家庭の政治教育は中立である必要はない【たかまつなな】

家庭の政治教育は中立である必要はない【たかまつなな】

2022.07.06

子どもをとりまく環境が急激に変化し、時代が求める人材像が大きく変わろうとしている現代。この連載では、多様化していく未来に向けて、これまで学校教育では深く取り扱われなかったジャンルに焦点を当て多方面から深掘りしていく。今回は、時事YouTuberのたかまつなな氏に話を聞いた。

若者の政治離れが取りざたされる昨今、選挙権年齢を18歳以上に引き下げるなどさまざまな対策が講じられている。

しかし、10代、20代の投票率の低さはいまだに改善されず、総務省の「衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移」によると、令和3年10月に行われた衆議院議員総選挙では、10代が43.21%、20代が36.50%と各世代の投票率ワースト1位、2位となった。

「選挙に興味がない」「行っても意味がないと思う」そんな若者たちの声もある中で、子どもに一票の価値をどう伝えればよいのだろうか。また、政治的中立性という観点で親はどこまで子どもの政治参加に介入してよいのだろうか。

そこで今回は、若者の政治参加に向けた社会的な活動を行う方々にインタビューを実施。

第二弾は、時事YouTuberのたかまつなな氏。政治や教育現場を取材し社会問題を伝える活動をしながら、お笑い×政治の出張授業を全国の学校や企業、自治体に届けている「株式会社笑下村塾」の代表も務める彼女に、政治教育の在り方について話を聞いた。

たかまつなな
たかまつなな/大学生時代にお嬢様芸人としてデビュー。現在は、政治や教育現場を取材し、社会問題を伝える時事YouTuberとして活躍。株式会社笑下村塾の代表も務め、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届けている。さらに、「朝まで生テレビ」「NHKスペシャル」などに出演し、若者へ政治意識の向上を訴えている。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。

知識や関心があっても、選挙には行かない

ーー昨年(令和3年)に実施された衆議院議員総選挙では、高齢世代に比べて10代・20代の投票率が低い結果となりました。若者たちは政治に関心がないのでしょうか?

政治への関心度で言うと他の国と比べてそこまで低くないと思います。でも、選挙における「投票率」という形で見ると、やはり日本は圧倒的に低いです。近年実施している国政選挙では、20代の投票率は大体3割台。10代についても、選挙権年齢が18歳に引き下げになった最初の年である2016年でさえ、投票率が5割程度でした。

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日本では、選挙権年齢が18歳以上となったことを機に9割以上の高校で、政治的リテラシーや政治参加意識を育む「主権者教育」が実施されています。でも、その半数の子どもたちが選挙に行かないという選択をしているのが現状なのです。

自分の“一票の価値”を見出せない

ーー若者たちは少なくとも政治に関心があるのにもかかわらず、投票率が低いのはなぜなのでしょうか?

投票
iStock.com/mansuang suttakarn

現状の選挙制度が要因の一つとして考えられます。そもそも投票率が上がるのは、政権交代が起きたときなど“自分の一票で世の中が変わるかもしれない”という期待値が高まったとき。でも今は自民党一強で政権交代も考えにくい状態です。野党が強くなったり若者政党が出てきたりしない限りは、自分の一票に価値を見出せない若者が多いのではないかと。

また、選挙に行くにしても、判断できる材料が少ないのではないかなと。昨年、私が慶応義塾大学で非常勤講師として働いていたとき、選挙前、大学生に各党のマニフェストを読んでいるか聞いてみたことがありました。「難しくて読んでないです」という声がほとんどで。確かに9政党の何十ページもあるマニフェストを全て読んで比較するのは難しいですよね。

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そして、投票率向上の取り組みをしていて耳にするのが「私なんかが選挙に行っていいのかな?」という言葉。選挙には高い知識や教養を持った人が行くという考えを持っている若者もいます。加えて、生活の中心がインターネットで構成されている若者にとって、インターネット投票ができないのもかなり不便です。

情報発信や環境など、選挙に行きにくい状態をつくってしまっているのも、10代・20代の投票率の低さにつながっていると思います。

一方で、10代・20代の若者自身の当事者意識の醸成も課題で。「国が選挙に行きたい気持ちにさせてくれないから行きません」という若者もいる。社会の一員として社会に積極的にかかわる姿勢を育成する「シティズンシップ教育」や「主権者教育」の必要性が高まっていると感じています。

ルールや世界を変えることへの抵抗感をなくす

ーー若者たちが政治や選挙をもっと身近に感じるためには、どうしたらいいのでしょうか?

