「AIはあくまで道具」。クリエイティブな活動こそが人間のやるべきこと

「AIはあくまで道具」。クリエイティブな活動こそが人間のやるべきこと

親世代とは違い、生まれたときからAIが身近に存在し、この先も進化するAIを当たり前に使いこなすであろう子ども世代。そんな子どもたちに、AIとの付き合い方を、親が教えてあげられることはあるのか。また、AIの進化のスピードはすさまじいが、この先の社会はどのように変わっていくのか。AIを研究する札幌市立大学学長の中島秀之先生にインタビューを実施した。

AIが台頭し、変化が著しい現代。子を持つ親は、これからどんな時代がやってくるのか、これまでと同じ価値観で子育てをしてもよいのか、迷い悩むだろう。

実は、AIの歴史は古く、人工知能という言葉は1950年代につくられている。その後、何度かの人工知能ブームを経て、2022年11月にチャットGPTが登場し、世界をにぎわせたことは記憶に新しい。

現代の子どもたち、これから生まれてくる子どもたちは、AIネイティブとして、私たち大人とはまったく違う世界を生きていくことだろう。私たち大人は、そんな子どもたちとどのように向き合っていけばよいのだろうか。

本記事では、日本におけるAI研究の第一人者である、札幌市立大学学長の中島秀之先生に話を聞いた。


札幌市立大学学長 中島秀之先生

1983年東京大学情報工学専門課程修了(工学博士)。同年電総研入所。2001年産総研サイバーアシスト研究センター長。2004年より2016年まで公立はこだて未来大学学長および理事長。2016年同名誉学長ならびに東京大学大学院情報理工学系研究科先端人工知能学教育寄付講座特任教授。2018年4月より公立大学法人札幌市立大学理事長および学長就任。株式会社未来シェア取締役会長。2019年「情報化促進貢献個人等表彰」経済産業大臣賞を受賞。

親の理解を超えたことを、子どもに「教える」ことはできない

ーー私たち一般人から見ても、昨今はチャットGPTの登場など大きな変化が起きていると感じますが、AIを長年研究している中島先生から見て、いまの社会は予想どおりなのでしょうか?

中島先生:いいえ。我々AIの研究者も予測ができないほどに、AIは速いスピードで進化しています。2016年に、AIが囲碁の世界チャンピオンに勝ちましたが、その分野の研究者は、あと10年程はAIが人間に勝つことはないと考えていたそうです。チャットGPTの登場に関しても、まだ少し先のことだと我々は思っていました。


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※写真はイメージ(iStock.com/jxfzsy)

ーー専門家でも予測ができないほどなんですね。

中島先生:そうです。だから、AIがますます進化した未来にはどんな世界が待ち受けていて、子どもたちはどうやって生きていくのか、親としては気になるテーマだと思いますが、それは誰にもわかりません。

そもそも、AIネイティブであり、当たり前にAIを使いこなすであろう子どもたちと、親世代ではAIに対する理解・認識がまるで違います。自分が理解できないことは、教えることができなくて当然なので、親は「AIについてどうやって教えよう」などと不安に思う必要はないのです。この先、今以上に親世代が理解できないことがどんどんと起こってくるのですから。

親がすべきことは、環境を整え、「型」を教えること。生きるうえでの「型」とは、道徳観や生きる喜びを知ることです。型を伝えたうえで、未来の社会にどのような能力が必要なのかは親世代には予想ができないし、あとは子どもを信じて任せるしかないのです。


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※写真はイメージ(iStock.com/StockPlanets)

外国に行ったときに外国語を覚えるのは子どものほうがはるかに早いし、新しいおもちゃがあれば大人が思いもしない方法で子どもは遊んだりする。新しいものに対応する力は、自分たち大人よりも、子どもたちのほうが優れているんですよね。

変わる学校教育。AIが先生になる?

ーーそれでは、学校教育はどうなっていくのでしょうか?

中島先生:学校教育はすごく変わっていくと思います。教育には大きく分けてリベラルアーツと専門教育の2種類があります。リベラルアーツ教育は、クラスでのディスカッションを通して、考え方、伝え方、道徳などを学んでいくのがよいと思います。


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※写真はイメージ(iStock.com/Milatas)

一方で専門教育は、いずれAIが教えるようになるのではないでしょうか。これまでの、ひとりの先生対何十名の子どもという構造では、できる子・できない子を相手にすることは難しく、平均的なレベルで進めていくしかできませんでした。

これがAIによる教育になると、個人の能力に合わせて進めることができるようになるので、専門教育に関しては、今より画期的によくなると思います。

新しい技術が出てくると、それが人類の進歩を止めるのではないかと危惧する意見が必ず出ます。電卓が普及し始めた時代には、「みんな計算ができなくなるんじゃないか」などと言う人も多かったですが、歴史的にそのようなことは一度も起こっていません。


楽になるなら仕事を奪われるのは本望

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※写真はイメージ(iStock.com/onurdongel)

ーーAIの話題では、AIに取って代わられる職業が多く、残るのはクリエイティブな職業やソーシャルワーカーなどとよく言われていますよね。

中島先生:クリエイティブな仕事は当然残るし、それが本来人間がやりたいことではないでしょうか。

「仕事を奪われる」などという言い方がありますが、仕事を代わりにやってもらえるなら楽でいいですよね? 昔の例でいうと、お百姓さんが土を耕すのは重労働だったので、耕運機が出てきてすごく楽になりました。これを、「仕事を奪われた」とは言わないはずです。

ーーたしかにそうですね。なぜかAIに関しては「奪われる」という言い方をしますが、仕事が楽になるならむしろ奪われてもいいですよね。


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※写真はイメージ(iStock.com/gremlin)

