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【りゅうちぇる】新旧の価値観が混ざった社会で自分らしく生きるには
子どもをとりまく環境が急激に変化し、時代が求める人材像が大きく変わろうとしている現代。この連載では、多様化していく未来に向けて、これまで学校教育では深く取り扱われなかったジャンルに焦点を当て多方面から深掘りしていく。今回は、タレント、歌手、モデルと多方面で活躍する、りゅうちぇるさんに話を聞いた。
2019年の内閣府が発表した「令和元年版 子供・若者白書」の2018年11~12月に満13~29歳までの男女を対象に実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、日本の若者の自己肯定感が諸外国の若者に比べて低く、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの若者の回答と比較するともっとも低いことが分かった。
これによると、自分自身のイメージの中で、「自分自身に満足している」と「自分には長所があると感じている」に「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答した者の割合は、それぞれ45.1%と62.3%であったが、この割合はいずれも同様の回答をした諸外国の若者の割合と比べて低かった。
前編で、“男らしく”振る舞い、ありのままの自分を隠し続けた中学時代を告白し、「自己肯定感を持つことが個性を貫く力になり、行動力の源となった」と語るりゅうちぇるさん。
子どもの自己肯定感を育て、そして守っていくために、保護者としてどうあればよいのだろうか。
親からの言葉が自己肯定感の土台を作る
――子どもの頃のりゅうちぇるさんに、お父さんとお母さんはどのように接していましたか?
「両親の愛がとても大きかったなって、自分に子どもができてから特に感じます。常に『大好きだよ』『りゅうを妊娠したときや生まれてきてくれたときとても嬉しかったんだよ』と言葉で伝えてくれていました。
人形で遊んでいることをからかわれたり、落ち込んだりするときでも、『りゅうはりゅうのままで素敵』と言ってくれる両親がいるから、自分はこのままでいいんだなって思えたんです。
自分が生まれてきたことをすごく幸せに感じている人がいる、自分がただ生きて健康でいるだけでこんなに喜んでくれる人がいる、ということを両親が教えてくれたからこそ、自分でも自分を好きでいられたんだなと思います」
――家庭によっては、親の方が「男の子なんだからこうしなさい」と制限をかけてしまう場合もありますよね。
「まだ小さかったから『いつか変わるだろう』という気持ちもあったみたいです。中学2年生でメイクを始めた頃から『あれ?大丈夫かな?』と感じてはいたようで、テレビに出るようになったときには『あんな派手な服装やメイクして大丈夫なの?やりすぎじゃない?』とも言われました。
でも、その言葉にも愛を感じていたし、馬鹿にしてくる友達の声とも全く違う心配の声だったから、僕も『大丈夫だよ、こういうのが流行ってるから』と自分の軸を曲げずに返すことができました。
そのうち両親も、テレビで出る僕の姿や僕のファンの姿を見て、理解してくれるようになって。大人になってから『りゅうの才能なのに止める発言をしてごめんね』と謝ってくれました」
――りゅうちぇるさん自身は、お子さんと接するときにどんなことを心がけていますか?
「親からの言葉ってすごく大事ですよね。子どもの自己肯定感を育てることもできるし、逆に何気ない一言で心を傷つけることもある。
僕が心がけていることのひとつは、両親がしてくれたように、愛を“与える”だけではなく“伝える”こと。『大好きだよ』って言葉にして、リンクのことをこんなに愛している存在がいるということを、忙しくてもサボらずに伝えるようにしています。
もうひとつは、かける言葉に気をつけること。僕は両親にすごく愛をもらったんだけど、心配しているがゆえに『普通の男の子はこんなことはしない』って言われたこともあって。そのときは『人と違う自分っておかしいんだ』ともやもやした気持ちになったのを覚えています。
親の言葉に反発して『これが僕の普通だし』って思えるのって、ある程度成長してからですよね。まだ小さいうちにそういうことを親に言われたら、子どもは『自分って普通じゃないんだ』って思うしかない。
その辛さがわかるし、自分に自信を持っていてほしいから、自分らしく生きていいんだっていう肯定的なことを伝えていきたいです」
――子育てについてぺこさんとふたりで決めていることはありますか?