今あるルールや世界を変えることへの抵抗感をなくすべきかと。自ら考え主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力を育む「エージェンシー教育」を根付かせていくのも方法の一つです。

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今の日本では、変えないことが正義という風潮がありますよね。変えて不具合が生じるなら変えないほうを選択する。でも、ルールなり世界の行く先なり、すぐに正解を導き出すことは難しくて。だからこそ、トライ&エラーを繰り返しながら、みんなで考えてつくることが大切なんですよね。「ルールだから守らないといけない」ではなく、それが自分たちのためになっているのか考え続けてほしい。

また、日本では、政治について対話することをタブー視している風潮がいまだにあります。例えば、9割以上の高校で「主権者教育」を導入しているというお話をしましたが、そのうち具体的な政治イシューに触れた授業を展開している学校は3割程度しかない。

そこには、学校の先生が政治的中立性を侵したとみなされたときに、罰則規定があるがゆえの難しさがあります。でも、学校の先生に罰則規定があるのは、主権者教育が進んでいる国ではあまりないんですね。

そういう現状も踏まえて、「主権者教育」をブラッシュアップしたり、時代に合わせて政治にまつわる教育を柔軟に変化させたりする必要があるのではないかと思います。

授業のようす
iStock.com/recep-bg

家庭で政治的中立性は必要ない

ーー政治について対話することをタブー視している風潮がある中、家庭での政治教育の難しさを感じます。親の主張や思想を押し付けることになってしまわないかという不安も。政治的中立性を確保したうえで、家庭ではどのような政治教育を行っていけばよいのでしょうか?

そもそも、家庭で政治的中立性を保たなければいけない理由って何でしょうか?家庭内外にかかわらず、本当の意味で政治的中立性を確保することはできないと思うんですよね。

政治的中立性を意識するよりも、家庭では自分の意見を言ったり、他人の意見を聞く機会をつくることのほうが大切。「私はこう思うけど、あなたはどう思う?」と親も意見を言いつつ、子どもの意見も聞いてみる。

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子どもって思っているよりも素直じゃないですよ。親が野球好きだからって子どもが野球好きになるとは限らないし、野球好きという点では一緒でも、親は巨人ファンで子どもは阪神ファンというご家庭もありますし。

いろんな意見を聞くというのは政治の話も同じで、まずは家庭から政治にまつわる対話をタブー視せずに取り入れていくことも大切だと思います。

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幼少期から家族以外のコミュニティと触れる

ーーたかまつさんは投票率向上に向けての取り組みなど、社会的な活動を積極的に実施されていますね。幼少期のご両親との関わりで、今の活動につながるルーツはありますか?

毎年お正月に親戚一同が集まる会があったのですが、今年一年の政治情勢や国際情勢の話をみんなでする時間がありましたね。他国の話になったら、そういえばあの国ってどこにあったかなって話になり、祖父が地球儀を持ってきてどこにあるか一緒に探してくれたりとか。この会に参加すること自体は、憂鬱だったんですけどね(笑)。

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分からないことがある状態を恥ずかしいと思わない姿勢は、両親はもちろん、親戚と接する中で養われたと思いますし、意見を言うことに対して、褒められることも否定されることもなかった。幼少期からそれが当たり前の空気感だったのは大きいですね。

私の場合は、両親が社会と触れる機会をつくってくれていたのも大きいです。体験教室からゴミ拾いイベントなどのボランティアまで、家族とは異なるコミュニティの中で、たくさんの経験をしました。実際に体験する中で、ゴミ拾い楽しいなって単純に感じたり、それがいつの間にか、何かの役に立ちたいなって気持ちに変わったり。実体験から得られることって多いと思います。

ゴミ拾いをする子どもたち
iStock.com/recep-bg

選挙に行かないリスクを可視化する

ーー投票率の向上に向けて、今までさまざまな取り組みをされてきたと思いますが、子どもや10代・20代に好評だった取り組みは何ですか?

一つ目は、お笑いを取り入れることで政治に対する敷居を下げ、楽しく学んでもらう活動です。教材を台本化し、それをもとにお笑い芸人さんに進行してもらう形で、全国の学校で出張授業を行っていて。今まで6万人くらいの子どもたちに授業を届けました。楽しく学ぶことができれば、より政治を身近に感じられますよね。

出張授業のようす

二つ目は、選挙に行かないとどのように損をしてしまうのか、可視化すること。

「選挙に行くことで明るい未来が作れる。だから選挙に行きましょう」って、選挙に行かない若者からすると、きれいごとにしか聞こえない。東北大学大学院経済学研究科・吉田浩教授の「2019世代別の投票率の格差と若年世代の財政的負担と受益について」によると、若年世代(49歳以下)の投票率が1%下がった場合、その世代が受けられる給付と負担から試算すると78,000円損をするというデータも。より具体的な情報で損得を伝えるようにしています。

