるだろうな」と思ったけれど、小6くらいになって「あれ、やっぱりいける?」と感じて、そこから受験対策を始めることは、実はよくあるのです。特に小3くらいの男子なんて、毎日元気に飛び回って遊んで、「受験」なんてできるのかな?と思ってしまうような雰囲気の子がほとんどですよね(笑)。

 

ただ、思春期にさしかかり、頭が大人モードに切り替わる小学6年生くらいになると、振り返りや計画など完全に主体的な学習ができるようになるものです。

 

だからこそ、子どもの受験を考えるときに大切なのは「何のために受験するのか」ということを親が明確にしておくこと。

 

冒頭で話した「牛の群れ」の例で言えば、周囲の流れや感覚に流されるのではなく、子どもが小学1、2年生の頃から情報を収集して、夫婦でよく話し合ってみましょう。

 

お母さんは特に、周囲の人たちに「お受験しないの?」と聞かれると焦ってしまい、反対にお父さんは「受験なんてしなくていいよ」と水をかけたりして、夫婦の意見が一致しないままの状況は問題です。

 

また、もし中学受験をしないという選択をしたとしても、語学やスポーツなど、何かひとつ、その子の軸を持たせるだけでも大きな力になりますし、非認知能力を伸ばすための時間に使ってもいいでしょう。他のことをがんばる子は勉強も伸びますからね。

 

そう考えると、受験は「するかしないか」の決断だけで、子どもが伸びる・伸びないは必ずしも連動しないというわけです。

 

僕はこれまで何万人と子どもたちを見てきましたが、中学受験の有無は18歳になったら受験の合格が1年早まる程度で、それ以外は差はありません。

 

公立校には公立校の良さが、私立校には私立校の良さがあります。中学受験をするにしても、子どもがどんな学校に適性があるのかは見極めなければいけません。

 

そのために、夫婦は周りに流されないで「何のために受験をさせたいのか」を考えて話し合うこと、そして子ども自身はそれに主体的に取り組めるかどうか、これが一番大切なのではないかと思います。

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高濱正伸

1959年熊本県人吉市生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。1993年「花まる学習会」を設立。「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、現在も現場に立ち続ける。2020年から無人島プロジェクト開始。ニュース共有サービス「NewsPicks」のプロピッカー/日本棋院理事/算数オリンピック作問委員/「情熱大陸」などTV出演多数

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