「熱を出した子どもを保育園に預けることができず、会社を休んで看病したら仕事をやめることになってしまった」というある母親の話をきいたことから、訪問型病児保育事業の立ち上げを決意した、認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さん。今回の取材では、母親が直面する子育てと仕事の両立についてお話をうかがいました。
「子どもが病気になったら看病する」。これは親としてはもちろん当然のことで、病気の子どもを看病してあげたい気持ちは誰よりも母親が強いかもしれません。
でももしその日にどうしても抜けられない大事な仕事があったら…自分にしかできない社会的な活動があったら…母親はどうしたらいいのでしょうか。
実家が近ければ、病気の子どもを両親にお願いできるかもしれません。でも、それ以外の選択肢を私たちは持っているのでしょうか。
そんな母親の選択肢を広げてくれた認定NPO法人フローレンス(以下、フローレンス)には、こんな思いがあります。
フローレンスは病児保育だけではなく、待機児童問題を解決するための「おうち保育園」や障害児保育園「ヘレン」など、「親子の笑顔をさまたげる社会問題」に焦点を当てて事業展開している団体です。
子育てと仕事の両立は、私たち母親にとっては重大なこと。そこで今回の記事では、病児保育についての素朴な疑問とともに「母親が働くことがあたりまえの社会」について駒崎さんの思いをうかがってきました。
「子どもが風邪をひくと、保育園で預かれないわけですよね。親としては会社を休んで看病するしかない。今って雇用情勢も厳しいので、非正規だと仕事を休んだら失業につながる可能性もあります。
自分の母親がベビーシッターをしていたので、そういう現実を垣間見てちょっとおかしいんじゃないかなって感じました。親が看病するという普通のことによって職を失ってしまうなんて。
そこで、病気の子どもを保育できる仕組みを作ろうと思ってフローレンスを立ち上げたのが13年前です」(駒崎さん)
フローレンスの病児保育は、働く母親にとって心強い味方なんですね。
同時に、今日の取材で驚いたのは、現場で働く保育士さんたちが「残業が1日平均20分」だということ。代表の駒崎さんご自身はどのような働き方をされているのでしょうか。
「残業はせず、定時退社です。6時に終わって7時ぐらいに家に着いてごはんを食べます。
それから子どもをお風呂に入れて、上の子の明日の準備と宿題見て、最近小学生になったばかりの下の子の音読や時間割りも一緒に確認したりしますよ」(駒崎さん)
駒崎さんご自身も仕事と子育てのバランスをちゃんと考えて、日々お子さんと向き合っているようです。その姿勢が「働き方」の問題解決も目指すフローレンスの事業に活かされていることを感じました。
せっかくの機会なので、病児保育について母親からの素朴な疑問に答えていただきました。
質問:病気の子どもにとって、預けられることは負担にならないのでしょうか?
「病児保育には、訪問型と施設型があります。訪問型は利用者のご自宅に行くサービスで、施設型は施設に子どもを連れていって受けるサービスです。
子どもの負担になりにくいのは訪問型で、子どもにとって自宅は安心ですし負担はないのではないでしょうか。施設は初めての場所で慣れなかったり心理的負担はあるかもしれません。
フローレンスでは、お子さんが安心できる自宅訪問型の病児保育をしています」(駒崎さん)
質問:駒崎さんはどんな時に病児保育を利用するのですか?
「熱が出たりしたら積極的に預けてます。もちろん、親が看病してあげるべきというのは前提ですけれど。
僕の経験なのですが、この前4歳の子どもが胃腸炎で保育園を休んだんです。でも、胃腸炎でもわりと元気なんですよ(笑)僕がこの子を8時間見るとなると、やっぱり大変だなって感じました。ついDVDを見せちゃったりするでしょうね。
でもうちの病児保育士たちはテレビも見せずに、その子の個性に合った遊びをしつつ、しっかり体を休ませるんです。楽しいから子どもも喜びます。
どっちが子どもにとっていいのか、親がやるのかプロがやるのかを考えると、やっぱりプロがいいんじゃないかって思います」(駒崎さん)
質問:どんな病気でも預かってくれるのですか?
「もちろん、重症だったり入院が必要なお子さんは預かることができません。でもインフルエンザ、胃腸炎、水ぼうそうなどすべての疾病でお預かりできます。
マンツーマンのお預かりを実施しているため、二次感染の心配もありません。ただ、はしかだけは空気感染するのと重症化しやすいという理由でお預かりはしていません」(駒崎さん)
駒崎さんのお話をきいていると、たしかに子どもが病気の時に(よほどの重症じゃない限りでは)プロにおまかせできるのは安心かも…と感じました。
仕事があっても、子どもが病気でも、その対応もすべて母親が無理して乗り越えなければならない状況が、本当に「あたりまえ」なのかについても、改めて考えるきっかけになりました。
駒崎さんはそういった問題を解決するための仕組みづくりに取り組んでおられますが、それに対してひとりひとりの母親ができることがあるのでしょうか。
「母親はもっと怒っていいと思います。子育てをしていて感じる矛盾を声にするべきです。
子どもの病気も保育園待機の問題もそうですが、悩む時間が期限つきだから"自分がちょっとガマンすればいい"ってみんなその場を凌いで(しのいで)いるのかもしれませんが、それでいいのでしょうか。
それではなにも変わらないから、ガマンしちゃだめなんです。声を上げるのはとても大事なことです」(駒崎さん)
駒崎さんの言葉をきいて、筆者は少し考え込んでしまいました。私がガマンすることで、次世代の母親たちに同じガマンを強いることになる…。このままではなにも変わらないのではないか、と。
それに対して、私たち母親ができることは、実はたくさんあるのかもしれません。子育てのこと、仕事のこと、家事のこと。すべての両立を日々考えている母親だからこそ、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
今一度、自分の子育てやそれを取り巻く社会の問題について、考えてみませんか?
2017年06月01日
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