また、もっと損得を分かりやすくするために「逆転投票シミュレーションゲーム」というものを作りました。ある議題に対して多数決をとっていくのですが、最初は一人100ポイントずつ与えられた状態で、でもそこに各世代別の人口比や投票率から算出したポイントを足していくと、多数決の結果が逆転してしまうというゲームです。ゲームを通して、投票に行かないことのリスクを感覚的に知ることができます。

出張授業02

三つ目は、政治について知識がない人でも分かる教材をつくったり、政治について楽しく話せる場を設けたりすることです。教材として「悪い政治家を見抜く人狼ゲーム」というものをつくりました。人狼ゲームをモチーフに、政治について議論するゲームです。ディスカッションとかディベートの場合だとどうしても知識を持っている子がたくさん話をして、それ以外の子は蚊帳の外になってしまうことがあります。

でも人狼ゲームの場合って、理詰めの子と感覚の子がいるんですよね。政策について思考を巡らせる子もいれば、「なんか今のまばたきおかしい!」って挙動に対して指摘する子もいたり(笑)

感覚で感じ取るのも大事だなって思ってて。政治家を見抜くときってマニフェストも重要だけど、街頭演説中の野次にどう向き合っているかとかを見ながら、この人は信用できるのかな?って視点でみることも必要だと思っています。

そういう分かりやすい教材を使いながら、“政治について話すのが楽しい”という、成功体験ができる場を提供するようにしていますね。

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政治のニュースを“点”ではなく“線”で届ける

ーー今後はどのような取り組みを考えていますか?

日本は世界と比べて政治教育の分野で遅れをとっていると思うので、「主権者教育」や「シティズンシップ教育」に力を入れないといけないなと大前提思っています。同時に、政治のニュースを“点”ではなく、“線”で伝えることが必要。例えば、そもそも各党が目指している世界ってなんだっけ?のような、そもそも論をぶつけて届けるニュース・企画など。私のYouTubeチャンネルでやっていきたいですね。

また、YouTubeチャンネルをきっかけに、若者の圧力団体をつくりたいと思っていて。というのも、若者議員が誕生することは素晴らしいことで応援したいのですが、一人でできることって限りなく少ないんですね。若者政策をあげづらいというのが現状としてあるので。そういう人たちを応援するため、また、本当に意味のある若者政策なのか監視する存在でもありたいなと。若者政策やるんだったら、たかまつななのYouTubeチャンネルに挨拶にいかないとめんどくさいことになるぞ、みたいな。

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そういう風に思わせて、しっかりと若者にとって不利になりそうな政策が通らないように声を上げていく。声を上げられる体制をつくりたいなって思っています。

諦めたら社会は変わらない。大人は子どもの伴走者に

ーー最後に、子どもに「選挙に行く必要はあるの?」「選挙ってなに?」と聞かれたとき、親としてどのように答えるべきか悩むことがあります。たかまつさんはどう答えますか?

私は行ったほうがいいと答えますね。選挙とは何かというと、社会にはいろいろな決め方があって、日本の場合は「民主主義」という形をとっているので、みんなで話し合って多数決で物事を決めてないといけないわけですよね。

例えば、何もルールがなくて殴り合って決める場合。これは「無政府状態」と言います。江戸時代のように将軍が決めた掟に従って物事が決まる場合。これは「独裁政治」ですよね。

民主主義の場合、多数決で話し合うと言えど、日本に住む約1億人全員で話し合うことは不可能です。1億人では話せないから代表者を選ぼう、というのが選挙。だからぜひ、この人だったら自分の代わりを託してもいいっていう人に一票を入れてほしいです。

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また、昔からみんながみんな選挙権を持っていたわけではありません。昔は富裕層の男性のみ与えられていた権利でした。平等にみんなが選挙権を持てるように一生懸命活動した人がいる。先人が苦労して得た権利をぜひ活かしてほしいと思いますね。

そして、保護者の方にお伝えしたいのは、子どもたちが未熟であるのは当たり前だということ。だから、子どもに対して不勉強だとかそんなの意味ないよと、考えを押し付けるのではなく、だったらどういうことができるかな?と背中を押してあげるような形で寄り沿ってあげてほしい。

それが、まずは選挙へ行ってみようかもしれないですし、地元の政治家に連絡してみようかもしれないですし。

諦めたら社会は変わらないので、保護者の方にはぜひ、子どもたちの伴走者になってほしいなと思います。


<取材・執筆>KIDSNA STYLE編集部

2022.07.06

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