「家族ごと苦しめ」「叩かれて草」マナー投稿で大炎上…10年で売上200倍のネクタイ工場が見たSNSの光と影
従業員12人の縫製工場社長はそれでも毎日投稿し続けた
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岡山県津山市にある創業57年の小さな縫製工場、笏本縫製はかつて、多額の借金を抱え、職人の給料を払うのもやっとだった。先代社長だった母の反対を押し切り入社した笏本達宏さんは、下請け中心だった同社で、自社ブランドのネクタイを立ち上げる。初年度は30本しか売れなかったという「SHAKUNONE(笏の音)」のネクタイは、どのように工場の危機を救ったのか。フリーライターのメリイ潤さんがリポートする――。(後編/全2回)
夢の自社ブランドが全然、売れない
笏本達宏さんは、岡山県津山市で1968年創業の縫製工場の3代目だ。従業員は12名。2008年に、先代社長だった母からの「私の代で潰すから、お願いだから継がないで」との大反対を押し切って、美容師を辞めて入社した。そして、下請けの仕事がメインだったネクタイ工場で、自社ブランドを立ち上げたのが2015年。
大量生産によるコストダウンを目指し、衣料業界全般が物価の安い海外へ生産拠点を移転する時代、日本国内で販売される衣料品に占める国産品の割合は、わずか1.4%だという。
笏本縫製が販売する自社ブランドネクタイは、完全なる日本製。機械の進化が進むなか、職人の手仕事に頼る。全工程を自動化することも可能だが、昔ながらの低速織機で、細い糸をゆっくりと力強く織り上げることでしか表現できない風合いがある。生地は、柔らかな質感と光沢のある京都の西陣織のシルク生地。高密度で美しく、深みのあるネクタイに仕上げる。
祖母が立ち上げた家業は、下請の縫製工場だった。下請といえど、有名ブランドやスポーツの日本代表のネクタイも手がけていた。2015年、約50年積み重ねてきた最高品質の技術を詰め込んだ、自社オリジナルブランド「SHAKUNONE(シャクノネ)」を立ち上げた。
「いいものさえ作っていれば、誰かが見つけてくれて、必ず売れる」
そう信じ込んで販売を開始した自社ブランド。
しかし、その考えは幻想だと気付かされる。