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世界で異なる「才能はみだしっこ」の育て方
ある分野での才能を秘めた「才能はみだしっ子」と呼ぶ著者。日本では「空気が読めない」「困った子」「問題児」としばし扱われることのありますが、才能を伸ばそうと模索する世界各国の教育の今と、事例をもとに彼らの特性と向かい合うヒントを紹介した一冊です。
さまざまな情報が溢れる現代。子育てに真剣に取り組むが故に「うちの子は普通ではないのではないか」「もしかすると発達に問題があるのではないか」「どう接すればいいのか分からない」と悩む保護者は多いのではないでしょうか。
この本のポイントは親なら誰しも感じたことのある子どもの不可解な行動の数々と、その行動の裏側にある子どもたちなりの理由と対策が紹介されているため、才能はみ出しっこの親のみならず、子育てをするすべての親にとって参考になる内容となっています。では著書の一部を見ていきましょう。
ギフテッド・チルドレン=才能はみだしっ子
「ギフテッド・チルドレン」、「才能児」という言葉を耳にしたことはありますか?そう呼ばれる子どもたちは、一つもしくはいくつかの分野に突出した能力を子どものことです。そこで、私はこうした子どもたちのことを「才能はみだしっ子」と呼ぶことにしました。
ギフテッドについて日本ではまだほとんど知られていないために、「変わっている」「空気が読めない」、ときには「困った子」「問題児」として扱われているように感じました。
本書では私が2年間で国内外を駆け足で回り、研究者・教育者・支援者・子どもたち・保護者とお会いして集めてきた情報をまとめてご紹介しています。
世界の才能はみだしっ子教育の違い
才能はみだしっ子が活躍する分野は多岐にわたる
ギフテッド教育が進んでいる国では、才能はみだしっ子の突出した能力が発揮される分野に合わせた教育を行っていますが、その分野は国により異なります。
40年以上のギフテッド教育の歴史がある台湾では、下記のように分類しています。
- 一般的に優れた知力(記憶、理解、分析、推論、評価など)
- 学術的才能(語学、数学、社会科学、自然科学)
- ③視覚・芸術的才能(発見、発明、課題解決など)
- ④創造的才能(発見、発明、課題解決など)
- ⑤リーダーシップの才能(計画力、組織力、コミュニケーション力、調整力、意思決定、および評価力)
- ⑥その他の分野の才能(体の動き、楽器の演奏、情報科学、スポーツ、チェス)
また、米国では初等中等教育法で左記のように、対象となるギフテッドの子どもたちを定めています。
「知的能力、創造的能力、芸術的能力、リーダーシップ能力、または特定の学術分野で高い能力を発揮する証拠を示し、十分にその能力を発達させるために学校で通常提供しないサービスや活動を必要とする学生、子ども、若者(※1)」
※1 National Association for Gifted Children
国により違いはありますが、このようにとても広い分野での能力を対象としています。また、対象分野が国ごとに定められているので、ギフテッドの子どもたちを見つけだす方法も国により違います。お気づきかもしれませんが、対象分野の範囲はIQだけでは測りきれないほど広いのです。
才能はみだしっ子が自分自身についてよく知る必要性
海外の教育者や研究者によって、ユニークな性質をもつ才能はみだしっ子たちには、彼らに合った教育を提供することが必要だと考えており、さまざまな研究や教育が進められています。
たとえば、米国やニュージーランドには、才能はみだしっ子がお互いの性質から学び合うための特別プログラムがあります。普通学校では個性がきわ立ち、周りに似たような友だちが見つかりにくいため、孤立してしまいがちな才能はみだしっ子たち。
そんな子どもたちを集めて、「才能はみだしっ子らしさって何だろう」「どうやってほかの子どもたちとも一緒に過ごしていけばいいのだろうか」「どんな大人になれるのだろう」と一緒に考える場です。個別の興味や関心の対象を深堀りする学習の場ではない点が特徴的です。
そのような場で、自分に似た仲間と出会うことで、「自分はこの世界でたったひとりりきりの変わり者ではない」と感じられ、孤独から抜け出すことができます。
また、似てはいてもそれぞれ異なる個性的な才能はみだしっ子たちと一緒にいることで、自分の性質や友達との付き合い方に気づくこともあります。
国によって異なるギフテッド教育
大学進学率82%のアメリカ・ワショー郡のギフテッド教育
19世紀にギフテッド教育の規定がはじめて設けられたといわれている米国。州ごとに独自のギフテッド教育の導入内容は大きく異なります。
WCGTC世界大会でお会いしたネバダ州のワショー郡学区のギフテッド&タレンティッド教育担当者によると、「ネバダ州ではGATE(ギフテッド・タレンティッド教育)プログラムという特別プログラムを、学力の上位約3%の生徒を対象に提供している」と話してくれました。
選ばれた子どもたちは異なる年齢と異なる能力レベルに合わせて、8種類の学力向上プログラムと、ギフテッドの子どもたち向けに設計された社会情緒面での指導と少人数グループによる300を超えるレッスンを、約160名の認定教師から受けることができます。
ワショー郡の2016年のギフテッドの子どもたちの大学進学率は82%。この数字は同年の全米大学進学率の70%(※2)を大きく上回り、ギフテッド教育によって子どもたちの学習意欲が満たされていることを、数値で示していました。
※2 National Center for Education Statisticsの統計情報より。
あえてギフテッドであるかどうかにはこだわらないニュージーランド
現在、マッセイ大学(※3)の教授になったトレイシーによれば、ニュージーランドのギフテッド教育ではじめに政府が行ったことは、ギフテッドの子どもの特徴と配慮の仕方を説明したガイドラインを作成し、教育機関に配布することでした。