「リンクには自分の好きなことをできる人生を送ってほしいし、壁にぶつかっても自信を失わず乗り越えてほしいから、自己肯定感の強いナルシストに育てようと、ぺこりんと決めています。
ファンの子たちと接していて感じるのが、自分に自信がない、将来の夢を見つけられない人が多すぎるということ。
イベントに来てくれたあるファンの子は『夢が見つからない』と言っていたのですが、すごくかわいいメイクをしていたので『メイクさんとかメイクに携わる仕事にしたら?』と返したら、『考えたこともなかった』と驚いていました。
本来は好きなことがあれば夢につながるはずが、自己肯定感が低い子は『好きだけどまさか仕事にはできない』『どうせ無理だ』みたいに、夢を実現不可能なものと勝手に決めてあきらめてしまう。それってすごくもったいないですよね」
自分への愛が溜まっていないと相手に与えられない
――お話を聞いていると、子どもの頃も、そして親になった今も、すごく愛に満ちた家庭でいらっしゃるんだなと感じます。
「自己肯定感を育てるためにもそうですが、よい人間関係を築くためにも、愛はすごく大切。人はやっぱり、自分の中をしっかり愛で満たせてから、ようやく周囲とよい関わりを持てると思うんです。
イメージしながら聞いてほしいんですけど……
僕がこのお茶のペットボトルで、入っている水の量が“自分への愛”だとして。
僕の場合は、親からたっぷりの水を注いでもらったから、それがペットボトルから溢れ出すくらいの量になって、溢れた愛を相手(水のペットボトル)に渡せる状態になった。
そして同じように親からの愛をたくさんもらったぺこりんと出会って、溢れるほどの量の愛を交換し合えたからこそ、よい関係、よい恋愛が生まれたんだと思っているんです。
これがもし、水が足りなくてペットボトルの中が半分しか入っていなかったり、空っぽの人同士だと、お互いに『愛をちょうだい、ちょうだい』という状態で、依存しあってなかなかうまくいかないですよね。これは誰にでも言えることじゃないかと思います。
まず親からの愛で満たして、そして自分自身を愛せるようになって。そうやって自分の器から愛が溢れるくらいになれば、『この人は愛がたっぷりある』って気づいて近づいてきてくれる人がいる。愛からくる自信は行動力につながり、夢を叶えたり運を味方につけることもできる。
マジョリティでもマイノリティでも、どんな肩書きがあったとしても、人生を自分らしく生きるためのベースにはやっぱり愛があると思うから、親は子どもが自己肯定感の土台をつくれるように、愛で満たしてあげなきゃと思います」
子どもは新しい価値観と古い価値観の混ざった社会に出ていく
――これからどんどん多様化していく社会で生きていく子どもたちに、伝えたいことはありますか?
「いろんな人がいて、いろんな形の考えがあって世界が回っているということですね。
ダイバーシティという面では、LGBTが当たり前に認知される一方で『同性愛は理解できない』『ゲイなんて、レズビアンなんて』という人はこれからもいると思います。
それだけでなく、僕みたいに女の子が好きだけどかわいいものが好きという人がいたり、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーだけじゃなくて、自分がどんなセクシュアリティか分からないクエスチョニングの人もいて、本当に一人ひとりの個性。
だから『別にゲイでもレズビアンでもオッケーでしょ』って軽く言うのではなくて、さまざまな色の人がいるということを認め合うのが本当のダイバーシティだと思っています。
だけど実際には、まだまだ昔の価値観が残っているなと感じたこともありました。僕とぺこりんがSNSで妊娠を発表したときに、『親になるなら黒髪にしなきゃいけないね』『パパになるんだからメイクもしない方がいい』ってコメントが来たんです。
僕もぺこりんも思いもよらない考え方だったので、すごくびっくりしたと同時に、リンクはこれからそういう価値観も存在する世界に飛び立っていくんだなと思いました。
僕自身は芸能という個性が認められやすい世界で活動していますが、正直僕たちが『個性が大事』なんて言ったって、『いや私たち一般人だからりゅうちぇると同じようにはできないんだよ』っていう人たちもいっぱいいるじゃないですか。一般社会とはどうしてもギャップがある。
いろんな価値観や意見が混在する中ではやっぱり、否定的な声も出てきます。だからこそ、肯定派も否定派も含め、いろんな考えがあるということを受け入れられるように、自分のことを自分が愛して、守ってあげるっていうことが大事になるんじゃないかと思います」
――りゅうちぇるさんのファッションやメイクはパパになって大きく変わった印象はありませんが、それはこれからも変わらないですか?