中島先生:そうなんです。たしかに、仕事自体がなくなってしまう職業もあります。たとえば、自動運転が当たり前の社会になるので、運転手さんはいなくなります。そういう意味で、他の職業を探さないといけないという不安はわかりますが、人間の生活活動全般で見ると、ごく一部の問題なのです。

今の日本の考え方では仕事=収入だから、仕事がなくなる不安というのは、つまり収入がなくなる不安です。多くの会社では残業手当があり、残業をすると収入が増えますが、残業をしないで収入が増えるのであればそのほうがいいですよね? もっとそういう考え方をしたほうがよいと私は思います。

AIが人間に代わって仕事をして生みだされたお金から税金を取り、それをみんなで分けたらいい、という考え方もあります。ベーシックインカムという言葉もありますが、AIで生産性が増えた分、みんなで利潤を均等に分けたらどうか、そのような考え方に社会として変わっていくべきではないでしょうか。


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※写真はイメージ(iStock.com/Moarave)

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やりたいことを決めるのが人間

ーー私たち親世代はAIについて教えてもらう機会はあまりありませんが、やはり知っておいたほうがいいのでしょうか?

中島先生:そうですね。学んでみたいという気持ちがすごく大切です。チャットGPTが登場したのは2022年11月で、まだ1年強しか経っていないのですが、世の中はガラッと変わってきていますよね。そういう意味では、親も学び続けないといけないのはたしかです。

AIの技術的な細かい仕組みまで学ぶ必要はありませんが、大体どのような仕組みで動いていて、何ができるのかくらいは知っておいてほしいですね。


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※写真はイメージ(iStock.com/kitipol)

ーー子どもに置いていかれないように親が学ぶには、どのような方法がありますか?

中島先生:チャットGPTを軽く触ってみるだけではなく、生活のいろいろなことに活かせるように使ってみることはおすすめです。プロンプト(質問文)を上手に書くと、いろいろなことができますから。

たとえば、エクセルの数式を書くのは苦手な人が多いと思いますが、数式をチャットGPTに作らせてみたり、それを使って家計簿をつけてみたり、まずは身近なことからやってみたらどうでしょうか。

google検索でも上手い人・下手な人がいるように、プロンプトを書くのにもコツが必要です。いろいろ試しながら、勘所をつかめるように訓練してみたらいいと思います。


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※写真はイメージ(iStock.com/)PeopleImages

ーー中島先生は日常生活でチャットGPTを使っていますか?

中島先生:はい。たとえば私は、以前は年賀状の挿絵を自分で描いていたのですが、今年はチャットGPTで描いてみました。やはりコツが必要で、「辰の絵を描け」と言うだけでは思い通りにはならないのです。「角はもっと鋭くしなさい」とか指示を工夫しながら繰り返していくことで、けっこういい絵ができましたよ。

チャットGPTと会話をしながら、自分の望むものを作ってみるというのも楽しいですよ。大事なことは、やりたいことは何なのかを決めるのは人間、ということです。やりたいことだけわかっていれば、実際にはAIがやってくれる世界なので。

ーーわからなくても自分で使ってみる人と、何もしない人とでは、差がどんどん開いてしまいますね。


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※写真はイメージ(iStock.com/kokouu)

中島先生:そうですね。ただ、AIを使いこなすことを「AIとの共生社会」などと言いますが、AIはあくまで道具だということを忘れないでほしいと思います。共生ということは、AIを擬人化してしまっているような気がするのですが、それはやめたほうがいいです。

AIを使っているのはあくまで我々人間です。囲碁や将棋では、もう人間がAIに勝つことは絶対にありません。でも、棋士という職業がなくなったかというと、そんなことはないですよね。棋士の方たちは、新しい道具が出てきたと喜んで使い、AIがあることで、より強くなっています。そういう世界を目指したらよいのではないでしょうか。


生きる喜びはAIにはない

ーーレイ・カーツワイル博士が言った2045年に人間がAIに越されるという「シンギュラリティ」は実際に起こるのでしょうか?

※シンギュラリティは、日本語では「技術的特異点」と訳される言葉。コンピュータの計算能力が人間の脳を超えてしまうタイミングを指し、未来科学者のレイ・カーツワイル博士は「2045年に訪れる」と予測している。


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※写真はイメージ(iStock.com/metamorworks)

中島先生:おそらくは2045年より早まると思いますが、遅くなるかもしれないし、やってこないかもしれないし、それはわかりません。ただ、ひとつ確かなことは、AIの進化は指数関数的に加速しているということ。

とはいえ、シンギュラリティの議論は、脳の計算能力とコンピューターの計算能力を比較した、数字の上だけの話です。人間の脳のシュミレーションさえできれば、人間と同じことができるという前提で書かれています。しかし、私は「人間の生活の部分を忘れていませんか?」と思うのです。

2045年を目途に、AIの技術的能力は人間と対等になるかもしれないけれど、たとえばバレエを踊るとか、絵を鑑賞するとか、晩酌を楽しむとか、そういうことも人間の生活においてはとても大事な要素ですよね。そういう意味で、AIが人間を超える存在になるという話ではないと思います。

ーー親や今の社会が、次の時代を生きる子どもたちに伝えていくべきことはなんでしょうか?


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※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)

中島先生:道徳や、人それぞれの価値観・生きる目的は、AIにはない、人間だけのものです。食べる喜びや、生きる喜びをちゃんと考え、そこだけは忘れないようにしましょう、と伝えていきたいです。

また、生活に関することはやはり親が教える必要があると思います。たとえば料理の仕方や衛生に関することなどは、生きることに直結していて、体験してみないと身につきません。生活のなかで親子でいっしょにやってみるなど、子どもたちに残していきましょう。


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