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【ウガンダの子育て】オープンに開かれた大規模な「家族」の形
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さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、ウガンダで子育てをしながら会社を経営する岡野あさみさんに話を聞きました。
世界的に子どもの人口が多いことで知られるウガンダは、2019年のグローバルノートのデータによると、世界で5番目に子どもの割合が多い国。
またTHE WORLD BANKによると、女性が生涯に産む子どもの数(特殊出生率)は2018年時点で4.96人。しかし、0〜4歳の乳児死亡率は高く、特に村落部での出産は母子ともにリスクが高いようです。
そんなウガンダで夫婦でカカオとバニラの農園と製造の事業を行う岡野あさみさんは、第二子を出産したばかり。ウガンダでの子育てにはどんな特徴があるのでしょうか。
共働きでも子育ては女性の仕事
首都カンパラに住む岡野さんは、出産の環境は首都と地方の村落部で大きく変わると話します。
「第一子、第二子ともに帝王切開で出産しましたが、麻酔専門のドクターもいましたし、病院の施設は整っていました。
手術中に、ドクターが『3人目は予定しているのか?』と聞いてきたのは、子どもを多く持った方がいいという価値観のあるアフリカらしいですよね。
子どもがいない時も長男を生んだ後も、次はいつ産むのか、何人子どもほしいのか、といった質問を受けるのは日常茶飯事で、日本ではあまりない光景なので最初は驚きました。最近は都市部では子どもが2~3人の家庭も増えてきましたが、地方では、年が10歳以上離れているきょうだいや、高齢出産も珍しくありません。
しかし地方の村落部は、都市部とはまた違う問題を抱えています。
病院が極端に少なく、遠方であることがほとんどなので、医療へのアクセスが困難になっています。陣痛が始まってから、何時間も歩いて病院に向かうなんてこともあります」
「首都で暮らす外国人の家庭では、ベビーシッターをお願いすることが普通で、うちの場合は、お手伝いさんとベビーシッターさんの2名体制で子育てを手伝ってもらっています。
我が家では、お手伝いさんには基本的に、掃除・洗濯などの家事を中心にお願いし、ベビーシッターさんには子どものお世話と料理を担当してもらっています。
日中は仕事があるので、ベビーシッターさんには授乳後の寝かしつけや、オムツ交換、沐浴などの授乳以外すべてをお任せ。離乳食が始まるとそれも作ってくれるので、とても助かっています。
うちでは日本人の夫との育児分担は明確にはなく、手が空いているほうが臨機応変にやるという感じです。しかし一般的なウガンダ人の家庭では育児や家事は基本的に女性の仕事という考えがまだ根強く残っています。
若い世代で育児家事を手伝う男性もいるとは聞きますが、まだまだ珍しいようです。
日本に比べ、定職を持つことができる機会は圧倒的に少ないので、男性が働くことが多いということはなく、仕事がある方が働くといった形です。
都市部では会社勤めをしている人もいますが、村落部では小売業や農業、修理工やテイラーなどの仕事をしている人が多いです。ミシンを踏む母親のまわりで子どもが遊んでいるのはよく見られる光景です。
都市部で収入に少し余裕があると、お手伝いさんやベビーシッターさんを雇っている家庭も多く、育児を旦那さんにお願いするよりそちらの方が一般的と言えます。
もともとウガンダでは、母親ひとりが赤ちゃんの子育てをするのではなく、周囲の大人や年上の子どもが一緒にお世話をする文化があります。
母親が赤ちゃんと離れて働くことが多い都市部では、ベビーシッターを頼むのは珍しいことではないのです。親戚や知人の若い女性に住み込みで子育てを手伝ってもらっている母親も少なくありません」
みんなで子育てをするアフリカらしい文化
一方で、特に地方部では、一緒に暮らしている、あるいは近所に住んでいる親族家族が多く、村や集落などコミュニティみんなで子育てをしている光景をよく見ると岡野さん。