「やっぱり誰かの目を気にしている親に何かを教えられるのも嫌だと思うし、自分が生きたい人生を生きて、偽りのないキラキラした自分でいる僕の姿を見て、『自分らしく生きた方が幸せなんだ』と学んでほしいと思ってます。
ただ、言動だけは気をつけようねっていうのは、子どもが生まれるときにぺこりんと決めました。僕のことを否定したり馬鹿にする声があったとしても、僕はもういちいち傷つかない。芸能人としては興味を持たれなくなったら終わりだから、注目してくれてありがとうっていう気持ちを持てます。
でも息子はそうじゃないですよね。息子は一般の子として生きていくわけだし、『パパとママがこんなこと言われてる』って傷つけたくないっていう気持ちがあるので、今後も自分らしく仕事をしていくけど、言動だけは注意しようって心がけています」
――単純に自分らしくいるだけでは難しい場面もあるということですね。
「そうですね。やっぱり能天気に生きていそうな夫婦に見られがちなので、毎日いろんなことを言われているし、なめられやすいんですよ。
そういう中でも自分らしく生きていくって、実は相当勇気がいるんです。だからそこに自分も誇りをもって、それでも自分らしく生きてる姿を見せたいなって思います」
自分の生き方が多様性実現のきっかけになってほしい
――SNSを見ていても、“普通”という概念に縛られて、自分らしく生きられず悩んでいる方はやはり多いと感じます。
「特にTwitterでは、病んでいる人が多いですよね(笑)。だから僕は、自己肯定感を高められるような動画を投稿するようにしています。『お風呂はいりたくなーい』『今日も僕かわいい』って、ちょっとくすくすって笑えて、『今日は私もサボっちゃおう』『自分のこと褒めてみようかな』ってきっかけになったらいいなと思っています。
あと、SNSにメイク動画を投稿したときも、30代や40代の女性の方から『私もりゅうちぇるのようなメイクがしたい。でも周りにどう思われるかと思うと怖い』という声がすごく来るんですよ。僕は年齢で判断したりしないけど、でもそういう風にみられるのが怖いって気持ちも分かります。
だからこそ、そういう風に年齢や性別に限らず『自分の好きなことをやるのがかっこいい』っていうような世界観を、何らかの形で表現出来たらいいなって考えています。
今考えているのは、女性も男性も、若い人も高齢の人も、性別や年齢問わず起用したダイバーシティなメイクアップブランドをつくること。自分の世界観を表現するために『これならできるかも』って思えるような、試しやすくて手に入りやすいものをイメージしています。
ダイバーシティについてただ理想を語るだけではなく、一人ひとりの行動のきっかけをしっかり作るってことが時代を変えるためのやり方だと思っているので、僕は大好きなメイクを通じてそれを実現したいです。
僕が『男の子でメイクをしていて、でもパパでもある』という自分自身について発信することで、多様性を表現できる今だから、みんなが僕を見て勇気を持てるような存在になれたらいいな。
世の中にはいろんな人がいて、その中で自分自身を見つめてみてねって思う。みんなが自己肯定感を持って、自分らしく生きるために一歩踏み出せるようにがんばっていきたいです」
<撮影>松元絵里子
<取材・執筆>KIDSNA編集部