日本人の生活が苦しいのは社会保険料のせい…企業の賃上げを無効化する「ステルス増税」の中身
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賃上げが叫ばれても手取りはどんどん減るばかり。いったい誰が悪いのか。新著『新・貧乏はお金持ち』を上梓した作家の橘玲さんは「この国では“頑張って働く”サラリーマンは国家に惜しみなく奪われる。この罠から逃れるには、〈貧乏はお金持ち〉戦略しかない」という――。(第1回/全3回) ※本稿は、橘玲『新・貧乏はお金持ち』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
16年のあいだに、話は「あべこべ」に…
このたび上梓した『新・貧乏はお金持ち』は、2009年6月に講談社から刊行され、2011年3月に講談社+α文庫に収録された『貧乏はお金持ち』の内容を新しくしたものだ。
幸いなことに親本は多くの読者を得ることができたが、それでも新版にしたのには理由がある。この16年のあいだに、話があべこべになってしまったのだ。
マイクロ法人は私の造語で、取締役一人か、役員が家族のみで構成される最小法人のことだ。自営業者が法人化すると、「個人」と「法人」のふたつの“人格”を持つことができる。
本書は「一人なのに二人」というこの不思議について書いているが、それを税・社会保険料コストの(合法的な)軽減に利用する場合、親本刊行当時の一般的なアドバイスは、「法人を赤字にして個人で納税する」だった。それがいまでは、「個人の所得を下げて法人で納税する」に180度変わってしまった。
令和のいまは個人より法人で納税したほうが有利に
その理由を詳述したのが本書だが、簡単にいうと次のようなことだ。
法人側の変化としては、「日本の法人税率は世界的に高い」という批判から、30パーセントだった法人税率が2012年から18年にかけて段階的に23.2パーセントまで引き下げられた。
さらに、資本金1億円以下の法人は課税所得800万円以下の部分について22パーセントの軽減税率が適用されていたが、世界金融危機を受けて2009年に18パーセントに、次いで東日本大震災からの復興を名目に12年に特例として15パーセントまで引き下げられた。また地方法人税も、(東京都の場合)本則は7パーセントだが、課税所得800万円以下で5.3パーセント、同400万円以下で3.5パーセントに軽減されている。
その結果、親本では「マイクロ法人の(国税と地方税を合わせた)実効税率は30パーセント」としていたのが、現在の実効税率は最低で18.5パーセントまで下がっている。
それに対して個人所得税は、課税所得に対して5パーセントから最高45パーセントの累進課税で、住民税(東京都)の所得割は定率の10パーセントだから、実効税率は15パーセントから最高55パーセントだ。
そうなると、ほとんどの場合、個人よりも法人で納税したほうが有利になるだろう。これが「あべこべ」になった第一の理由だ。