「みんな、自分の子どもと同じように他人の子に接するので、村落部では誰が本当の母親なのか最初はわからないことも多々あります。
本来なら従兄弟関係や血のつながりのない子ども同士でも、地縁があれば兄弟のように育つことも普通ですし、『家族』や『うちの子・よその子』という明確な線引きがいい意味であいまいだと感じます。
家族の団らんの場所も、屋内ではなく、集落にある大きなマンゴーの木の下だったりすることも影響しているのかもしれません。家族という単位が常に外に開かれていてオープンな状態で、人の出入りも頻繁です。
我が家も、そんなウガンダの子育てのいいところを見習って、みんなで子どもを育てる方式を導入しています。
家とオフィスが一緒なので、第一子の出産後2か月目から1歳前まで、授乳しながらフルで仕事をできる環境を整えました。
日中はベビーシッターさんやお手伝いさんにお世話してもらい、ランチの時間になると、子どもはスタッフルームに連れていかれてみんなに遊んでもらっています。
友人宅でひらかれるバーベキューや、レストランに外食に行っても、友人たちやレストランのウェイターさんも子どもの面倒を見てくれたり、仕事のミーティングに連れて行っても、むしろ相手が喜んで抱っこして話し合いを進めるぐらい、みんなが子どもをかわいがってくれるので本当に育児しやすい環境です。
家事も料理以外はお手伝いさんにお願いできるので、フルタイムで働いていても仕事以外の時間はしっかり子どもと関われる時間を確保できます。
しかし一方で、ウガンダは、しつけは厳しい方です。小さい子でも泣いていると容赦なく怒られますし、日本のスーパーでお菓子を買ってほしくて駄々をこねる、といった場面はウガンダであまり見たことがありません。
3~4歳でも家のお手伝いをするのは普通で、年齢の上の子どもは、弟や妹の世話をするのも当たり前。兄弟が多いので育児も家事も多く、それを家族全員で分担しています。
子どもが悪いことをしたら、自分の子どもでなくても真剣に叱ります。家事の手伝いもかなり早い時期から内容を教えていきます。
ウガンダでは伝統的に年齢や属性ごとにグループを形成するので、子どもにも『子どもだけの世界』が存在します。食事をとるのも家族同時にではなく、まずは男性や年長者グループ、そのあとに子どもや女性グループといった具合です。
そのグループの中でうまくやっていくためには幼い子どもでも社会性が必要なので、必然的にしつけや礼儀を重んじる風潮があるのかもしれません」
子どもを産み育てることこそが“Life”
「ウガンダではまだ医療制度などが整っていないがために、残念ながら病気などで命を落とす乳幼児の数も少なくありません。近代化が進み家族計画の概念も普及しつつありますが、村落部ではまだまだ、できるだけ子どもが多いほうが人生が豊かになる、という価値観が根付いていると感じます。
国全体で見ると、都市・地方、貧富の格差によりさまざまな状況があります。しかし子どもを皆で育てるという共通認識は変わりません。
赤ちゃんは皆に愛情を注がれ、母親はもちろんのことたくさんの大人や子どもたちと接しながら成長します。決して過保護というのではなく、多くの人に見守られながら、赤ちゃんは屋内外問わず自由にのびのびと動き回ります。
ウガンダでは、子どもを産み育てることはLife(命、生き方、人生)そのものであり、自分の老後や未来につながるすべてを含んでいるといった価値観が根底にあります。
私が2010年にNPO主催のワークキャンプに参加した際に、『結婚予定の相手が子どもを産めないとわかったらどうするか』という議題になりました。
日本人のほとんどはそれでも結婚すると答えた中、ウガンダ人の若者のほとんどがその相手とは結婚しないと答えました。理由は、子どもを産むことは“Life”だから、それができないとなるとどんなに愛していても難しい、と。この答えに当時、すごく驚かされました。
子どもを持つことが当たり前すぎるという文化もありますが、政府による年金や医療保障などがあっても、それを毎月払える人が少なかったり、数十年後それが本当に支給されるか信用していない人が多いのもウガンダです。そうした包括的な理由から、子どもが老後の支えという考えも根強くあるように感じています」
<写真提供>桜木奈央子
<取材・執筆>KIDSNA編集部