「まひろがラストシーンで言う台詞は早々に決まっていた」大石静が語る『光る君へ』の最終回と"3つの密通"
Profile
「まひろがラストシーンで言う台詞は早々に決まっていた」大石静が語る『光る君へ』の最終回と“3つの密通”(大石 静/文藝春秋 2025年1月号)
12月15日に最終回を迎えるNHK大河ドラマ『光る君へ』。脚本を担当する大石静氏が、オファーを受けた経緯からラストシーンの秘話までを語った。
◆◆◆
史上最速で脚本を仕上げた
私は、物心ついたころから大河ドラマはほとんど見てきました。昔はテレビ受像機は高価なもので、テレビから流れて来るものは、何でもありがたい気持ちで見たものです。家の一番よい場所に置かれたテレビを、家族で正座して見ていました。大河ドラマも相撲もニュースも。
初めて大河ドラマの脚本を頼まれたのは2006年の『功名が辻』。土佐の山内一豊と妻・千代が主人公で、上川隆也さんと仲間由紀恵さんが演じました。司馬遼太郎さんの同名小説が原作でしたが、それだけでは数回で終わってしまうので、ほとんどオリジナルに近かったです。ただ、戦国時代は基礎知識がありますから、平安時代のドラマを書くよりはずっと楽でしたね。
この時は放送中の6月に最終回を書き上げていました。「史上最速です」とスタッフに褒められました。もちろん脚本が遅れて現場に迷惑をかけさえしなければ、早いことより、作品を面白く仕上げることの方が価値はある。ただ、脚本が早く仕上がれば、一つのセットで撮るシーンをまとめて撮影できたりもする。この時は私一人で制作費を二、三千万円黒字にしたと自負しています。
NHKでは『ふたりっ子』(1996年)、『オードリー』(2000年)と、朝ドラの脚本を書いたこともありましたが、個人的には朝ドラのほうがつらかったかもしれません。放送期間は朝ドラが半年、大河が1年ですが、脚本の分量はほぼ一緒。朝ドラは短期間に凝縮されているので、毎日100メートル走をさせられている感じで苛酷でしたね。
それもあって『功名が辻』が終わった後は「また大河やりたいです!」とNHKの人にずっとアピールしていました。でもなかなかお声がかからず、だんだん年も取ってきたので、人生計画から大河ドラマを消しました。
ずっと石田三成を主人公にした大河を書いてみたいと思っていたのですよ。三成は官僚的な性格で、武闘派から嫌われる理由も良く分かりますが、あんなにも豊臣秀吉への忠義を貫いた人はいません。他の武将は、秀吉から可愛がられていたけれど、関ケ原で次々と寝返っていった。いつか三成を大河の主役にしたいと思っていました。
それだけに「紫式部の物語で」という話が来た時は、驚きましたし、悩みました。私はいつも、仕事は即決なのですが、今回は、一度は断ろうとも考えました。平安時代なんて誰が見るんだろうと思ったからです。でもチーフ演出の中島由貴さんが、私のこれまでの作品をあれこれ見てくれていて、「紫式部を描くなら、大石静がいい」と言ってくれたことを聞き、NHKの偉い人ではなく、現場から私の名前があがったことに胸打たれ、断ったらバチが当たるなと思って、この一か八かの企画を受けたんです。