「翔平に僕は何も教えていません」元監督・栗山英樹さんが断言「日ハムの大谷」が「世界の大谷」になれたワケ
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ドジャースの大谷翔平選手は、なぜ「世界の大谷」になれたのか。北海道日本ハムファイターズと侍ジャパンの監督を務めた栗山英樹さんと臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺さんの著書『運を味方にする人の生き方』(致知出版社)から紹介する――。
栗山英樹「自分はダメな選手だった」
【横田】栗山監督はいつもサインを頼まれると、「夢は正夢」と書かれていますが、夢を正夢にするためには何が大切だと思われますか?
【栗山】「ああなりたい、こうなりたい」と誰しも夢を描きますよね。でも、「こうなる」「こうする」と言い切れる選手は意外と少ないんです。先ほど自分しかスイッチを入れることはできないと言いましたけれど、自分が本気で「なる」と決めれば、今日何をしなければならないのかが具体的になり、練習もこれだけはなんとしても絶対にやる、という信念を持ってぶれなくなります。そして、自分で決めたことを自分でやり切る体質をつくっていくことができます。「なりたい」と「なる」の違いというのは、この差じゃないでしょうか。
【横田】「なりたい」と思うのと「なる」と言い切るのでは全然違うわけですね。
【栗山】そうです。僕はテスト生からプロに入ったんですけど、あまりのレベルの差にすぐに自信をなくしてしまいました。能力も全然足りなかったし、ダメな選手でした。その中でたった二人だけ、僕のことを認めてくれた人がいました。一人はスワローズの二軍監督をしていた内藤博文さん、もう一人は内藤さんから紹介してもらった整体の先生です。
「正夢にする」努力をしなければならない
一年目の秋に、内藤さんがその先生に、「ちょっと栗山をなんとかできないか」と相談したようなんです。で、お会いしたときに言われたのが、「夢を持つのはいい。ただ、正夢、つまり現実にできなければなんの意味もない。努力しても形にならなければダメなんだ。現実にしろ。私は君ならできると思って言っている」という言葉でした。
誰しも夢を持って、そこに憧れて努力していればそれでいいと思っているけれど、それでは意味がない。夢を現実にしなければ頑張っている甲斐がない。そう厳しく説き諭してくれたんです。
【横田】「夢は正夢」という言葉には続きがあるんですよね。
【栗山】「夢は正夢 歴史の華」です。要するに、やり切って夢が正夢になったときに、一人ひとりの人生が輝き始める。そうすると歴史に名前は残らなくても、誰かがその姿を見て頑張ろうと思ったり、周囲にプラスの影響を与えることができる。たとえば、そういう夢を正夢にしようとする先人の努力の積み重ねによって、日本の歴史というものも続いてきているんだと思います。だから、ぼーっと夢を見ているだけじゃダメなんですね。夢を正夢にするために努力をしなければならない。具体的に行動をしなければならない。そういうことだと僕は思っています。
僕自身、誰にも相手にされなかった中で信じてくれる人がいたことが何より嬉しく励みになりました。そしてこの言葉がスッと入って、絶対に試合に出てやると思ったときに、吹っ切れて練習に取り組むことができました。その結果、3年目に初めて開幕一軍を勝ち取り、5月末に初のスタメン出場を果たすことができたんです。