※3 ニュージーランド北島パーマストントスにある、国内最大の学生数をもつ国立大学
ガインドラインにより、教員がギフテッドの子どもの特徴を知ることで、「対応に手がかかる難しい子ども」として扱われていた子どもたちを見る目が変化したそうです。
ニュージーランドでは現在、幼稚園からギフテッドの子どもへの対応が行われ、さまざまな支援活動が支援者同士お互いに協力して、ギフテッド教育コミュニティを形成しています。
その支援活動とは、小学校以上ではギフテッドの専門教師が公立校を巡回、週1回の校外特別プログラムの提供(※4)、飛び級制度もあり学齢を超えたギフテッドの子どもだけの私立の専門学校の設立(※5)、ギフテッドの保護者・教員・子どもたちのための慈善団体(※6)、心理カウンセリング機関との連携(※7)などです。
※4 New Zealand Centre for Gifted Education が提供する MindPlus Programme
※5 私立の専門学校 AGE School
※6 New Zealand Association for Gifted Children
※7 Indigo Assessment and Counseling
この校外特別プログラムとは、学習する場とは異なり、子どもたち自身がギフテッドとしての特性を理解し、自己を受けいれ、自らを活かす方法を身につける学びの場というユニークなものです。
ニュージーランドのギフテッド教育について、とても興味深いと思った点は、米国出身のギフテッド教育の専門家が、診断テストと条件によりギフテッドの子どもを見つけだす傾向がある米国のやり方をそのまま踏襲しなかった、ということ。
そして、ギフテッドのプログラムが受けられるかどうかの許可は、保護者・教員・友人・本人の推薦によって得られるようにしているという点でした。
診断テストを導入しなかった理由は、ギフテッドの子どもは性質が多様で、その特徴が現れる年齢も異なるので、ある年齢で切り出すことをすると、その条件の範囲にたまたま合致しなかった子どもを取りこぼすことになるから、というのです。
厳密にギフテッドであるかどうかにこだわるよりも、ギフテッド向けのプログラムに参加したいのであれば、学校に相談して、週1回の特別プログラムに参加することができ、もし合わなければ普通学級に戻ることもでき、柔軟に対応しているとのことでした。
才能を伸ばすことだけではない支援を模索するスウェーデン
スウェーデンでは、1994年に欧州理事会がギフテッド教育の重要性を提案したこと、国際学力調査(PISA)の結果への危機感などからギフテッド教育の重要性を検討し、高い才能をもつ子どもへの教育の必要性が教育法(※8)で触れられるようになりました。
※8 2010年、教育法第3条3項
現在は、一部の義務教育である基礎学校と高等学校で「最先端教育(※9)」として、スウェーデンの国立教育庁に認可されたNPO法人スウェーデン・エクセレンス協会が理論系コースの活動の90%を担い、試験的に導入を始めています。
※9 Spetsutbilding スウェーデン・エクセレンス教会(名称は著者の意訳)。2009年に発足、2018年にNPO化。
「最先端教育」では、まず理論系として自然科学、数学、社会科学、テクノロジー、人文科学(言語・歴史)のコースが始められ、2012年秋にその試行結果が評価されます。
次に芸術系として、クリエイティブ・デザイン、音楽、ダンス、演劇コースが、続いて始められましたが、これらは試行ではなく実運用が認められています。
また、学齢を超えて学びを進めたい子どもたちのために、選ばれた学校のみですが、飛び級が適用されています。同じ学校内の学年超えだけでなく、中学校から高校へ、高校から大学へというように上位の学校レベルへの編入も許されています。
ギフテッド教育の歴史が長くないスウェーデンは、施行後、本格導入の判断時までにどのような情報が集められ、どのような判断基準で運用されていくのか見守っていきたいところです。
ギフテッド教育の世界基準は、まだない
各国には、古くからある思想や教育に対する考え方の違いなどがあります。WCGTのメンバーや世界会議の参加者は「ギフテッド・チルドレン」という教育面・精神面でサポートを必要とする子どもたちが存在することを共通の認識として共有しながら、各国が自らの文化に合った支援の仕方を模索し続けているのです。
各国の試行錯誤の家庭から相互に学び合っているのであり、教育は社会の変化とともに柔軟に変化するもので、世界に1つの規範となるような解答はないのだと理解しています。
日本の才能はみだしっ子が幸せになるために
世界では、さまざまな才能はみだしっ子のための教育手法がその国の文化や習慣に合わせて実践されています。通常の学校の教室での個別カリキュラム、平日の授業時間内に提供される校内外のの特別クラス、科目の飛び級、学年の飛び級、放課後・週末に開催されるイベント、サマースクールやキャンプなどなどの課外活動、才能を発揮できる場としてのコンテストの開催などです。
日本の場合、「才能はみだしっ子」向けとは定義されていないのですが、学齢を超えた少人数の学びの場を提供する学校が創立され、特色のある学校がつくられ始めているという話題が全国各地でニュースになっていす。また、通常の授業内容を超えて学びたいことを学べる学校としてスーパーサイエンススクール(SSH ※10)、ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)拠点校(※11)、国際バカロレア認定校(※12)など、特色のある文部科学省が認定した中高一貫校・高等学校もあります。
※10 https://www.jst.go.jp/cpse/ssh
※11 https://b-wwl.jp
※12 1968年にスイス・ジュネーブで設立された非営利組織・国際バカロレア機構(IBO)が認定する教育プログラムのこと。
才能はみだしっ子が力を発揮できる教育の選択肢は増えてきています。迷ったら情報を取り寄せる、見学や体験をしてみることをおすすめします。