なぜ不景気の中国で「ハイテク株」が絶好調なのか…「WeChat」にあって、「日本のLINE」に決定的に足りないもの
Profile
中国のメガテック企業群「セブン・タイタンズ(巨人7銘柄)」に注目が集まっている。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「その中でも中国時価総額トップ企業、テンセントの進化がめざましい。生成AIをめぐる世界的競争の潮流を捉え、一気に攻勢を強めている」という――。
中国株「セブン・タイタンズ」の躍進
AIスタートアップ企業「DeepSeek(ディープシーク)」の成功を機に、中国の主力ハイテク株が再評価されはじめている。
特に仏金融大手のソシエテ・ジェネラルが「セブン・タイタンズ」と名付けたテンセント、アリババ、シャオミ、BYD、網易(ネットイース)、JDドットコム、SMICの7社は軒並み好調である。
これらは米「マグニフィセント・セブン(壮大な7銘柄)」より高い時価総額増加率を示し、半導体受託製造中国最大手のSMIC(約5000億香港ドル=約9兆円)は米インテル(約1000億ドル=約15兆円)に急接近するなど、米制裁を逆手に取る動きも目立つ。
6年前に拙著『GAFA×BATH』(日本経済新聞出版社)を上梓した時点では、中国のメガテック企業「BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)」が米国「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」に迫る勢いを見せていた。しかし、その後の中国政府によるテック企業への締め付け、とりわけアリババの分割要請は同社に大きな打撃となり、その時価総額は大幅に目減りしてしまった。
テンセントの戦略を「孫子の兵法」で読み解く
一方で、テンセントは「国家的プラットフォーム」と評されるほどに成長を続け、現在では「セブン・タイタンズ」の中でも時価総額トップの座に君臨している。さらに、生成AIをめぐる世界的競争の潮流を捉え、一気に攻勢を強めている。
中国トップ企業であるテンセントは今、どのように進化しているのか。そして、何をもくろんでいるのか。本稿では、テンセントの戦略を「5ファクターメソッド」というアプローチで分析する。
このメソッドは、中国の古典的な戦略論である「孫子の兵法」の中でも特に重要な要素「五事」について、筆者が現代マネジメントの視点から再構築したものだ。五事とは「道」「天」「地」「将」「法」のことであり、孫子は戦力の優劣を判定するカギとしてこの5項目を挙げている。